第77話 スケルトン

「い、いったい何が起きてるんだ?」

「分からないよ。だけど、一つだけ分かっている事は俺達は嵌められたんだよ」

「嵌められた?」

「冒険者ギルドに依頼にやってきた女は村長の娘なんかじゃない。俺達を誘き寄せるために嘘の依頼を出したんだ!!」

「何だって!?」



レイトは拳を地面に叩きつけ、何者かは知らないが自分達を罠に嵌めた女を許せなかった。いったい何の目的でこの村に誘き寄せたのかは不明だが、一刻も早くこの場を去る必要があった。



「街へ戻ろう!!」

「で、でも……この人たちを放っていくの?」

「ハルナは優しいな。だが、今の俺達には何もできない」

「せ、せめて墓ぐらいは作ってやりたいけど、もしも僕達が狙われているとしたらここに残るのはまずいよな……」

「ギルドマスターに村の事を伝えた方がいい」

「う、うん……ごめんなさい。必ず戻ってくるからね」



ハルナは村人の死体に頭を下げ、普通の人間ならば死体を見れば怖がるのが普通だが、ハルナは死体を放置する事に哀れむほど優しい心の持ち主だった。学生時代からハルナは優しい子として有名だったと思い出す。



(腕が優れる治癒魔法の使い手は優しい人ばかりだと噂で聞いた事あるけど、ハルナを見ているとあながち間違ってはいないかもな)



こんな状況だがハルナの行動を見てレイトは心が落ち着き、初めて死体を見た事で冷静さを欠いていた。一刻も早くこの場を去る必要があるが、その前に調べる事があった。


レイトが気になったのはコボルトの死体であり、こちらのコボルトは村人が殺したとは考えにくい。恐らくはコボルトを始末したのも死霊使ネクロマンサーいの仕業であり、敵はコボルトの群れを殲滅できる力を持つことを意味する。



(こいつらはどうやって死んだんだ?)



比較的に傷が少ないコボルトの死骸を探し出し、死因を確かめようとした。だが、既に死亡してから何日か時間が経過しているらしく、死骸は腐っていて死因が確かめられない。



「くそ、こいつらはどうやって殺されたんだ?」

「……僕が調べようか?」

「ダインが?」



意外なことに死骸の調査を申し出たのはダインであり、彼は気味悪がりながらも死骸に手を伸ばすと、心臓の部分にナイフを突き立てて胸元を開く。何をするつもりかとレイトは驚いたが、ダインは吐き気を抑えながらも切り開いた胸元を指さす。



「うぷっ……こ、これを見ろよ」

「これって……何?」

「し、死霊石だ。僕も何度か見た事しかないけど、アンデッドを生み出すにはこいつが必要なんだ」

「死霊石?」



死霊石と言われてレイトは学生時代に授業で習った事を思い出す。王国では一般の魔術師が使用を禁止されている魔石がいくつか存在し、その中には「死霊石」も含まれていた。


死霊使いのみが生み出せると言われる「死霊石」は文字通りに怨霊の魂を封じ込めた魔石であり、これを人間や魔物の死体に埋め込む事でアンデッドへと変異させる。死霊石から放たれる魔力によって肉体が動き出すため、死霊石を破壊するかあるいは浄化魔法で打ち消さない限りはアンデッドは倒れる事はない。



「子供の頃に親父の知り合いという死霊使いに話を聞いた事があるんだ。アンデッドを生み出す時は心臓のように肉体の中心部に埋め込む必要があるって……」

「そうだったんだ……でも、こんな物でどうして死体が復活するの?」

「復活じゃなくて憑依だよ。アンデッドは死んだ生物が蘇るわけじゃない。あくまでも死体に悪霊が憑りついているだけなんだ」

「も、もういいよ。早く行こうよ」

「ここにいるだけで気分が悪くなる……早く街に引き返そう」

「私も賛成」

「ウォンッ……」

「ぷるぷるっ……」




レイトとダイン以外は大量の死体を見せつけられて気分が落ち込み、早々に村から引き返したい様子だった。レイトも同じ気持ちだが、ダインは死霊石を取り上げようとする。



「い、一応こいつを持っていくか……死霊使いが現れた証拠になるしな」

「大丈夫なの?」

「お前等は絶対に触るなよ。僕は闇属性の適正があるから平気だけど、普通の人間が触ったらどうなるか分からないからな」



普通の魔石ならば別に触れただけではなんともないが、ダインは死霊石を取り上げて証拠品として持ち帰ろうとした。だが、ダインが手を伸ばした途端に地面が盛り上がり、嫌な予感を抱いたレイトはダインを引き寄せる。



「危ない!!」

「うわっ!?」



レイトがダインを後ろから引っ張ると、地面からが出現した。



「カタカタカタッ……!!」

「ひいいっ!?お、お化け!?」

「ち、違う!!こいつはスケルトンだ!?」



唐突に現れた白骨の化物を見てハルナは悲鳴を上げてコトミンに抱き着き、ダインはレイトの腰に抱き着きながら訂正した。スケルトンはアンデッドの変異種であり、死体が腐り果てて骨だけの状態となった存在である。


肉も川も眼球さえも失ったスケルトンは言葉を話す事はできないため、顎を鳴らす事しかできない。胸元には死霊席が埋め込まれており、こちらは胸骨と一体化していた。ゴンゾウは先ほどのアンデッドのようにスケルトンを盾で押しつぶそうとした。



「二人とも下がれ!!」

「ダイン、俺の後ろに!!」

「わわっ!?」



ゴンゾウが駆けつける姿を見てレイトは両手を構えて魔盾プロテクションを展開すると、ゴンゾウはスケルトンに目掛けて盾を叩き込もうとした。だが、スケルトンはまるで獣のような素早さでゴンゾウの一撃を回避すると、レイト達に目掛けて突っ込んで魔盾を蹴りつけた。



「カタカタッ!!」

「うわっ!?な、なんだこいつ!?」

「き、気を付けろ!!スケルトンは身軽で素早いんだ!!」

「筋肉もないくせになんで動けるの!?」

「知らないよ!!魔法の力だろ!?」



スケルトンは魔盾を展開したレイトとダインを執拗に狙い、肉体を動かす筋肉もないにも関わらずに人間離れした力で襲い掛かる。レイト達の前に現れたスケルトンは骨格が普通の人間とは異なり、元々はコボルトだと思われた。


骨だけの状態になっても元の肉体の力は変わらず、しかも肉がない分だけ動きが素早い。魔盾の破壊が不可能だと判断したスケルトンは壊すのではなく、魔盾を蹴りつけてレイトとダインを地面に押し倒す。



「うわっ!?」

「ぎゃあっ!?」

「カタカタッ!!」

「させるかっ!!」



倒れた二人にスケルトンは襲い掛かろうとしたが、ゴンゾウは寸前で盾を振り払って吹き飛ばす。スケルトンはゴンゾウの怪力によって派手に吹き飛ばされ、骨があちこち散らばる。



「た、倒したの!?」

「だ、駄目だ!!スケルトンは死霊石を破壊しない限りは復活するんだ!!」

「何だと!?」



ダインの言う通り、バラバラに飛び散ったはずのスケルトンの肉体は死霊石が埋め込まれた胸骨を中心に集まり、まるで磁石に引き寄せられるかのように骨同士が結合し、元の姿へと戻った。スケルトンを倒すにはアンデッドと同様に跡形もなく押し潰すか、あるいは死霊石を破壊しなければならない。



(こいつ動きが速すぎる!!ゴンちゃんがいくら怪力でも攻撃を当てられなかったら……待てよ、あいつもアンデッドならハルナの浄化魔法に弱いはずだ!!)



相手がアンデッドならばハルナの浄化魔法は効果絶大であり、レイトは彼女に振り返って魔法をかけるように頼もうとした。だが、ハルナ達の周りにはいつの間にか別のスケルトンに囲まれていた。



「ハルナ、下がって!!」

「グルルルッ!!」

「ぷるぷるっ!!」

「うわぁんっ!?レ、レイト君助けてぇっ!!」

「「「カタカタカタッ!!」」」



隠れていたスケルトンは一体だけではなく、今度は元は人間と思われるスケルトンの群れが現れてハルナ達を取り囲んでいた。ハルナは恐怖のあまりに冷静な判断ができないのか、コトミンの後ろに隠れて怯える事しかできなかった。

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