第15話 地下
◆
目が覚めると、視界がぼんやりとしていた。少し、頭が痛い。
ベル様は? そして、ここはどこなのでしょうか。
起き上がろうとしたが、自分が縛られていることに気付いた。そのお陰で、また攫われてしまったのだと理解する。でも、殺されてはいないようで、ホッとした。
とにかく、目を覚まして周囲の状況を確認したいわ。そう思いながら、目をパチパチさせて、眠気を少しでも飛ばそうと試みる。
少しずつ、視界がはっきりとしてきた。どうやら、見たところ物置のようだ。多くの木箱が置かれている。見渡す限り、この部屋に人気はなさそうだったが、隣の部屋らしき場所からうめき声が聞こえる。もしかしたら、自分以外に攫われている人が隣の部屋にいるのかもしれない。
とにかく、ここがどこなのか。どうすれば脱出できるのか。そこを考えなければならなかった。ここでジッと待っているだけでは、以前の時の家族のように、殺されてしまうかもしれないから。
縛られているが、体をどうにか捻り、ポケットからブラックボックスを落とす。それを、後ろで縛られている両手でつまみ、ベル様が染み込ませてくれていた闇を流す。
すると、ブラックボックスは闇で作られたナイフへと姿を変えた。それを使い、縄を切り、自由を得る。もう、二度と同じことにはなるまいと、決心して品選びをした甲斐がありました。
けれど、これを出したままにしていては、眷属であるということがバレてしまう。そう思い、すぐにブラックボックスに戻して、ポケットに再びしまった。
これからどうするのか。それは、決まっていた。
内ポケットの方にしまっているブラックボックスを取り出す。これには、「
これを外に逃がすことができれば、ベル様の元へと飛んでいくはず。
あとは、どうやって闇烏を起動させ、外へと放るかが問題である。
この部屋の扉は閉じていて、外の様子が分からない。扉を不用意に開けてしまい、犯人と遭遇することだけは避けたい。
また、いざというときのための武器も欲しい。闇のナイフを使うのは最終手段だ。使うだけで、眷属だとバレてしまいベル様に迷惑がかかってしまう。
木箱や机の引き出しなどを探る。すると、見覚えがあり、武器として申し分ないものが存在した。拳銃だ。
弾は既に入っている。撃鉄さえ起こせば、いつでも撃てる状態になっている。
不用心な、と思いつつも、今はこの拳銃の存在はありがたかった。自慢げにお父様が撃ち方を教えてくれたことがあるので、撃とうと思えばいつでも撃てる。
戦いも何もかも、ベル様任せにしないために、覚悟を決めなければ。
とはいえ、ポケットに入れるのは安定しない。いざというときは、時間を止めるか何かして、拳銃を取りに来ることになりそうだと思った。気休め程度に、分かりやすいところに置いておくことにした。
次は、扉の外の状況を確認しなければならない。この部屋には窓がないから、闇烏で救援を呼ぶためにはどうしても、扉を開けて外に出なければならない。少しでも外の音が聞こえないものかと、耳を澄ませる。
すると、ドタドタと、階段を降りてくる音が聞こえてきた。ちょうど、誰かが階下に降りてきたようだ。
「レヴィン。攫った奴の輸送は順調なの?」
その声を聞いて、ハッとした。服地店の店員の声だ。
ここはもしかして、服地店の地下なのかもしれない。今閉じ込められている部屋はきっと、仕入れの品を入れておくための部屋なのだ。
「ああ。問題なく浮島に送れているよ」
浮島へ輸送? 攫った目的は、殺すためじゃないの?
前のときみたいに、能力者を探しているのかしら。
それよりも、声だ。今度は男性の声。犯人は2人以上いるらしい。
「それにしても、なんであなた、探偵の助手なんか攫ったのよ。理由を教えてちょうだい。あのあと、あの探偵がこの店に来て何か見てないか聞きに来たわ。店番が終わるまで、気が気じゃなかった」
ベル様だ。そりゃあ、気になって来るだろう。
「それが狙いだよ。あの探偵、お前を疑う可能性があったからな。お前が店番をしている間に攫ってしまえば、お前への疑いは晴れるも同然じゃあないか。心配しなくても、気付くわけないよ。俺たちが2人組だなんてな」
そういうことだったのか。付いてきたのに、ベル様の迷惑になってしまっている。
これは、私がどうにかしなければならない。
せめてベル様に、服地店へ踏み込んできても良いのだと、確証を授けなければ。
そのためには、やはりどうにかして外へ出ないといけない。
だが、時間を止められるのは五秒が限界だ。今時間を止めて外に出ても、2人に気付かれる場所で時間止めが切れてしまう。一度使えば、30秒は待たないともう一度使えない。
寝静まるまで待とうか。いや、片方を見張りにするかもしれない。
2人の位置がはっきりと分かれば、すぐにでもどうにかできるのに。
「ところで、攫った娘は今、どうなっているのさ」
「まだ寝てるんじゃないか? お前の、薬品の力を強める能力のおかげで、クロロホルムが少量でも効くようになってくれているからな。そんなに気になるなら、様子でも見たらいいじゃないか」
まずい。
「止まって」
小さな声で、時間を止める合図をする。急いで、縛られていた場所に戻った。
時間が動き出す。足音が、こちらに近付いてくる。
どうにか、切った紐を巻いて元の状態に戻った。扉が開く音がする。
少しの間。それがあった後に、扉は閉まった。
「確かに、寝ているみたいだね」
その言葉が聞こえて、心の中でホッとした。バレてない。
「しかし、そろそろ切り上げ時かな。次は別の奴にこの仕事をしてもらおうか」
「透明になれる能力を持った、貴方だからできる仕事なんだから、交代は私だけでしょ。それにしたって時間がいるんだから、もうしばらくはここでやるよ」
「はいはい」
あしらうような声が聞こえてから、足音が遠ざかっていく。どうやら、休憩のつもりだったようで、またお店の方に上がっていった。店番は終わったと言っていたので、片付けでもするのだろうか。
それにしても、上にあの女性がいる間は、闇烏を飛ばしてもすぐに捕らえられてしまう。それだけは避けたい。しばらくは、2人の動向を見る必要がありそうだった。
けれど、 だからといって時間をかけていると、いずれ私もどこかへ連れて行かれてしまう。どのタイミングで、どう動けばいいのだろう。悩みは、増すばかりだった。
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