【苦悶怨嗟の追跡者】
苦しい、痛い、なんで、死にたくない、嫌だ、助けて──と、頭の中で同じような言葉がぐるぐると回る。意識が朦朧とし、滲む涙で目の前が霞む。ああ私、死ぬんだ──
そう思いながら、もはや途切れかけた意識の中で
気が付けば私は、その映像で見た
見れば目の前の
今しかない──と、恐怖で力の抜けた足でなんとか駆け出す。階段からエレベーターホールへ出てみれば、数人の患者と看護師の姿が見え、私は無我夢中で「た、助けて下さい!」と叫んでいた。その叫び声で「どうしたんですか?」「大丈夫ですか?」と何人かが私の元に駆け寄るが、皆一様にエレベーターホールに溢れる薄く斑な黒い
私は「あれ! あれが見えないんですか!?」と叫んで階段を指差すが、「あれ?」「何かいるんですか?」と、やはり見えていない。そんな中、五十代くらいの男性患者が一人、階段の方へと向かって歩き出した。そのまま階段を覗き込み、首を傾げた後で「何もありませんよ」と言いながら振り向く。
ビチャン。
初めは何が起きたのかが分からなかった。誰もが呆然とし、しばらくの沈黙が訪れる。階段を見に向かった男性の首が──
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
耳を劈くような女性看護師の叫び。そう、
突然の異常事態に誰もが凍りつく中、べちゃり、ずず、べちゃり、ずず、と、
え? 死んだ? 殺された? なんで? 嘘でしょ? と混乱する頭の中、私はその場から逃げるように駆け出していた。駆け出した瞬間、後ろから悲鳴が聞こえたので振り返ってみれば、男性看護師の胴体が引き千切られ、噴水のように血を吹き出している。そうして
なんで? なんで私なの!? 見えてるから!? とにかく逃げなきゃ! と駆け出すが、どこに逃げればいいのかが分からない。階段はあの這ってくる
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
私は叫びながら女の子に飛びつき、抱きしめて床を転げる。左腕に激痛が走り、見れば二の腕の肉が抉られていた。おそらく女の子目掛けて振り下ろされた
もはやエレベーターホールはパニックで、
叫び声の中、「い、生田さん!? 生田さんなの!?」という浜辺さんの驚いた声が聞こえてきた。見れば階段の方へ逃げようと駆けてきた浜辺さんが、
みちみちと嫌な音を響かせ、腕を引き千切った。
目を覆いたくなる光景と、耳を塞ぎたくなる浜辺さんの絶叫。私の頭の中は恐怖でパニックになるが、とにかくこの場から逃げなければと、女の子を抱えたまま震える足で駆け出した。勢いに任せて階段を駆け下り、だが足がもつれて踊り場で一度転ぶ。その際、壁に体を強く打ち付けたが、なんとか女の子は無事。打ち付けた体が痛み、おそらく転んだ拍子に足も挫いたようでズキズキと痛む。相変わらず二の腕も焼けるように痛み──
あはぁ──と聞こえて視線を上げれば、二階の踊り場に
周りもこの悍ましい
「奥村君に恨みがあるってこと……?」
ずず──
べちゃり──
ずず──
べちゃり──
あはぁ──
体の痛みでその場を動けない私に、ゆっくりと
それと同時、頭の中に流れ込んで来る覚えのない記憶の映像。やはり
そこには奥村君と、おそらく生田さんの姿。奥村君は冷たい目で生田さんを睨み、生田さんは「死にたくない」としゃくり上げるようにして泣いている。判別出来たのはこの映像だけだが、やっぱりだ! と思う。この目の前の怨霊だか生霊だかの
そうして私が
それならばと、私は最後の望みをかけ、
だがそんな私の想像に反し、
「う、うまくいったぁ……」
こんな作戦がうまくいくとは思わなかったが、
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