第73話 弾撃
「レイト、私が先に銀級になっても今まで通りに接してくれたらいい」
「あ、ありがとう……コトミンは優しいね」
「おい、表情引きつってるぞ」
「そういうダインこそ苦虫を嚙み潰したみたいな顔してるよ」
コトミンの言葉にレイトとダインは苦笑いを浮かべ、仮に彼女が鋼鉄級に昇格したとしても銀級冒険者になるまでは一年の猶予がある。しかし、先日のレイト達のようにギルドマスターのバルルに実力を認められたら猶予無しで試験を受けられる資格を与えられるため、必ずしもレイト達が追い越されないとは限らない。
「まあ、お嬢ちゃんなら鋼鉄級の昇格試験はらくらく突破するだろうね。そうなればあんたらは階級的には並ぶわけだ。あんまりうかうかしてると本当に追いつかれちまうよ」
「うっ!?」
「ぼ、僕達だって試験を受ければいいんだよ!!」
「そういう事だね。だけど、銀級の昇格試験は鋼鉄級のような簡単な内容じゃないからせいぜい気をつけるんだね」
鋼鉄級の昇格試験の際はオーク一匹の討伐だったが、銀級の場合は試験の難易度がさらに高まり、黒虎の冒険者は一年以上も合格者が出ていない。
「あんたらのお陰でやる気を取り戻した奴等もいるからね。だけど、そいつらも敵に回る可能性もある」
「ど、どういう意味ですか?」
「試験によっては冒険者同士が競い合う事態に発展しかねないからさ。鋼鉄級の時は魔物を討伐するだけで済んだけど、あの試験の時だって獲物を奪い合うために冒険者同士が争っただろう?」
「そ、そうだ!!僕も大変な目に遭ったんだ!!」
「あたしが銀級の試験を受けた時は事前にバッジを渡されて、参加者同士でバッジを奪い合う内容だったよ。他の冒険者からバッジをより多く奪った奴が合格という条件だったね」
「え~!?じゃあ、僕とレイトが争う事になるかもしれないのか!?」
「あんたらだけじゃないよ。他に参加する同じギルドの冒険者も敵同士になる可能性があるからね。まあ、あたしの年での試験の話だから今も同じ試験が行われるとは限らないけどね」
昇格試験の内容は毎回異なり、バルルの年では冒険者同士を積極的に争わせる内容の試験が実地された。レイトとダインが受ける試験がもしも同じだった場合、二人は敵同士になる可能性も十分有り得た。
「あんまり仲良しこよしで活動していると、試験の時に敵同士になったら困る事になるよ」
「ダイン……もしも敵になった時は遠慮しなくていいからね」
「こ、怖い事を言うなよ。もしもの話だろ?」
「もしも私が試験を受けるときにレイトと一緒だったら、スラミンはどっちの味方?」
「ぷるんっ!?」
スラミンはレイトを主人と認識しているが、普段はコトミンと行動を共にしている。もしもレイトとコトミンが争う場合、どちらの味方になればいいのか分からずに困った表情を浮かべる。それを見てハルナが起こった風に注意した。
「もう、コトミンちゃん!!スラミン君を困らせたら駄目だよ!!二人が敵同士になるなんて有りえないんだから!!」
「いや、十分にあり得る内容なんだけどね……」
「だが、ギルドマスターの話を聞く限りでは必ずしも冒険者同士が争うとは限らないんじゃないか?」
「は?なんでそうなるんだい?」
「いや……他の冒険者からバッジを奪えばいいんだろう?なら仲間と協力して他のギルドの冒険者から奪うという手もあるんじゃないか」
「そ、そうか!!その手があったか!!」
「……まあ、そう上手くいけばいいけどね」
ゴンゾウの言葉にダインは賛同するが、バルルは難しい表情を浮かべた。何か引っかかる点があるのかとレイトは不思議に思うと、バルルは真面目な表情を浮かべた。
「例えばの話だ。ここにあんた達の好物があるとするだろう?」
「い、いきなり何の話だよ?」
「いいから黙って聞きな!!とにかく、目の前にあんた達の一番大好きな食べ物が一人分置かれている。だけど、いざ食べようという時に友達が現れて食べ物を欲しがったらどうするんだい?」
「……二つに分けるとか?」
「そうだね、皆で食べた方が美味しいよ」
「だけど、食べ物は一人分なんだよ。友達が一人だけなら半分ずつになっちまう。もしも他の友達が来たらどうするんだい?皆が仲良く均等に分け合うと思うかい?」
「それは……」
「もしかしたらあんたが食べ物を分けた友達は他の奴には渡さないかもしれない。どっちにしろあんたの手元に残るのは何分割もされた小さな食べ物しか残らないだろう。いくら大好物だからって、そんなもんを食べて満足できると思うのかい?仮に友達に分け与えずに自分一人で食べれば腹いっぱいにはなるだろうけどね。その場合は友達に恨まれる事になるかもしれないけどね」
バルルの話を聞いてレイト達は考え込み、今回の彼女の話に出てきた好物とは試験の合格に必要な物、そして友達とは親しい間柄の冒険者を差している。
自分一人で挑めば合格に必要な物を独り占めできるが、仲間と行動する場合は一人の場合でも倍となり、更に人数が増えれば負担は大きくなる。だが、人数が増えれば一人ではできない行動もとれるため、必ずしも状況が悪化するとは限らない。
「意地悪を言って悪かったね。あたしはずっと
「いえ、なんとなくは言いたい事は分かりました」
「大丈夫、もしもダインがへましても見捨てたりしない」
「なんで僕がへまするのを確定した言い方なんだよ!?そっちこそ足を引っ張るなよ!!」
「まあまあ……」
「やれやれ、先が思いやられるね」
喧嘩を始めたダインとコトミンをレイトが仲介し、その様子を見てバルルは本当に大丈夫かと思う。その一方でゴンゾウはとある疑問を抱く。
「そういえば俺も聞きたいことがあるんだが、レイト達はそれぞれどんな魔法が使えるんだ?」
「え?」
「ハルナは恰好から見るに回復魔法の使い手だろうが、コトミンは水の魔法をさっき使っていたな。レイトは……コトミンの魔法を弾き飛ばしたように見えるが、あれが噂に聞く防御魔法とやらか?」
「あれ!?僕は!?」
「いや、ダインは最初に吹っ飛ばされたからまだ魔法を見てないんだが……」
ゴンゾウの言葉を聞いてレイトは自分の両手を見つめ、今更ながらにある事実に気が付く。それは
これまでに何度かコトミンやダインの魔法を反魔盾で弾いて敵に攻撃を仕掛けた事はあったが、ゴンゾウの言葉を参考に今後は「弾撃」と名付ける事にした。名前の由来は魔法を弾いて敵に撃ち込む事であり、これから最も多用する事になると思われる戦法だった。
「僕の影魔法は凄いんだぞ!!シャドウスネーク!!」
「ぬおっ!?蛇を生み出す魔法か!!」
「ただの蛇じゃなくて影で作り出した蛇だよ!!こいつを相手に巻き付かせて動きを封じ込める事もできるんだぞ!!」
「なるほど、拘束系の魔法という事か」
「その坊やの魔法はあんたでも破れないだろうね。それにしても今時珍しいね、闇属性の魔法の使い手は」
「ダイン君は闇属性なんだ。じゃあ、私の魔法とは相性が悪いんだね」
「うっ……ま、まあ、そうなるかな」
ダインが得意とする影魔法は闇属性であり、それに対してハルナの魔法は聖属性であるため、相性的にはハルナの方が有利である。但し、ハルナの場合は攻撃能力がある魔法は使えないため、魔法使いとして必ずしもダインに勝っているとは限らない。
防御魔法しか扱えないレイトでも、相手が強力な魔法攻撃を繰り出したとしても反魔盾で跳ね返せば十分に勝ち目はある。大げさに言えばレイトはどんな魔法使いにも勝てる可能性を持つが、一人では攻撃魔法も扱えないという弱点を持つ。
(他の三人と比べて俺は魔法使いの才能は劣ってる。でも、それがどうした。才能で劣っているならその分に努力すればいいだけだ)
少し前のレイトならば魔法使いとしての力量に悩んでいたが、色々な経験を経て自分と他の人間を比べて落ち込むのは止めた。バルルはレイトの落ち着き具合を見て感心する一方、彼女は思い出したように一枚の羊皮紙を取り出す。
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