第82話 連携の訓練
――死霊使いを退けてから数日後、レイト達は黒虎の訓練場にてバルルの指導の元で「連携」の訓練を行っていた。
「さあ、かかってきな!!」
「ゴンちゃん、ダイン、行くよ!!」
「おうっ!!」
「お、おうっ!!」
バルルに対してレイトはダインとゴンゾウと共に駆け抜け、最初に動いたのはゴンゾウだった。彼は持ち前の怪力を生かしてバルルを押し込もうと両手の盾を構えた。
「ぬおおおっ!!」
「はっ、馬鹿の一つ覚えかい!!そんなもんであたしが止められるか!!」
「ぐおっ!?」
盾で身を守りながら突っ込んできたゴンゾウに対してバルルは両腕に力を込めると、ゴンゾウが体当たりを仕掛ける寸前に側面に回り込み、彼の膝裏に目掛けて回し蹴りを放つ。痛烈な一撃にゴンゾウは体勢を崩したところでバルルは拳を振りかざす。
「おらぁっ!!」
「ぐふぅっ!?」
倒れてきたゴンゾウの顔面に目掛けてバルルの拳がめり込み、今回は手甲を装備していないのにも関わらずにゴンゾウは大量の鼻血を噴き出しながら倒れこむ。
ゴンゾウが倒れるとバルルは一息つこうとしたが、彼女の足元に影蛇が迫る。直感で危険に感づいたバルルは空中に跳躍して回避した。
「シャドウスネーク!!」
「おっと!?」
いつの間にかダインが倒れたゴンゾウの後ろに隠れており、彼は影魔法を繰り出してバルルを捕えようとした。彼女が避けた後も影蛇を操作して追跡を行わせる。
「こ、このっ!!」
「おっとっと、こっちだよ」
足元から執拗に迫る影蛇をバルルは軽快なステップで回避すると、彼女はダインに目掛けて足元に落ちていた小石を蹴り上げる。
「あんたも寝てな!!」
「ひいっ!?」
「
ダインの顔面に目掛けて放たれた小石をレイトは魔盾を展開して防ぐと、彼もダインと同様にゴンゾウの傍で隠れていた事に気付いたバルルは舌打ちした。
「倒れた仲間を利用して不意打ちを狙うとはいい度胸じゃないかい!!」
「倒れた?何を勘違いしてるんですか?ゴンちゃんはまだ動けますよ!!」
「何!?」
自分の一撃でゴンゾウを完全に気絶させたと思い込んだバルルだったが、レイトの言葉に反応するようにゴンゾウの身体が震えた。彼は鼻血を噴き出しながらも四つん這いになると、両腕に装着した盾を外してバルルを睨みつけた。
「ま、まだまだ!!」
「へえ、大したもんだね。だけど動くのもやっとという有様だね」
立ち上がろうとするゴンゾウの姿にバルルは感心するが、どう見ても動くのやっとで戦える状態ではない。それでもゴンゾウは気合で起き上がると、レイトはダインに声をかけた。
「ダイン、ゴンちゃん、作戦通りに!!」
「お、おう!!」
「ふんっ!!」
「うわっ!?」
レイトの指示にダインは頷き、ゴンゾウは両手を握りしめるとハンマーナックルを地面に叩きこむ。残された力を使った一撃で地面に振動が走り、土煙が舞い上がった。
土煙にレイト達の身体が隠れると、バルルは三人が何か仕掛けようとしている事に気が付く。しかし、どんな手を使って来ようとバルルは関係ない。
(誰だろうとかかってきな!!)
両腕を顔の前に構えたバルルは万全の防御態勢を取ると、土煙から最初に出てきたのはレイトだった。彼は右手に球体状に変形させた魔盾を纏い、バルルに目掛けて繰り出す。
「おらぁっ!!」
「ちっ!!」
拳を繰り出してきたレイトに対してバルルは片腕で受け止めた。レイトの魔盾は鋼鉄以上の強度を誇るが、殴った本人はまるで岩に目掛けて拳を繰り出したような感覚を抱く。
(なんて硬さだ!?この人、本当に人間か!?)
人間の筋肉とは思えぬほどに硬い感触にレイトは戸惑い、もしも素手で殴っていたとしたら拳が壊れていたかもしれない。バルルはレイトの拳を払いのけると、今度は自分の方から仕掛けた。
「その戦い方はあんたに向いてないと何度言えば分かるんだい!!」
「うわっ!?」
拳を振りかざしたバルルに対して反射的にレイトは右手を包み込んでいた魔盾を変形させると、両手で構えてバルルの拳を受け止めた。以前よりも格段に魔盾の変形速度が上昇しており、それを見てバルルは感心した。
「今のを防ぐとは少しは成長したようだね。だけど、そんなちゃちな盾であたしの攻撃を防ぎ切れると思ってんのかい!!」
「うわぁっ!?」
拳を魔盾に押し当てた状態でバルルは筋肉に血管を浮き上がらせると、圧倒的な力でレイトを押し飛ばす。地面にレイトは倒れると、彼女は反対の拳を繰り出す。
「まずは一人目!!」
「ゴンちゃん!!今だ!!」
「何!?」
レイトはバルルの背後に声をかけると、バルルの身体が影に包まれた。ゴンゾウが背後に迫っていると判断したバルルはとっさに裏拳を繰り出す。
「なめんじゃ……!?」
だが、彼女の裏拳を受けたのはゴンゾウ本人ではなく、ゴンゾウの形に変形した巨大な影だった。彼女の背後に迫っていたのはゴンゾウ本人ではなく、ダインの影魔法で実体化した巨大な「影人形」だと判明する。
ダインの影魔法は今までは動物などに変化して戦ってきたが、先日の死霊使いとの戦闘で今のままでは駄目だと考えたダインは改良を加えた。これまでは小さな動物にしか変形してこなかったが、自分よりも巨大な生物の影の形に変化できるように就業した。
「ふぎぎぎっ!!」
「はっ、随分と面白い使い方をするじゃないかい。だけどこんなもんにあたしが捕まると思って……」
「もう捕まえてますよ」
「何だって!?」
土煙が晴れると影魔法を展開するダインの姿が露わとなり、バルルは裏拳を繰り出した際に彼の影に触れてしまった。この瞬間を逃さずにダインは触れた個所からバルルの身体を影で包み込み、彼女を動けないようにした。
「くそっ!?離しなっ!!」
「も、もう無理……あと三秒も持たないよ!!」
「十分!!」
バルルを封じる事に成功したが、ダインの影魔法は巨大な物体に変化させると維持力が低下するため、バルルの片腕を封じるのが精いっぱいだった。彼女が動けない隙にレイトは死霊使いの戦闘で身に着けた新技を試す。
両手に魔盾を展開して片方を
「やああっ!!」
「ぐはぁっ!?」
「や、やった!?」
レイトの攻撃をまともに受けたバルルは唾を吐き散らし、彼女の腹筋を貫くほどの威力であり、並の人間ならば耐えきれないだろう。
(これほどの重い一撃は久しぶりだね。しかも相手は魔法使いときたもんだ……大したもんじゃないかい!!)
魔法使いを相手にバルルが傷を負うなど久しぶりであり、しかも相手は攻撃魔法ではなく防御魔法を駆使してきた。バルルはレイトの一撃に感心するが、作戦はまだ終わっていなかった。
「止めだゴンちゃん!!」
「な、なんだって!?」
「も、もう限界だ!!」
レイトはダインが作り上げた影人形に声をかけると、ダインが魔法を解除した瞬間、影に包まれていたゴンゾウが姿を現す。それを見てバルルは度肝を抜き、一方でゴンゾウは彼女に目掛けて倒れこむ。
「ぬぅんっ!!」
「ぐええっ!?」
「や、やった!!」
「俺達の勝ちだ!!
最後の最後にゴンゾウのボディブレスを受けたバルルは奇怪な悲鳴を上げ、それを見てレイトとダインは勝利を確信した。ゴンゾウはもう起き上がる体力も残っていないが、二人に親指を向けた。そして彼の下敷きになったバルルは言葉を絞り出す。
「こ、このクソガキ共……やるじゃないかい、合格だよ」
今回の訓練はバルルに一撃を食らわせれば合格という条件だったが、一撃どころか彼女を動けなくするまで追い込めた。三人の連携が上手くいかなければ格上のバルルに勝利するなど有り得なかった。
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