第79話 格の違い

「ちゃんと生きてるわね。これ以上に傷つけては駄目よ。折角の綺麗な毛皮が台無しになるんだから」

「カタカタッ……」



コボルトのスケルトンは跪いてウルを捧げると、死霊使いは毛皮に触れようとした。彼女の目的は白狼種の美しい毛皮をはぎ取り、自分の物にする事だった。



「グルルルッ……!!」

「あら、子供と言えども流石は白狼種ね。動けないほどに痛めつけられてもまだそんな反抗的な態度がとれるなんて気に入ったわ」



スケルトンに抑えつけられながらもウルは牙を剥き出しにして死霊使いを睨みつけるが、彼女は全く怯えた様子はない。ウルは女から異様なまでのを感じ取り、今迄に遭遇したどんな魔物よりも不気味な存在だと認識した。



「ク、クゥンッ……」

「怯える必要はないわ。すぐに楽になるのだから」

「ウォンッ!?」



死霊使いは懐から短剣を取り出すと、スケルトンにウルを地面に抑えつけさせた。このままでは殺されると思ったウルは鳴き声を上げようとしたが、それも予測していたのかスケルトンは頭を抑えて叫べないようにした。



「安心しなさい。貴方の毛皮は大切にしてあげるわ」

「ッ――――!?」



短剣をウルの首元に構えた死霊使いは冷たい笑みを浮かべ、首元を切り裂いて止めを刺そうとした。だが、彼女の手元に石が飛んできて短剣を弾き飛ばす。



「きゃっ!?」

「カタカタッ!?」

「ウォンッ!!」



死霊使いが悲鳴を上げるとスケルトンの力が弱まり、その一瞬の隙を逃さずにウルはスケルトンの拘束から脱出した。死霊使いは逃げられたウルよりも石が飛んできた方向に視線を向け、忌々し気な表情を浮かべた。



「ウル!!無事か!?」

「ウォンッ!!」



石を放ったのはレイトであり、彼の右手には反魔盾リフレクションが構築されていた。お得意の弾撃で石を弾き飛ばして死霊使いの短剣を吹き飛ばし、殺される寸前だったウルを救い出した。


主人が駆けつけてきてくれた事にウルは嬉しそうに尻尾を振り、即座に彼の元へ向かう。ウルが無事なのを知ってレイトは安堵すると、頭に乗っかっていたスラミンに礼を告げた。



「ウル、お礼を言うならスラミンに言うんだぞ」

「ウォンッ?」

「こいつがお前の気配を感知してここまで案内してくれたんだ」

「ぷるんっ♪」



実はレイトがウルを見つけ出せたのはスラミンのお陰であり、実はスライムには他の生物を感知する特殊能力があった。その能力のお陰で村のはずれまで移動していたウルを見つけ出し、ついでに村を襲った首謀者を見つけ出した。



「お~い!!レイト、こっちにいるのか!?」

「はあっ、はあっ……ちょ、ちょっと待ってよ~」

「レイト、足早い」

「ウルは無事か!?」

「皆、こっちだよ!!」



少し遅れてダイン達も駆けつけ、無事に全員が合流を果たした。死霊使いは面倒な表情を浮かべ、自分の傍に控えるスケルトンに命令を与えた。



「さっさと始末しなさい」

「カタカタカタッ!!」

「おっと、出番だぞコトミン!!」

「了解」

「ぷるんっ!!」



コボルトのスケルトンが向かってくるのを見てレイトはコトミンに声をかけると、彼女はスラミンを抱きかかえた状態で前に出た。スケルトンが駆けつける前に彼女はスラミンの口元に手を差し伸べた状態で放水させる。



「水鞭」

「ぷるしゃあっ!!」

「カタタッ!?」

「……まさか、人魚族の魔法!?」



スラミンが吐き出した水はコトミンの手に触れた瞬間、鞭のように軌道を変化させてスケルトンを吹き飛ばす。ダインの影魔法と似てはいるが、こちらは拘束が目的ではなく相手を吹き飛ばすのを主軸にした魔法である。


水鞭に吹き飛ばされたスケルトンは全身が水浸しの状態で地面に倒れ込み、即座に起き上がろうとしたが濡れてしまったせいで足元を滑らせ、持ち前の素早さを失った。



「カタタッ!?」

「よし、今だハルナ!!」

「うん、分かった!!えっと……ラ、ライト!!」

「その魔法は……何のつもりかしら?」



ハルナが杖を構えると死霊使いは最初は浄化魔法を繰り出すつもりかと考えた。だが、彼女が使用したのは聖属性の魔法の中でもの「ライト」と呼ばれる魔法だった。


魔法が発動するとハルナの杖先から光の球体が出現した。このの正体は聖属性の魔力で構成された光の塊であり、本来は暗い場所を照らすぐらいにしか利用されない魔法である。ハルナが使用したホーリーライトの下位互換の魔法だが、レイトからすればこちらの方が



「喰らえ!!」

「まさか!?」



レイトはハルナの作り出した光球の前で反魔盾を展開した右手を振りかざし、それを見た死霊使いは信じがたい声を上げる。レイトの狙いは光球を弾き飛ばし、それをスケルトンに直撃させた。



「ッ――――!?」

「よし、やっぱり効いた!!」

「やったぁっ!!」

「す、すげぇっ……まさかこんな方法でスケルトンを倒せるなんて」

「流石はレイト」

「魔法を作ったのはハルナもだぞ?」

「なら流石はレイトとハルナ」



普通の生物に光球を当てたところで何の損傷も与えられないが、相手がスケルトンのような死霊系の魔物には効果は絶大だった。聖属性の魔力の塊をぶつけられたら死霊石は機能を失い、闇属性の魔力が完全に消えて元の死体と化す。


スケルトンが浄化された光景を見て死霊使いは唇を噛み、あと一歩で白狼種を手に入れられるという状況で邪魔が入った事に苛立つ。だが、怒っているのはレイト達の方であり、村を壊滅させた張本人を前にして逃がすつもりはなかった。



「お前がこの村をめちゃくちゃにした奴か!?」

「村の人たちはどこにやったの?」

「……応える義理はないわね」

「ま、待て!!逃がすと思ってんかっ!?」



レイト達の質問に答えずに女性は立ち去ろうとしたが、その前にダインが影魔法を繰り出す。



「シャドウスネーク!!」

「影魔法?面白いのを使うわね……でも、私には通じないわ」

「うわっ!?」



ダインは自分の影を黒蛇の如く変化させて死霊使いに放つが、信じがたいごとに女性はダインの影蛇シャドウスネークを掴み上げた。今までどんな相手にも防がれた事がない自分の影蛇があっさりと抑えられたことにダインは動揺を隠せない。



「う、嘘だ!?こんなの有りえない!?」

「ダイン!?どうしたの!?」

「いつも通りに拘束すれば……」

「で、できないんだよ!?なんで動かないんだ!?」

「力量の差という奴よ」



これまではどんな敵でも影魔法が当たれば拘束は可能だった。しかし、女性に影を掴まれた途端にダインの影魔法の制御が効かず、女性は影蛇を撫で回す。



「どうやら坊やも私と同じ闇属性の使い手のようだけど、まだまだひよっこね。影魔法は確かに便利だけど、防ぐ手段はいくらでもあるわ。例えば身体に魔力を纏えばこうして掴み取る事も、引き寄せる事もできるのよ」

「うわぁっ!?」

「ダイン!?」

「いかん、掴まれっ!!」



女性は影蛇を引き寄せた瞬間、ダインの身体が逆に引っ張られた。慌ててゴンゾウが彼の身体を掴んで抑えつけようとしたが、信じられない力で二人とも引き寄せられていく。



「ば、馬鹿な!?俺が力負けだと!?」

「ど、どうなってるんだ!?これじゃまるで……」

「その通りよ。貴方の影魔法は私が主導権を握らせてもらったわ」

「まさか、魔法の操作を奪った!?」



死霊使いはダインの影魔法を逆利用し、彼女が影魔法を行使してダインとゴンゾウを引き寄せた。どんな怪力を誇る存在でも影魔法で実体化した影を破壊する事はできず、ゴムのように影を伸縮させて死霊使いは二人を引き寄せた。

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