第81話 逆転の一撃

「きゃあっ!?」

「「「わあっ!?」」」

「ぷるんっ!!」

「ウォンッ!!」



ホーリーライトが発動した瞬間、ハルナの杖から閃光を思わせる光が放たれた。レイト達を拘束していた影蛇が消えていき、同時に死霊使いは顔面を覆って膝をつく。



(光で目がやられたのか!?いや、今は動くんだ!!)



考えるよりも先にレイトは死霊使いを無力化するために駆け出し、彼の足音に気付いた死霊使いは片手で顔面を隠しながらも杖を構えた。



「このガキ共っ!!」

魔盾プロテクション!!」



レイトは両手を重ね合わせた状態で魔盾を形成すると、盾を重ね合わせた状態で右手を伸ばした。



反魔盾リフレクション!!」

「がはぁっ!?」



右手で生成した魔盾だけを反魔盾に変化させると、重なっていた魔盾を吹き飛ばす。走っている最中に物を拾う動作を行う余裕はないため、咄嗟に編み出した攻撃法だった。


反魔盾の反発力によって吹き飛ばされた魔盾は死霊使いの手にしていた杖を弾き飛ばし、相手が拾う前にレイトは右手を繰り出す。



「終わりだ!!」

「がああっ!?」

「や、やった!!」

「倒したのか!?」



レイトの掌底には反魔盾が展開されており、死霊使いの頭に触れた途端に衝撃を繰り出す。強烈な一撃を受けて死霊使いは倒れこむと、それを見ていた他の仲間が駆けつけた。



「こ、殺したのか?」

「いや、気絶させただけだよ」

「恐ろしい女だったな……すまない、皆を守れなかった」

「相手が悪すぎた。ゴンゾウが謝る事はない」

「ううっ……こんな怖い女の人初めてだよ」



倒れた死霊使いを見下ろしてレイト達は冷や汗が止まらず、こんな恐ろしい魔法使いは見た事もない。かつて大魔導士であるマリアと出会った時もレイトは圧倒されたが、死霊使いは彼女とは異なる迫力を持つ相手だった。


マリアの場合は他者を圧倒する実力者ではあるが、死霊使いの場合は相対するだけで恐怖に陥る不気味な気配を醸し出しており、正直に言えばレイトは勝てたのが不思議だった。不意を突いたとはいえ、自分がこんな恐ろしい魔法使いを倒したとは信じられない。



(そういえばさっき、顔を隠してたけど……)



レイトが気になったのは死霊使いがハルナのホーリーライトを受けた際に怯んだ事であり、最初は閃光のような強烈な光を浴びて目が眩んだのかと思ったが、その顔を覗き込んで真実に気が付く。



「うわぁっ!?」

「レイト!?」

「ど、どうしたの!?」

「な、何だよ急に!?」

「まさか意識が戻ったのか!?」



死霊使いの顔を見てレイトは腰が抜けそうなほど驚き、咄嗟にゴンゾウは死霊使いを抑え込もうとした。だが、彼は死霊使いの顔を見た瞬間に驚愕の表情を浮かべ、ダインは二人の反応に疑問を抱く。



「こ、これは!?」

「ゴンゾウまで何を驚いて……うひぃっ!?」

「ダ、ダイン君!?」

「どうかしたの?」

「み、見るな!!お前等は見ない方がいい!!」



ダインが死霊使いの顔を見た瞬間に尻もちを着き、その彼の反応にハルナとコトミンは戸惑う。レイトは死霊使いの元へ近寄り、女性陣には見えないように顔を確認した。



「どういう事だ……何が起きてるんだ?」



倒れた死霊使いの容姿が一変しており、先ほどまでは黒髪の若い女にしか見えなかった。だが、倒れた女性は白髪の老婆へとしており、しかも肉体は完全に腐っていた――






――同時刻、レイト達が拠点としているイチノの街に存在する廃墟にて本物の死霊使いは目を覚ます。彼女は黒色の魔法陣の上で座禅を組んでおり、彼女が目を覚ますと魔法陣の色合いが消えてしまう。



「忌々しい……貴重な人形を一体失ったわ」



最初から死霊使いは村に出向いておらず、レイト達を襲ったのは彼女が繰り出しだの一体に過ぎなかった。


冒険者ギルドに依頼を申し込んだのは死霊使い本人であり、彼女は街を出る前に特別な死体を用意していた。その死体には事前に死霊使いが作り上げた特製の死霊石を埋め込んでおり、その死霊石を通じて彼女はアンデッドを自分の分身の如く自在に操っていた。



(まさか私の死霊人形ドールを浄化するほどの魔法が使えるとは油断したわね。白狼種の毛皮を手に入れるつもりだったのにとんだ大損だったわ)



死霊使いの目的はウルの毛皮であり、確実に彼を殺すために罠を用意した。しかし、結果は失敗に終わって貴重な死霊石を失う羽目になった。


死霊人形とは死霊使いがアンデッドに意識を移して文字通りに操り人形のように操作する魔法である。但し、アンデッドに意識を移している間は死霊使いは自分が描いた魔法陣から出る事はできず、だから人気のない場所で死霊人形を操作していたのだが、今回は仇となった。



(今から私が村に出向いて始末する事もできるけれど、少しばかり時間をかけ過ぎたようね……いいわ、今回は見逃してあげる)



これ以上に廃墟に長居するのは危険だと判断し、死霊使いは立ち上がるとマントで全身を包み込む。彼女は立ち去る際、魔法陣の中心に突き立てた杖を忘れずに持ち帰る。


死霊使いが所持する杖は死霊人形に持たせていたではなく、赤黒く輝く髑髏の水晶が取り付けられていた。どうして死霊人形は本物の杖を所持していないのに魔法を使えたのかというと、それは体内に埋め込まれた死霊石が関係している。


死霊人形に埋め込まれた死霊石は魔石の一種であり、闇属性の魔力が込められているので闇属性の系統の魔法を使いこなす事はできる。だから杖がなくとも死霊人形は魔法を使う事ができたが、本物である死霊使いと比べたら魔法の性能は格段に落ちてしまう。



「次に会う時が楽しみね。今度は全力で殺してあげるわ」



レイト達の危機は完全に去ったとはいえず、この世で最も恐ろしい死霊使いに目を付けられたのかもしれない――






――死霊使いが立ち去った後、しばらくするとバルルが廃墟に訪れた。彼女は床に刻まれた魔法陣を確認し、一足遅かったことに気が付く。



「ちっ、逃げられたかい……仇を討ち損ねたね」



バルルは一枚の羊皮紙を取り出し、その羊皮紙には死霊使いと非常に顔立ちが似た女性の絵が記されていた。だが、随分と古ぼけた羊皮紙であり、だった。


こちらの羊皮紙は何十年も前に恐ろしい事件を引き起こした死霊使いの手配書であり、バルルが書類仕事をしている時に偶然見つけた手配書だった。この手配書の主はまだ捕まっておらず、仮に生きていたとしたら老婆といっても差し支えない年齢のはずだが、バルルの元に訪れた死霊使いはどう見ても二十代の若い女性にしかみえなかった。



「キラウ、か。随分と変わった名前だね」



手配書に描かれた女性の似顔絵と死霊使いは瓜二つの顔立ちであり、この二人がいったいどのような関係なのかは分からない。一つだけ言える事は手配書の女性も死霊使いも王国の中でも指折りの凶悪犯罪者である事だけは共通していた――

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