第4話 天上人について
少し歩いてきて見えてきたレンガ造りの城は、俺を含めて四人で住むことを考えると大きすぎるものだった。山間の地に建てられており、そこまで面積がないため、4階建てになっている。
城門はいざというときの外敵を想定しているのか、頑丈そうな雰囲気を感じた。他の城と比べたとしても、遜色はなさそうに思える。
城門から城に入り、玄関ホールを歩く。バークのお陰で明るく照らされているが、一人の場合は蝋燭がなければ歩きにくそうだった。階段を登り、2階に着くと「3階まで登ると、寝室がある」と教えてくれた。ひとまず、姉さんは団欒ができる場所に案内してくれるつもりのようで、階段は一旦通り過ぎた。
すると、1つの部屋に辿り着いた。「ここは眷属が食事をとるところだ」と教えてくれた。机の中央にある3つの蝋燭にバークが火をつけ、そのまま暖炉に飛び込んで熱と光を提供してくれる。姉さんから勧められるまま椅子に座ると、姉さんも座った。
「すまんな。さっきも言ったが、私の眷属は今外出中なんだ。もてなしはできそうにない。あと、使ってない部屋は、掃除が行き届いていないところもあるから、あまり他の場所は見ないでくれると助かる」
「分かったよ。ちなみに、俺たちは食事はいらないのか?」
「ああ。楽しむことはできるが、食事は必要ない。その代わり、血は定期的に吸う必要がある。血を吸わずに1週間経つと禁断症状が出て、2週間経つと死亡してしまう」
「死ぬの!? ……俺も早く、眷属を見つけないといけないな」
「産まれたばかりなんだ。まずは生活に慣れた方がいい。吸血鬼に特別、弱点なんかはないから1人で外出しても大丈夫だとは思うが、しばらく血は私の眷属から吸えばいい」
大事に思ってくれているのが、痛いほど伝わってくる。今は言葉に甘えながら、自分でできることをとにかく探していこう。
ここまで言って、姉さんは「さて」と区切る。
「敵の話の続きだったな。続けていいか?」
「もちろん」
「実は、吸血鬼意外にも人外がいてな。天上人と言うんだ。私たちは闇の加護を受けていて、奴らは光の加護を受けている」
「正反対の種族ってことか?」
「その通りだ。そのせいか、奴らの血を吸っても、何の足しにもならない。死ぬまでの時間に、何の影響ももたらさないのだ。その上、人間からの評判は好評でな。なぜなら、天上人は空にある浮島からやってきて、人間に能力をもたらしたからだ」
「どうやって?」
「天上人にも吸血鬼にも、ランダムだが能力を持って産まれる者がいる。そんな天上人と人間が結婚して子を持ったのが始まりらしい。吸血鬼みたいに血を吸わなければならない訳でもなく、吸血鬼と同じく外見の特徴は人間と変わらない天上人は、生活を経て段々と人間社会に溶け込み存在を許されてきた」
「人間視点だと、ただの良い奴らみたいだけど。こっちからは敵という感じなんだな」
「そうだ。いや、そうだった」
「え?」
順調だった話の流れが変わった。蝋燭の炎が揺れる。
「天上人から見れば、共に過ごす人間を襲う我らが敵であることに変わりなく、吸血鬼を絶滅させようと意気込んでいた。だから、私たちが自衛のためだけに戦うようになるのが、お互いの関係として自然な流れと言える。だが、奴らは同時に、人間をも襲うようになっていったんだ」
「……な、なんで? 意味が分からない」
「元々、奴らの大半は傲慢な気質なんだ。今の目的は、吸血鬼を滅ぼし人間の住処も手に入れるとなっている。驕りの塊のような奴らさ。だが、人間と天上人は共に過ごしてきた期間が長く、人間は未だ、天上人のそうした動きに対して鈍感だ。なんなら、狡猾にも天上人は自分たちがやっている罪深きことを全て吸血鬼になすりつけるだろうしな。天上人は味方で、吸血鬼は敵。今だって学校でもそう教わるだろうよ」
性格ひとつで、人間まで襲うようになるのか。理解できる範囲の話じゃない。
「そして、こうなると、私たちは自衛のためだけでなく、戦わなければならない。人間を天上人が支配したら、私たちは人間から血を吸えるようになるのか? まず、ならないだろう。吸血鬼を滅ぼすことも目的にしている相手だ。人間を支配下においたなら、動物だってどうにか支配しようとしてくるだろう。要するに、血を吸うルートを断ちに来る」
「それは、困るな。人間もいつまでも黙っている訳はないとは思うけど、可能性はあるのか」
「ああ。そして、そうなる可能性を前にして、指をくわえて見ているだけでは、生存を捨てるのと同じだ。もう既に私も含めて、吸血鬼たちは過激な天上人から人間を守るために裏で戦っている。お前の方からも打って出る時が必ず来る。もちろん、自衛する時もな」
「だから、強くなる必要はあるのか」
「そういうことだ」
ここで、話に一区切りがついたと言っていいだろう。一通り、聞きたいことは聞けたと思う。
足りなかったら、その都度聞けばいい。今は、とりあえず言うべきことがある。
「ありがとう、姉さん。色々説明してくれて」
「いや、何。当然のことをしただけだ」
「あ、ちょっと照れて--消えっちゃう!?」
バークが何か言いかけたところで、机の上に置いてあった花瓶の水を暖炉にぶっかけた。
「今日はすぐにひとしきり歩いて、続けて色々と聞いたから疲れているはずだ。もう、体と頭を休めておけ」
「ああ。そうする」
案内に従って、3階の寝室にやってきた。掃除は済ませておいてくれたらしい。
つまり、最初から願いを叶えてもらうつもりだったということだ。我が姉ながら恐ろしい。
高級そうな、青が基調のベッドがそこにはあった。城の時点で察しは付いていたが、姉さんの両親はかなりお金を持っていたんだろうな。
明日はどうなるんだろう。少し気にしながら、寝ることにした。
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