第7話

 涼やかな、朝の光がベッドに差す。

 この広い部屋にも慣れてきた。

 たった二晩過ごしただけなのに、ここが自分の寝床だと認識するのだから、人間の鈍感力は素晴らしいと思う。

「イザベラ。朝から呼び出しちゃってごめんね」

「とんでもないことでございます。公女様のお役に立てるのが、何よりの幸せにございます」

 イザベラの屈託のない笑顔は、私をほっとさせてくれる。

「早速なんだけど、昨日頼んだ…」

 バンッ

「公女様あぁ」

 マリアが勢いよくドアを開け放つ。

「マ、マリアさん!?」

 イザベラが、慌てた様子で私とマリアを交互に見る。

 エイヴィルって、公爵邸の中では二番目に偉い人なんじゃないの?

 昨日のウェールズ卿といい、何故みんなノックをしないのだろう。

「公女様。私、どうしましょう。今の今まで、皇太子殿下一筋でしたのよ!他の男はみなじゃがいもでしたの!本当ですわよ。皇太子殿下をお慕いするお茶会にしか、今まで参加してこなかったのです!それなのに…」

「それなのに?」

「私ったら、別の男性に心奪われてしまいましたの!これは、皇太子殿下への裏切り行為でしょうか。でも、トキメキって、自分じゃ止められないものですよね」

「あー、推しが増えたってこと…」

 マリアは、私の言葉には一切反応しないで騒ぎ続け、そんなマリアの姿を見て、イザベラは一人オロオロしている。

 コンコン

 やっとノックをする人物が現れた。

 カーライル卿だろう。

「どうぞ。おはようございます。カーライル…卿 …」

 私は、カーライル卿だと思っていた人物を見て、一瞬思考が止まった。

 ふんわりと、柔らかそうな赤髪が、輝くエメラルドの瞳にかかっている。

 紺色のマントをなびかせて、部屋に一歩入ってきた騎士は、文字通り、とろける笑顔を私へ向けた。

「公女様に、ご挨拶申し上げます」

「きゃーーー!!」

「きゃーーー!!」

 私が固まってると、メイド達が黄色い声援を上げる。

 マリアにあっては、今にも高熱で倒れそうな勢いだ。

 カーライル卿、前髪下ろしたんだ。

 笑顔も見せてくれて。

 想像をはるかに超えるイケメンっぷりで、直視するには眩しすぎる。

「誰かと思いました。とても素敵です」

「ありがとうございます」

 少し照れる顔には、幼さが覗く。

 本来のカーライル卿は、こんな青年なんだと思うと、胸がじんわり温かくなった。

 私の言ったとおりに前髪も下ろして…

 なんて可愛いらしいんだろう。

 暴力団対策課の係長が、優しい顔の部下にパンチパーマをあてるよう無茶振りをして、本当にパンチで出勤したその子をめっちゃ可愛がってたけど…こういう気持ちだったのね!

 カーライル卿は、ちゃんと上司のハートを掴むすべを知っている。

 さすが、若くして騎士団長になっただけのことはある。

 一人で感心していると、いつの間にか、カーライル鄕がベッドに腰掛けた私の前まで来ていた。

 膝を付くと、腰に下げていた剣を鞘ごと抜き、私に差し出してきた。

「きゃーーー!!」

 マリアが再び絶叫する。

「え?カーライル卿?」

「公女様!剣を抜いて、カーライル卿の肩にお乗せ下さい」

 イザベラが、使い物にならなくなったマリアを支えながら、必死に教えてくれた。

「カーライル卿?」

 カーライル卿は、真剣な眼差しを向けるだけで何も答えない。

 朝日を浴び、細かいホコリがキラキラと雪のように反射している。

 光り輝く緑色の瞳は、草原を連想させた。

 カーライル卿は、明るい場所が似合うと思った。


 私は仕方なく、言われたとおり剣を抜く。

 ジャリっという、鉄がこすれる音がしたあと、鏡のように磨かれた長剣が姿を表す。

 切っ先を見つめると、世界が無音になった気がした。

 …怖い。

 拳銃を、初めて貸与された日のことを思い出し、手が震える。

 人を殺すために作られた、凶器の放つ圧迫感。

 触れたもの全てを、この剣は切ってきたのだろう。

 そんな切先を、自身の肩に乗せさせるということは、剣を持つ相手に頸動脈を晒しているのと同じだ。

 それこそ、銃口をむけられているような恐怖のはず。

 カーライル卿は、私のことをそこまで信頼してくれているというの?

 私は、重い剣を両手で支え、ゆっくりとカーライル卿の左肩に乗せる。

 数秒間の静寂のあと、帝国の宝が口を開く。

「私、ジェレミー・ソルソ・カーライルは、エイヴィル・デ・マレ公女と、公女が守りたいと望む全ての帝国民のための剣となります」

 帝国民のための剣。

 カーライル卿は、県民のための警察官であろうとした私と、同じ志を持つことを、宣言してくれているんだ。

 長く組織の一員として、目の前の仕事に追われていた私は、いつしか自分の志を口にすることを、恥ずかしいと思うようになっていた。

 そんな私の代わりに、言葉にしてくれたことが嬉しくて、視界が滲む。

「カーライル卿、ありがとうございます。ただ私は、貴方が人を傷つける事を望みません」

「…」

「貴方の剣は、自分の命を守る時、他人の命を守る時、凶悪犯を捕らえる時など、他に方法がないと判断した場合のみ使って下さい」

 これは、騎士にとって酷な下命かもしれない。

 しかし、他人より強い力を与えられた者は、自分の利益のためにそれを行使してはならないのだ。

「かしこまりました」

 カーライル卿は、全く躊躇することなく、そう答えた。

 私は剣を鞘に納め、カーライル卿に手渡す。

 するとカーライル卿は、片膝をついたまま剣を自分の横に置いた。

 そして、優しい手つきで私の左足を持ち上げ、足の甲にキスをした。

「きゃーーー!」

「ま、マリアさん」

 ついにマリアがその場で崩れ落ち、イザベラが慌ててそれを支える。

 だが私は、そんな二人にかまってる余裕などなかった。

 カーライル卿の唇が、私の足の甲に…。

 瞬きの仕方も、声の出し方も忘れてしまった。

 上から見下ろす、カーライル卿の無防備なつむじが、足に触れる柔らかい髪が、私の心臓を締め付ける。

 カーライル卿は、私の足の甲から唇を離すと、緑色の瞳を光らせながら私を見上げる。

「私の王よ」

 その表情が艶っぽくて、私は思わず赤面する。

 可愛いらしいと思っていた部下の不意打ちに、こんなにもトキメクなんて。不甲斐ない!

 心臓がバクバクと波打ち、呼吸が上手く出来ない。

 私は、美しい所作で剣をホルスターに納めるカーライル卿を、黙って見つめることしか出来なかった。


「また後ほど参ります」

 パタン。

 今、目の前で起こったことは、現実だったのだろうか。

 夢だと言われたほうが、納得できる。

「イザベラ…今のは何だっの」

 イザベラは、のぼせ上がったマリアの顔を扇ぎながら答える。

「真剣を使っての儀式は、本来、皇帝陛下が帝国民に爵位等を付与する時に行われます。ですが、騎士側から宣誓する場合もあります。自らの心臓と言っても過言ではない剣を差し出すということは、その相手を信頼し、主人と認めたといことです」

「なるほど」

 本部長に対する氏名申告とか、服務の宣誓みたいな感じかな。

 え、でも。

「足の甲へのキスも、それに含まれるの」

「い、いえ」

 イザベラが言い淀む。

「ほ、本来、騎士の誓は手の甲にキスをします。狩猟大会の際など、想いを寄せるレディに対して行われる、パフォーマンスのようなものです。ですが、足の甲へのキスは、一般的ではありません」

「そう…だよね」

「はい。ただ、一つ思い浮かぶのは…」

「浮かぶのは?」

 イザベラが、意を決した表情で答える。

「かつて、奴隷制度があった時、婦人が若い男性の奴隷を寝室に呼び、あ、足に…キスをするよう命じる風習があったと…聞いたことがあります」

「え!」

 それって…

 アダルトな情景が浮かび、私もイザベラも、顔が真っ赤になる。

「れ、隷属の誓と呼ばれていたそうです」

 帝国一の騎士が、悪女と呼ばれている公女に隷属を誓うなんて。

 しかも、奴隷と同じことをするなんて、貴族にとっては、かなり屈辱的なことのはず。     

 そんな事をしてまで、私への服従を証明したかったってこと?

(私の王よ)

 カーライル鄕の表情を思い出し、ますます顔が火照っていく。

 …カーライル鄕。

 真面目すぎ。

 嬉しいけど、ちょっと重すぎるって。


 ノックの音が響く。

「はい」

 イサベラが対応する。

「公女様、執事長がお見えです」

「お通しして」

 執事長は、背の高い初老の男性だ。

 頬骨がクッキリと浮き出て見えるほどやせ細っている。

 白髪を綺麗に整え、後ろで結んでいる。

 本当の名前は知らないが、セバスチャンだと勝手に思っている。

「公女様にご挨拶申し上げます。お加減はいかがでしょうか」

「だいぶ良いです。ありがとうございます」

「公女様、私に敬語など必要ございません。どうかガスパルとお呼び下さい」

 セバスチャンじゃなかった。

「分かりました。ガスパルさん、今日はどうされたんですか」

 執事長は、笑顔のまま答える。

「…どうか、お客様の前ではその様な話し方はお控え下さい。私は年長者ではありますが、執事でございます」

「気をつけます。お客様が来ているのですか」

「はい。二組、公女様へのお目通しを希望しております」

「分かりました。今行きます」

 立ち上がろうとすると、イザベラと、復活したマリアが私に駆け寄る。

「お支度をお手伝いします」

「…ありがとう」

 あぶない。

 部屋着のまま出ていくところだった。



 

 公爵邸の応接間で待たされるのも慣れてきた。

 毎週来ているのだから、同然だ。

 調度品も見飽きたし、出された茶菓子も食べ終わってしまった。

 皇宮へ戻った後に、片付けなくてはならない業務を頭の中で箇条書きにしながら、平和な窓の外を眺めた。

 チェザレイ皇太子殿下に仕えて、二年が経とうとしている。

 前補佐官から、必ず行うようにと引き継がれた業務が、公爵邸の悪女への届け物だ。

 三十五歳にもなって、お使いをさせられるとは。

 贈られる品は、多忙な皇太子殿下が、必ず自らの手で選ばれる。

 だが、二人が実際に会ったところは、この二年間で一度も見たことない。

 私の知らないところで、隠れて会っているのだろうか。

 本当に二人は、恋仲なのだろうか。

 皇太子殿下は、公女に惑わされているのだろうか…。

 いつも、思考の旅はここで終わる。

 あの皇太子殿下のことだ、なにか理由があるのだろう。私はただ、彼に従うだけだ。生き延びるために。

 

 コンコン

「お待たせいたしました」

 メイド達に支えられながら、華奢な女性がゆっくりと部屋に入ってきた。

 誰だ?

 異国の女性か?

 馴染のない髪色に、目が釘付けになり、立ち上がるのも忘れていた。

「マレ公爵家長女、エイヴィル・デ・マレと申します。私達に面識はなかったと聞きました。皇太子殿下の補佐官様が、本日はどの様なご用件でしょうか」

 視線を真っ直ぐ私に向けて話す姿からは、丁寧で誠実な印象を受けた。

 これが、公爵邸の悪女だと?

 二年間公爵邸に通っていたが、公女が自ら対応するのは初めてだった。

 私は慌てて立ち上がり、右手を胸にあてた。

「皇太子殿下付首席補佐官セバスチャン・ヴァレリアが、公女様にご挨拶申し上げます。伝え聞いておりましたお姿と、相容れなかったため、無礼な態度となってしまいました。大変申し訳ございません」

 公女は私の名を呟くと、隣りにいる執事長の顔をちらりと確認し、静かに話し始める。

「驚かれたのは当然です。主治医によると、毒の影響で、目や髪の色が変化してしまったようです」

「な、なんと、毒を?大変な目に遭われたと伺っておりますが、まさか毒とは…」

「お見苦しくて申し訳ございません。記憶も曖昧で、傷も癒えていないため、あまり時間が取れないことを、お許しください」

 公女は、メイドの手を取ったまま、ゆっくりとソファーに腰掛ける。

 公女に続いて腰掛けた私は、聞きたいことを飲み込み、用件を口にした。

「先日、皇太子殿下への謁見を申請されましたね」

「はい」

「それに対しての、お返事をお持ちいたしました」

「わざわざ。ありがとうございます」

 公女はニッコリと微笑んだ。

「とんでもないことでございます。では、こちらを」

 私は、皇太子殿下から預かったギフトボックスと、手紙を一通差し出した。

 公女は、何とも複雑そうな顔をして箱を見つめている。

 目の前で公女の反応を見たのは初めてだが、嬉しくないのか?

 それとも、異性から贈り物をもらうことなど、公女にとっては取るに足らない日常の風景なのかもしれない。

「拝読させて頂きます」

 公女は手紙を読み始める。

 直ぐに眉間にピクリとシワを寄せると、美しい紺色の瞳を光らせた。

「これは…」 




「ってことがあったの。信じられる?」

「…私は、あなたがここに居ることの方が、信じられませんが」

 ノアは、昨日と同じラーメン屋スタイルで、怪訝な表情を見せる。

 二組のお客様の相手をしたあと、私は第三近衛騎士団の宿舎にある、食堂のような場所へ来た。

 理由は、この銀髪のオオカミと話をするためだ。

「ジェレミーはとっくに飯食って、訓練場ですよ」

「カーライル卿に用があった訳じゃないの。ノアの料理が食べてみたくて」

「…公女様に呼んで頂けるほど、大した名前ではございません」

「あ、ごめんなさい。ただ、とっても呼びやすくて素敵な名前だから…だめかな?」

「…」

 ノアは両肩を上げながら後ろを向くが、ちゃんと私の食事の用意を始める。

 やっぱりね。思った通り良いやつだ。

 他人のために熱くなれる人間は、情に厚く、物事の判断基準が損得によらない。

 そういう人間は、信頼できる。

 そして、おそらくノアは、仕事が出来る。

 この食堂に来て、それは確信に変わった。厨房はとても清潔に保たれているし、仕事道具の手入れは行き届いている。

 物の配置場所にも無駄がない。

 カーライル鄕と同期生ということは、元々料理人では無かったはず。にも関わらずここを一人で切り盛りしているということは、見た目によらず緻密で器用なのだろう。

「言っておきますが、公女様が普段食べてる物とは雲泥の差ですからね」

「はーい」

 ノアはくるりとこちらに振り返った。

「それと、昨日は申し訳ありませんでした。女性の寝室に押しかけるなんて」

 気持ちの良い、真剣な謝罪。

「はい」 

 私は、めいいっぱいの親しみを込めて、微笑んだ。

 ノアは一瞬ホッとした表情を浮かべると、再び調理台に向かい、作業を進める。

「で、どーするんですか。その招待は」

 そう。セバスチャンっぽくない、ガタイの良いナイスミドルが、とんでもないものを持ってきたのだ。

 渡されたのは、皇太子との謁見の許可ではなく、招待状だった。

 皇太子が自ら主催する、自分の誕生日を祝う舞踏会への。

「怪我を理由に、断ろうとも思ったんだけど。贈り物も、突き返して」

「はい?皇太子からの招待や贈り物を断る者なんて、ありえません」

「そう、なんだろうね。いや、知らなかったの。断っちゃいけないものだって」

 そうだとしても、首席補佐官の様子は尋常じゃなかった。

 あんな体格の良い男性が、ガタガタと青い顔で震えながら、私に受け取るよう懇願するなんて。

 冗談だと受け流し、諭せば良いものを。

 皇太子は、そんなに怖ろしい人物なのだろうか。

「ねぇ、ノアは皇太子に会ったことあるの?」

「幼い頃、皇太子の遊び相手を選ぶからと、皇室に呼ばれたことがありました。結局私は選ばれなかったので、チラッと見ただけです」

「どんな印象だった?」

「うーん。大人しくて、あまり印象に残っていません」

「大人しい…」

「どうぞ」

 ノアが、私の前にビーフシチューとパンを差し出した。

「うわ!美味しそう。いただきます」

 久しぶりに、馴染みのある食事を出されたからか、思わず顔の前で合掌してしまった。

 スプーンは使わず、ちぎったパンをシチューに浸して口に運ぶ。

「う〜〜〜ん。最高」

 あまりの美味しさに、手が止まらなかった。

 警察学校時代に身に付いてしまった早食いで、あっという間に完食する。

「はぁ。やっぱり思った通り、美味しかった」

 顔を上げると、片肘を付いたノアが、ボーゼンと私のことを見つめていた。

 しまった。

 裏表のないノアと話していると、同期生と話しているような、そんな安心感から、つい本来の自分をさらけ出してしまう。

 公爵令嬢は、こんな食べ方しないよね。

「き、記憶が曖昧で。テーブルマナーとか、その…」

「…ぷっ」

「…ノア?」

「あはははは。ここに居る騎士の誰よりも食うのはえぇ。あははは」

 ノアがお腹を抱えて笑う。

 その屈託のない笑顔を見て、ホッとしたような、懐かしいような、そんな気持ちで、ちょっとだけ胸が締め付けられた。

「それだけ美味しかったってこと。そんなに笑わないでよ」

「あははは、すみません。お詫びに、その舞踏会は、私にエスコートさせてください」

「ええ?!」

 エスコートって、私に同行して、舞踏会に連れて行ってくれるって事だよね?

 ラーメン屋さんが?公爵令嬢と?

 だ、大丈夫なのかな。

「何ですかその顔。何か無礼なこと考えていますね」

「と、とんでもございません」

「嫌なら早めに断ってくださいよ。私にエスコートしてもらいたい令嬢が、何人も待っていますので」

 ノアは、ニカっと笑ってみせた。

 強制にならないようにと、気を使ってくれてるのが分かった。良いやつ。

「是非ともお願いします」

「光栄にございます」

 私達は、顔を見合わせて笑い合う。

「で、もう一組の客って、誰だったんですか?」

「ジェームス・フランクリン氏と、アルフォンス・リノ氏」

「その二人って…新聞記者てすよね」

「え!何で知ってるの?」

「何でって、新聞記事の最後には、必ず筆者の名前が書かれていますよね?」

 確かに二人は新聞記者だ。だが、特に有名というわけではない。

 そもそも、記事を書いた記者の名前など、気にする読者はほとんど居ないだろう。

「ふ、二人の記事の特徴は?」

 私は、恐る恐る問いかける。

「その二人の記事は、独自取材に基づく事件報道がほとんどです。スキャンダルや皇室行事の記事は読んだことない」

「…」

「いや、皇室関連でいうと、政治批判の記事はたまに書いていますね。ジェレミーの紛争地域への派遣のときは、辛辣な記事を書いていた。あれだけの記事を書くってことは、皇室の検閲は受けていないのでは」

 凄い。

 私はじっとりと汗を掻く。

 そう。私が二人を呼んだのだ。

 理由はノアが言った通り、二人は確固たるジャーナリズムを持っているから。

 ジャーナリストの使命は、公権力の監視だ。

 国民の知る権利に応え、国が戦争へ向かわないように監視する事が、民主主義が普及していく歴史の流れからしても必然だ。

 だが、絶対的な権力が存在するこの帝国にとって、それを信念として持っている記者は少ない。

 どの記事も、皇室の検閲を受け、プロパガンダに使われていた。

 そんな中、やっとの思いで二人の記者を見つけ出したというのに…

 ノアのメディアリテラシーには驚かされた。

 やっぱり、ノアは物凄く頭が切れる。

「ねえ、ノア。私に…」

 バンッ

「見けましたよ、公女様」

 鬼の形相のドクターと目が合う。

「ス、ステファン先生」

 私は、ヒョイと抱きかかえられてしまう。

「うわっ」

「では、失礼いたします、ウェールズ卿」

「ノ、ノア!また来る」

 バタン

 …

「あははは。変な女」

 

 

 


 

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