第78話 魔力の収束

(まずい!?ハルナがあんな状態じゃ魔法は使えない!!)



魔法使いは精神が乱れた状態では魔法の力を発揮できず、ハルナが恐怖に陥った状態では浄化魔法は使えない。彼女が正気を取り戻せば先ほどのアンデッドのようにスケルトンも倒せるはずだが、群れに囲まれた状態では近づけない。



「コトミン!!ハルナを落ち着かせて!!」

「そうしたいけど、守るので精一杯」

「ぷるしゃあっ!!」



コトミンはスラミンを放水させてスケルトンの群れを近づけさせいようにするのが限界であり、とてもハルナを落ち着かせる暇はなかった。怯えた彼女は頭を抑えて座り込んでしまい、レイトの声さえも届かない様子だった。



「ううっ、もう駄目だよ!!死んじゃう!!」

「ハルナ!!落ち着いて……うわっ!?」

「馬鹿!!お前もよそ見するな!?」

「カタカタカタッ!!」



レイトはハルナに大声で語り掛けようとしたが、ダインに背中を引っ張られた。いつの間にかコボルトのスケルトンが側面に回り込み、鋭い指で首元を切りつけようとしてきた。もしもダインが助けなければ自分が死んでいたと知ったレイトは顔色を青くする。


スケルトンの群れはレイト達が合流できないように邪魔し、頼りとなるゴンゾウもコボルトのスケルトンが素早過ぎて対処できない。このままでは全滅するのは目に見えており、どうにか起死回生の策を考える。



(くそっ!!どうしたらいいんだ!?せめて春香がまともなら……待てよ、手ならあるぞ!!)



ハルナに近づく方法を思いついたレイトはゴンゾウに視線を向け、彼に目掛けて全力で駆けつける。



「ゴンちゃん!!俺をハルナの元に目掛けて投げ飛ばして!!」

「何だと!?」

「ええっ!?な、何考えてんだよ!!死ぬ気か!?」

「説明している暇はない!!今は俺を信じて!!」

「……分かった!!」



レイトの提案にゴンゾウとダインは驚くが、切羽詰まった状況の中で冷静に考えている暇はなく、ゴンゾウは片手の盾を放り捨てるとレイトの身体を掴んでハルナ達の元に投げ飛ばす。



「ふんっ!!」

「うわぁあああっ!?」

「レ、レイトォッ!?」



ゴンゾウの怪力でぶん投げられたレイトを見てダインは彼が死ぬのではないかと心配したが、空中に浮かんだレイトは両手を前に伸ばして魔盾プロテクションを構築した。



「おらぁあああっ!!」

「「「ッ――!?」」」

「わあっ!?」

「にゃっ!?」

「ぷるんっ!?」



文字通りにと化したレイトは魔盾を展開した状態でスケルトンの群れに突っ込み、邪魔者を吹き飛ばした上でハルナ達の元に転がり込む。身体中が擦り傷を負ったが、今は怪我など気にしている場合ではないのでハルナに話しかける。



「ハ、ハルナ!!浄化魔法だ!!」

「レ、レイト君!?凄い怪我をしてるよ!?」

「俺の事はいいから早く魔法を!!」

「ハルナ、頑張って」

「ぷるんっ!!」



怪我をしたレイトをコトミンが抱きかかえると、スラミンが応援のつもりか身体を弾ませる。レイトが傍に来てくれた事でハルナは正気を取り戻し、彼女は杖を掲げると浄化魔法を発動させた。



「ホ、ホーリーライト!!」

「「「カタカタカタッ!?」」」



魔法が発動した瞬間、杖から光が放たれてハルナ達を取り囲んでいたスケルトンが苦しみだす。全身から黒色の霧のような物を噴き出し、それを見たダインが声をあげる。



「く、苦しんでる!!魔力が維持できてないんだ!!」

「だが、どうして倒れないんだ!?」

「ううっ……ご、ごめんなさい!!失敗しちゃったかも!?」

「そんなっ!?」



ハルナは二回に一度は浄化魔法を失敗するため、今回は精神が多少乱れていたせいで先ほどのように上手く魔法が発動できていなかった。アンデッドの群れに仕掛けた際は一瞬で闇属性の魔力を消し飛ばしたが、今回は時間が掛かっていた。



(さっきよりも杖の光が弱い……いや、この光の正体が聖属性の魔力なんだ!!)



レイトは杖から放たれる光の正体を見抜き、もしも光を一点に集中させて放てばスケルトンを倒せるのではないかと考えた。この時にレイトの頭に浮かんだのはバルルの「虫眼鏡」であり、彼女はダインの影魔法を打ち破った時の状況を思い出す。


魔力の使い方は異なるがダインの影魔法も闇属性の系統であり、彼の場合は強い光を当てると魔法が維持できない弱点がある。死霊使ネクロマンサーいの生み出したアンデッドやスケルトンも浄化の光に弱いという点は共通しており、ハルナの杖から放たれる光をより強力に当てることができれば倒せるはずだった。



(光、反射……試してみるか!?)



コトミンの手を退かしてレイトは立ち上がると、両手を重ねて魔法の準備を行う。反魔盾リフレクションを形成して鏡のようにハルナの杖から放たれる光を反射してスケルトンの群れに解き放つ。



「これでどうだ!!」

「「「ッ――――!?」」」



反魔盾は魔法を跳ね返す性質を持ち、これまでにレイトはコトミンの水弾などの実体のある魔法だけを跳ね返してきた。しかし、今回は魔法ではなく魔力その物を跳ね返し、スケルトンの群れを浄化させていく。


ハルナの魔法だけでは光量が弱すぎてスケルトンの浄化に時間が掛かるが、レイトは反魔盾を利用して魔力を一点に収束させて跳ね返す。言うなれば浄化魔法の「弾撃」であり、光を浴びた瞬間にスケルトンは倒れて動かなくなった。



(再生は……しないか)



コボルトのスケルトンを吹き飛ばした時は骨がバラバラに分解しても戻ったが、レイトのの弾撃を受けたスケルトンは倒れると同時に死霊石が砕け散る。魔力を失われた魔石は非常に脆くて壊れやすく、ちょっとした衝撃を与えるだけで壊れてしまう。



「はあっ、はあっ……も、もう限界だよ」

「ハルナ、大丈夫?」

「はあっ……助かった」

「し、死ぬかと思った……」

「凄いな、お前達は……流石は魔法使いだ」

「ぷるんっ!!(←何故か誇らしげ)」



ハルナが魔法を解除した時には周囲には大量の骨が散らばり、どうにかスケルトンの群れを浄化させる事に成功した。レイトは反魔盾を解除すると、コトミンの水弾を跳ね返す時よりも魔力を消費している事に気が付く。



(結構疲れたな。でも、魔力を跳ね返し続けるコツは掴めたぞ)



水弾の場合は反魔盾で弾き飛ばすだけで済んだが、ハルナの浄化魔法の場合は聖属性の魔力を収束させて跳ね返すので高い集中力が必要だった。だが、魔法と同様に魔力を跳ね返す術を身に着けたレイトは自分が魔法使いとしてまた一歩成長したのだと実感する。


アンデッドとスケルトンの群れを無事に討伐できたが、ここでレイトは違和感を抱く。仲間達の姿を確認して一人、ではなく足りない事に気付いた。



「あれ?ウルは何処に行ったの?」

「えっ?」

「そういえばいつの間にかいなくなって……」

「待て!!奴はどこに消えた!?」

「や、奴って?」

「最初に現れたスケルトンだ!!あいつだけは倒れたのを見ていないぞ!?」



ゴンゾウの言葉に全員が衝撃を受け、反魔盾を展開したレイト自身もコボルトのスケルトンだけは止めを刺していない事に気が付く。いつの間にか消えてしまったウルの事も気にかかり、休む暇もなく全員で周囲を探し回った――






――同時刻、村のはずれにてコボルトのスケルトンは傷ついたウルを抱えながら歩いていた。意識を失っているのかウルは逃げる事もできず、時折苦し気な鳴き声をあげる。



「クゥンッ……」

「あらあら、随分と汚れてしまったわね。ちゃんと洗えるかしら?」



スケルトンに抱えられた状態でウルは聞きなれない女性の声を耳にすると、瞼を開いて姿を捕えた。声の主は黒髪の女性であり、その手には髑髏の形をした水晶を握りしめていた。


本来であればスケルトンは生者を発見すれば相手が何者であろうと襲い掛かるはずだが、女性が視線を向けただけでその場にひざまずき、怪我をしたウルを差し出す。この女性こそがバルルに依頼を持ち掛けた相手であり、その正体は「死霊使い」だった。

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