第74話 二度ある事は……
「そうそう、あんたらに仕事の依頼が来てるよ」
「え!?なんで!?」
「正確に言えばあんた宛ての依頼だけどね」
「俺宛て?」
「すご~い!!レイト君頼りにされてるんだね!!」
「流石はレイト」
「ぷるぷるっ♪」
「ウォンッ♪」
銀級のゴンゾウやハルナならばまだ分かるが、しがない鋼鉄級の冒険者でしかない自分宛てに依頼が来るなど思わずにレイトは驚く。だが、差出人の名前を見て顔をしかめた。
「……この依頼、断る事できますか?」
「え!?何言ってんだよ!!指定依頼だぞ!?」
「特に理由もなく断れば依頼人に対しての不義理になるぞ」
「いったい誰からの依頼なの?」
「……あの村の村長だよ」
「あの村って、前に行った村の事?」
差出人の名前は以前に二回ほど防衛の依頼を受けた村であり、最初はゴブリンの討伐と二回目はオオツノオークが率いるオークの群れの討伐をやらされた村だった。まさか三度目の依頼が来るとは思わず、しかも相手側はレイトを指定してきた。
過去に二度も村を守ったことがある実績から村長はレイトを頼りにしているらしく、他の冒険者ではなく彼に指定依頼を申し込む。レイトとしては村に行く度に大変な目に遭っているので断りたいところだが、ゴンゾウの言う通りに指定依頼は通常の依頼とは違って冒険者の信用が関わるため、何の理由も無しに断る事はできない。
「どうせあんたら暇だろう?だったら最初の冒険者集団の仕事として頑張ってきな」
「でも、あの村は前に相当な被害を受けてたんですよ。冒険者に払うお金なんてあるんですか?」
「ちゃんと内容を確認しな」
「内容?えっと……え、なんだこの金額!?」
「す、凄い大金じゃないか!!僕達全員で分けてもかなりもらえるぞ!!」
過去に二度も魔物の襲撃を受けているにも関わらず、今回の依頼の報酬は過去一番だった。五人で山分けしたとしても相当な金額が貰えるが、これほどの大金をどうやって用意したのかレイトは気にかかった。
(あの村は確かに貧乏には見えなかったけど、それでもこの報酬の金額は法外過ぎる。いったいどうやって用意したんだ?まさか冒険者を呼び出すために嘘の報酬じゃないだろうな……)
依頼人が冒険者を雇う際に報酬を誤魔化したり、あるいは用意できなかった場合は二度と冒険者ギルドは依頼を引き受ける事はない。正確に言えば依頼を申し込んだ人間が暮らす村や街の者が依頼の申し込みができなくなる。そのために冒険者ギルドへの依頼は慎重に行わねばならず、虚偽は絶対に許されない。
「あたしも手紙を見た時は値段を間違えてるんじゃないかと思ったんだけどね。手紙を運んできたのは村長の娘はしっかり払うと言ってたよ」
「え?村長の娘さんがわざわざ来たんですか?」
「ああ、村長からの手紙と一緒に前金まで持ってきたよ。結構な額だったけど、あんたらが失敗した時を考慮してうちで預からせてもらうよ」
「え~!?俺達が受ける依頼なのに!?」
「……いっておくけど、前金だけでも相当な額なんだよ。もしもあんたらが使い切って依頼に失敗したら払えるのかい?」
「うっ……み、皆いくら持ってる?」
バルルの言葉にレイトは顔色を変え、念のために皆の財布事情を尋ねると、全員が顔を反らした。
「すまん、俺はいつも稼いだ金は食費で全部使ってしまうんだ」
「僕もローブを新調したばかりで持ち合わせは……」
「私はそもそもお金持ってない」
「ごめんね、来月まで待てば魔術協会から支援金がくるはずなんだけど……」
「ぷるんっ……」
「ウォンッ……」
「いや、君たちはいいから」
何故か申し訳なさそうな表情を浮かべるスラミンとウルの頭を撫でると、レイトは自分の手持ち金を確認した。実はこれまでの依頼でそれなりの金は稼いでいるが、レイトの場合はコトミンやペット達の面倒を見ているため、自分一人で自由に使っていい金は限られている。
「その様子だと前金分の持ち合わせはなさそうだね。じゃあ、大人しく仕事に行ってきな。へましないように気をつけるんだよ」
「せ、せめて少しぐらい貸してくれませんか?」
「駄目だね。そもそも今回の依頼はどうにもきな臭いんだよ」
「きな臭い?」
バルルの言葉にレイト達は首を傾げ、今回の依頼人は過去に二度も冒険者ギルドに頼っている相手であり、ギルド側からすれば身元もしっかりと判明している相手である。それなのにバルルは今回の仕事はどうにも怪しい気がした。
「これはあたしの勘に過ぎないけどね。依頼を申し込んできた女はどうも怪しいんだよ」
「そういえば村長の娘さんが依頼にきたんですよね。どんな人でした?」
「黒髪で若くて綺麗な女だよ」
「え?あの村にそんな人だっけ?」
「分からない。そもそも会ったことがない気がする」
「う~ん、俺も見た事ない気がするけど」
レイトは依頼人である村長と何度か顔を合わているが、彼の娘らしき人物とは出会っていない。そもそも村長はかなりの高齢であり、バルルの言うような若い娘がいることに違和感を抱く。
「外見の年齢から察するに二十代半ばぐらいだろうね」
「二十代!?村長は確か八十を超えてたはずですけど……」
「五十過ぎで生まれた子供という事か?」
「もしかしたら凄い若作りが上手い人なのかも」
「いやいや、普通に考えて養子か何かだろ?」
「でも、黒髪の人なら珍しいからあの村に住んでいたとしたら見覚えあるはず」
「「「う~ん……」」」
考えれば考えるほどに依頼の代理人としてやってきた娘は怪しく感じるが、既にギルドは依頼を受けており、前金まで受け取ってしまった。依頼を受理した以上は断る事はできず、バルルはレイト達を村に向かわせる。
「こんなところで考え込んでも仕方ないだろ。ほら、さっさと行った行った!!」
「はあっ……仕方ない、行こうか」
「どうやって移動するんだ?」
「まだ馬車は用意できてないから徒歩で行くしかないよ」
「え~?またあそこまで歩いていくの?」
「地味に遠いからきつい……レイト、抱っこして」
「そこはゴンちゃんに頼みなよ」
「俺は構わんが……」
ゴンゾウはコトミンを片腕で抱き上げると、自分の肩の上に乗せた。普通の女子ならば身長が四メートル近いゴンゾウの上に乗り込めば恐怖を覚えるだろうが、コトミンは景色の良さに感動した。
「おおっ、良い眺め。レイトに肩車してもらった時よりも高い」
「お前等そんな事までしてたのか?」
「コトミンちゃんずるいよ!!レイト君、私も肩車して!!」
「うわわっ!?きゅ、急に抱き着かないで!!」
「あんたらイチャついている暇があるならさっさと行きな!!」
「ぷるんっ」
「ウォンッ!!」
コトミンが肩車してもらったと聞いて嫉妬したのか、ハルナはレイトの背中に抱き着く。この際に大きな胸が背中に押し当てられてレイトは慌てふためくが、その隣ではスラミンがウルの頭の上に乗り混む。急いで移動するさいはスラミンは誰かの上に乗るのが定番だった。
バルルはレイト達を見送りながら手紙を確認すると、過去に二度も依頼を申し込んだ村長が記した文字で間違いなかった。しかし、どうしてもバルルは手紙を持ってきた人物の事が気になった。
(どうも嫌な予感がするね……まあ、あいつらなら大丈夫だろうけど)
レイト達の実力を把握しているバルルは、彼等なら仕事をやり遂げるだろうと信じているが、それでも嫌な予感は消えなかった――
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