第71話 螺旋水弾
「ギルドマスター!!提案があります!!」
「あん?何だいこんな時に?」
試合中だというのにレイトの思いがけぬ言葉にバルルは眉を顰めるが、スラミンを抱えたコトミンが前に出る。
「私達はこれからギルドマスターにすんごい攻撃をする。もしかしたら大怪我じゃすまないかもしれない」
「ほう、そいつは面白いね。奥の手かい?」
「でも、その技は時間が掛かる。だから私達の攻撃が怖かったら今のうちに倒した方がいい」
「……なるほど、それは挑発かい」
自分を大怪我に追い込むと言われてバルルは笑みを浮かべ、ここで勝負を断られたらレイト達に勝ち目はない。しかし、バルルはあっさりと引き受けてくれた。
「いいだろう。そこまで言うなら相手をしてやるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「但し、その奥の手やらを受け切れたらあたしの勝ちだよ!!その条件なら受けてやるよ!!」
「分かった」
「ええっ!?本気かお前等!?」
「だ、大丈夫なの?」
「いったい何をするつもりだ?」
場外に落とされた者たちが心配そうな声を上げるが、レイトとしても作戦が上手くいくかは自信はない。だが、仲間であるコトミンを信じて最後の賭けに出た。
まずはスラミンを頭に乗せたコトミンは両腕を前に伸ばすと、彼女の両手の間に目掛けてスラミンは水を吐き出す。一直線に伸びた水流をコトミンは掴み取ると、粘土のように練り固めてある形へと変形させた。
「ここをこうして……こう」
「おおっ!!なんか格好いい!!」
「ぷるぷるっ!!」
「そいつは水の槍かい?そんなもんであたしに勝てると思ってるのかい?」
コトミンが作り上げたのは槍の形に整えた水の塊であり、それを見たバルルは拍子抜けした表情を浮かべる。先ほど水弾を破った彼女からすればどんな形に整えようと水の塊など恐れるに足りない。
しかし、水の槍を手にしたコトミンはさらにねじり始めた。柄の部分に何十にもねじりを加えると、レイトに視線を向けた。既に彼も両手で
「レイト、大丈夫?」
「問題ない。思いっきり頼むよ!!」
「分かった……ていっ!!」
反魔盾を形成したレイトに目掛けてコトミンは水槍を投げ放つと、反魔盾に跳ね返された水槍に反発力が加わり、凄まじい勢いでバルルに突っ込む。先ほどの水弾とは比べ物にならない速度で迫る水やりにバルルは慌てて両腕を構えた。
「おわぁっ!?」
「行けぇっ!!」
両腕に装着した手甲で水槍を受け止めようとしたバルルだったが、コトミンが投げた水槍はねじりが加えられており、彼女の手元を離れた際に槍全体が回転しながら迫る。
反魔盾で水槍を弾き飛ばすだけでは威力は足りず、ねじりを加える事で回転力を高めて攻撃を行う。バルルは衝撃を受け止めきれないと判断し、咄嗟に両腕を上にあげて衝撃を受け流す。
「おらぁっ!!」
「弾かれた!?」
「も、もう駄目だ!!」
「ここまでか……」
レイトとコトミンの水槍をバルルは場外ギリギリで受け流したのを見てダインたちは敗北を確信したが、ここで攻撃には加わっていなかったウルが飛び出し、体勢を崩しているバルルに目掛けて体当たりした。
「ウォンッ!!」
「げふぅっ!?」
ウルの体当たりを腹に受けてバルルは場外に落ちると、それを見ていた者たちは唖然とした。だが、レイトとコトミンだけは額の汗をぬぐい、場外に落ちて呆然としているバルルに告げた。
「これで俺達の勝ちですよね?」
「私達はそれぞれ一回ずつしか攻撃していない。約束は守った」
「あ、あんたら……くそっ、まんまと嵌められたよ!!」
「クゥ~ンッ♪」
「ぷるぷるっ♪」
最初の約束でレイト達の攻撃を受け切ればバルルの勝利という条件だったが、水槍に関してはレイトとコトミンとスラミンの協力で放たれたが、ウルに関しては手を加えていない。つまり、ウルだけは攻撃の機会を残していた。
正直に言えば水槍をバルルが受け止められるとは思わなかったが、彼女を場外の方まで追い込めばウルに任せるつもりだった。レイトが挑発まがいの行動を取ったのはバルルの注意を引くためであり、結果的に勝利を掴んだ。
(この人、やっぱり強い。あんな攻撃を受け止めるなんて有りえないだろ……)
バルルがその気ならば水槍を避ける事もできただろう。だが、彼女は律儀に約束を守ってレイト達の攻撃を受けた。もしもバルルが勝負に乗ってこなければレイト達は今頃敗北していたかもしれない。
(これが黄金級冒険者か……まだまだ道のりは遠いな)
鋼鉄級に昇格したばかりのレイトは黄金級冒険者との実力差を思い知り、もっと強くならねば一人前の冒険者は名乗れないと痛感した――
――訓練を終えた後、レイトはコトミンと一緒に編み出した技の名前を考える事にした。この時に他の仲間の意見も聞き、最終的に多数決で決める事にした。
「多数決の結果、ダインの螺旋水弾に決定しました!!」
「おっしゃあっ!!」
「うむ、良い名前だな」
「むうっ……私のぐるぐる槍の方が可愛いのに」
「え~?くるくる槍の方が可愛いよ~」
「ぷるぷるっ(ぷるぷる槍が良かった)」
「ウォンッ(←スラミンの頭の上に手を乗せる)」
女性陣が付けた名前は気が抜けるため、男性陣が賛成した「螺旋水弾」に決定した。通常の水弾よりも螺旋水弾は構成に時間が掛かるが、その分に威力は絶大で赤毛熊などの魔物でも急所を打ち抜けば一撃で倒せる威力はあった。
「それにしてもコトミンがこんな凄い技を思いついてたなんて……どうして隠してたの?」
「別に隠してないし、さっき思いついただけ」
「さっき!?じゃあ、ぶっつけ本番で試したのか!?」
「前にレイトが盾をくるくる回してるのを見て思いついた」
コトミンが螺旋水弾を作り出せたのはレイトの技を参考にしたらしく、今まで試した事はないが結果的には大成功だった。バルルでさえも完全には受け止めきれず、どうにか軌道を変えて受け流すことしかできなかった。
「たくっ、あたしのお気に入りに傷をつけやがって……大したもんだよ」
バルルが装備していた手甲は壊れかけており、もしも彼女が素手の状態で受けていたら無事では済まなかった。流石のレイトもあんな技を人間相手に撃ち込むのはこれっきりにしておきたい。
今回は相手がバルルだから攻撃を仕掛けたが、普通の人間相手にあのような技を打ち込めば確実に殺してしまう。相手が魔物に限った時だけ使用する事を心掛け、二度と人間相手には使わないように注意する。
「それでどうだい?これから
「え?」
「え、じゃないよ!!あんたらが一緒に戦えるかどうか確かめるためにわざわざ戦ってやったんだろうがっ!!」
バルルの言葉に全員がお互いの顔を見合わせ、先ほどの戦闘で新しく仲間に入ったゴンゾウの実力は把握できた。バルルでさえも追い込めるほどの怪力の持ち主であり、前衛職としてこれ以上に心強い存在はいない。しかし、当のゴンゾウは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「すまない皆……俺は役目を果たせなかった」
「えっ!?何言ってんの?」
「十分役に立ってたと思うけど……」
「私達の事、ちゃんと守ろうとしてくれた」
「いや、俺が不甲斐ないばかりにダインを落としてしまった。本当にすまない!!」
ゴンゾウは仲間の前で土下座を行い、その行動に全員が驚かされた。彼は盾職として誇りがあり、それなのに自分が仲間を守り切れなかったことに恥じていた。
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