第72話 ゴンゾウの弱点

「悪いが俺を仲間にする話はなかったことにしてくれ!!こんな俺では役に立てない!!」

「「「ええっ!?」」」

「はあっ……またかい」



ゴンゾウの言葉にレイト達は驚く中、バルルは頭を掻きながらため息を吐き出す。まるでゴンゾウが仲間入りを断るのを予測していたかのような反応であり、レイトは事情を尋ねた。



「ギルドマスター!!またってどういう事ですか!?」

「……こいつは図体はでかいんだけど、肝っ玉が小さいんだよ。自分が失敗する度に必要以上に落ち込む悪い癖があるんだ。そのせいでどんな冒険者集団パーティに入っても長続きしないんだよ」

「ううっ……すまない、本当に俺は弱い男なんだ」

「な、泣かないで~」

「ぷるぷるっ(←なぐさめのダンスを披露する)」

「ウォンッ(←スラミンの隣でタップする)」



自分がダインを守れなかったことにゴンゾウは酷く落ち込み、そんな彼にハルナ達は慰める中、ダインはレイトに耳打ちした。



「な、何か凄い落ち込んでるけど、これって僕のせいじゃないよな?」

「う~ん……」

「ダインが落ちたのが切っ掛け。でも、流石に落ち込みすぎ」

「ううっ、俺は情けない奴だ。盾職なのに仲間を守れないなんて価値がないんだ……」



些細な失敗でゴンゾウは酷く落ち込み、まるで小さな子供のように泣きじゃくっていた。忘れていたがゴンゾウはレイト達と年齢はそれほど変わらず、図体は大きくても精神面は未熟な子供だった。



「こいつは才能もあるし、体格ガタイもいいから冒険者になったばかりの頃から頼りにされてたんだよ。だけど、最初に組んだ冒険者の連中と大きな失敗を犯してね。その時に他の奴等に責任を押し付けられて酷い目に遭ったんだよ」

「ええっ!?」

「まあ、こいつに罪を被せた奴等はしっかりとあたしがお仕置きしたんだけどね。でも、どんなに言い聞かせてもこいつは自分のせいで他の奴に迷惑をかけたと思い込んだままなのさ。だから盾職としての役割を果たす事に大きな責任感を抱くようになったんだよ」

「そ、そうだったんだ……」

「ぐすっ、お前も苦労してたんだな。その気持ち分かるぞ」



バルルの話を聞いてダインも他人事ではなく、彼も牙竜のギルドに所属していた頃は他の人間に言いように利用されていた。だからこそダインはゴンゾウに同情し、落ち込んでいる彼に声をかけた。



「失敗したら怖いのはよく分かるよ。だけどな、最初から何でもできる奴なんていないんだよ。失敗しても次の経験に生かせれば無駄じゃないんだ」

「しかし、もしも俺が失敗して他の人に迷惑を掛けたら……」

「馬鹿野郎!!そういう時こそ仲間に頼るんだよ!!本当の仲間なら他の人間が困っている時に手を差し伸べるんだ!!もしも酷い事を言ってくる奴がいたらそいつは仲間なんかじゃない!!」

「そ、そうなのか?」

「ま、まあ、一理あるね」

「ダインが言うと凄い説得力感じるな……」



他の冒険者に利用され続けたダインだからこそゴンゾウの気持ちは理解できるが、落ち込んでいたところで状況は何一つ好転しない。重要なのは失敗しても諦めずに立ち直る事であり、ダインは熱く語り掛けた。



「ゴンゾウ!!僕達を信じろ!!お前が失敗しても見捨てないし、逆に僕達が困った時は全力で手助けしろ!!それが仲間だろうがっ!!」

「ダ、ダイン!!」

「ゴンゾウ!!」

「おおっ、説得した」

「こうしてるとダインの方が隊長っぽいな……」

「これが男の子同士の友情なんだね!!何だか感動しちゃった!!」

「ちょいと暑苦しいけどいい感じに話をまとめたね。やるじゃないかい坊や」



ダインの言葉にゴンゾウは完全に立ち直り、彼と拳を合わせる。しかし、今回はダインのお陰で何とかなったが、ゴンゾウの精神が成長しない限りは何度も同じ失敗を繰り返すかもしれない。


肉体面は強靭だとしても精神面が未熟のままでは不安は残り、ダインの言う通りに他の仲間が補助フォローしなければならない。レイトは隊長として仲間一人一人の能力と特徴を捕捉し、今後の活動の時は気を付けなければならない。



(俺がしっかりしないと皆の実力を発揮できないんだ。これからは頑張らないとな……)



これまでは自分一人が成長する方法ばかりを考えてきたが、今後は仲間と行動するのならば自分だけではなく、他の人間の事も考えねばならない。正直に言えば上手くやれる自信はないが、それでも隊長として頼りにされているのであれば頑張るしかなかった。



「あ、そういえば試合は私達の勝ちだよね。今日は何がもらえるのかな~」

「は?な、何を言ってんだい?」

「……そういえばご褒美をもらう約束をしてたような気がする」

「ん?そうだったか?」

「そ、そうだよ!!凄いご褒美がもらえるんだろうな!!なあ、レイト!?」

「え?あ、うん……ど、どんなご褒美だろうね~」

「ぷるぷるっ(←期待の眼差し)」

「ウォンッ(つぶらな瞳)」

「あ、あんたら……こういう時に限っていきぴったりだね!?」



今回の勝負に報酬があるなどバルルは言い出していないが、ハルナの言葉に乗っかってレイト達は報酬を貰う流れに変えた。そんなレイト達にバルルは渋い表情を浮かべるが、仕方ないとばかりに懐からバッジを取り出してコトミンに放り投げる。



「ほら、受け取りな」

「わっ、なにこれ?食べられる?」

「バッジを食べるんじゃないよ!!」

「バッジ?」

「あれ、これって……冒険者のバッジか?」



コトミンが受け取ったのは銅級冒険者のバッジであり、バルルは正式に彼女を黒虎に迎え入れる事を伝えた。



「ようやく面倒な手続きが終わったからね。これであんたは正式にうちの冒険者になったよ」

「おおっ」

「えっ!?ちょ、ちょっと待ってください!!コトミンは試験は受けてないでしょ?」

「は?あんた知らなかったのかい?もうお嬢ちゃんは試験を受かってるんだよ」

「ええっ!?」

「ぶいっ」



レイトが知らぬうちにコトミンは冒険者になるための試験を受けていたらしく、既に合格を果たしていた。レイトとダインは訓練校に半年も通ってようやく合格したが、コトミンの場合は一か月未満で試験に合格した事になる。



「そのお嬢ちゃんは元から魔物を倒せるだけの実力はあるし、筆記試験でも優秀な成績を残してたよ。相当に頑張ったんだろうね」

「勉強の方はレイトが見せてくれた本のお陰で助かった」

「本?」

「俺が訓練校に通っている時に使ってたノートの事?」



コトミンはレイトが訓練校時代に書き記したノートを読み漁り、そのお陰で魔物の知識を深める事ができた。筆記試験も実技試験も優秀な成績を残してコトミンは合格を果たし、晴れて黒虎の冒険者となった。


自分達が苦労して冒険者になれたのにコトミンがあっさりと合格した事にレイトとダインは何とも言えない気持ちを抱くが、コトミンが冒険者になった事で正式に冒険者集団を組むことができた。



「これであんた等は全員が冒険者になったわけだ。正直、部外者を連れ歩かれるとこっちが困るからね」

「ギルドマスター……もしかして面倒ごとを避けるためにコトミンを冒険者にしたんじゃ」

「そうなの?」

「んなわけあるかい!!いくら身内だからって試験で手を抜くような真似はしないよ!!お嬢ちゃんが合格したのはちゃんと努力した結果さ!!」

「えっへんっ」

「コトミンちゃん凄いね!!尊敬しちゃうよ~!!」

「いや、ハルナの方が階級は上だろ?」



ハルナの場合は試験無しで銀級冒険者になっており、階級的にはコトミンよりも二つも上である。だが、バルルの見立てでは一か月も経てばコトミンは昇格試験を受けられるようになるため、すぐに鋼鉄級冒険者にまで昇格すると確信していた。



「あんたらもぼやぼやしてる暇はないんじゃないかい?銀級冒険者の昇格試験を受けられるようになったからって調子に乗るんじゃないよ。重要なのは試験に合格することだからね。のんびりしているとあっという間にお嬢ちゃんに追いつかれるよ」

「「うっ!?」」

「ほう、二人はもう昇格試験を受けられるのか。それは凄いな」

「試験で一発合格したあんたが言うと嫌味にしか聞こえないね」



ゴンゾウは初めての昇格試験で合格を果たし、あっさりと銀級冒険者に昇格を果たした。ハルナはともかく、レイトとダインは後輩であるコトミンに追い越されるかもと焦燥感を抱く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る