第70話 バルル再戦
「大した馬鹿力だね!!」
「ぬおっ!?」
「と、止めた!?」
「嘘だろ!?本当に人間かあの人!?」
ゴンゾウの突進を場外ぎりぎりで食い止めたバルルは拳を振りかざし、盾越しに殴りつけた。ゴンゾウの巨体が後ろに追い込まれ、人間離れした怪力にレイト達は驚愕した。
今度はバルルの方からゴンゾウに仕掛け、目にもとまらぬ速さで拳を繰り出す。盾で防いでいるとはいえ、一撃受け止める度にゴンゾウの巨体が後退していく。
「おらおらおらっ!!」
「ぐぅうっ!?」
「や、やばい!!場外に押し込まれるぞ!?」
「コトミン、頼む!!」
「分かった。スラミン、カモン」
「ぷるんっ!!」
スラミンが口から水を放つと、それを両手で受け止めて粘土のように練り固めてレイトに投げ放つ。バルルの位置を確認し、右手に
「ギルドマスター覚悟ぉおおおっ!!」
「うぷぅっ!?」
「あ、当たったぞ!!」
「ちょっと恨みがこもってそう」
水弾が顔面に的中したバルルは攻撃を中断し、必死に頭を包み込んだ水を掻き分けようとした。だが、人魚族ではない彼女では水を掴み取る事はできず、徐々に息苦しくなっていく。
このままバルルが酸欠で気絶すればレイト達の勝利と思われたが、急に彼女の顔を覆いこむ水が縮小化していく。どうやら水を飲み込んでいるらしく、数秒足らずで全ての水を飲み込む。
「うぇっぷっ……二日酔い以外でこんなに水を飲んだのは初めてだね」
「の、飲んだ!?あの量を!?」
「腹壊さないのか!?」
「わ、私の水弾が破られた……がくりっ」
「ぷるんっ!?」
「ああ、コトミンちゃんが大変!?」
「流石はギルドマスターだな」
水を飲みほしたバルルに全員が驚きを隠せず、特に自分の魔法を破られたコトミンはショックが大きかったのか膝を崩す。レイトは以前にオークに水弾を飲み込まれた事はあったが、それを人間のバルルが実行した事に驚きを隠せない。
(この人の腹は底なしなのか!?いや、そんなはずはない!!あれだけ水を飲んだなら動きも鈍るはずだ!!)
平然を装っているがバルルとて人間であり、今ならば攻撃の好機だと考えたレイトはダインに声をかけた。
「ダイン!!影魔法だ!!」
「お、おうっ!!」
「おっと、そうはいかないよ!!」
「いかん!?来るぞっ!!」
声をかけられたダインが魔法の準備をすると、バルルは彼が影魔法を繰り出す前に駆け出す。ゴンゾウが止めようとしたが、動きは圧倒的にバルルの方が早いために彼女はダインを抱き上げる。
「おらぁあああっ!!」
「ぎゃああっ!?」
「はわぁっ!?」
「ダイン!?ハルナ!?」
ダインを持ち上げたバルルは近くにいたハルナに目掛けて投げつけると、反射的にハルナは頭を伏せて回避したが、ダインは場外に落とされてしまう。地面が芝生なので怪我は負わずに済んだが、落下の衝撃で意識を失ったらしい。
「うぐぅっ!?」
「ダ、ダイン君!?大丈夫!?」
「あ、ハルナ!!下りたら駄目だ!!」
ハルナがダインを心配して場外に下りようとしたが、慌ててレイトは引き留めた。見た限りではダインは怪我を負っておらず、彼の治療は試合の後に行えば良い。今は一人でも戦力が必要であり、ハルナを場外に落とすわけにはいかなかった。
「はんっ、一番厄介な坊やが消えたね。これで一気にあたしが有利になったわけだ」
「ダイン……すまない、俺が守り切れなかった!!」
「ゴンちゃん、反省は後だよ!!」
「まだ試合は終わっていない。ダインの仇を討つ」
「そうだよ!!草葉の陰から見てるダイン君のためにも!!」
「その言い方はどうかと思うけど……いやまあ、ある意味では間違ってないんだけど」
相手を拘束する影魔法はバルルにとっては一番の脅威であり、早々にダインを場外に落とせたのは彼女にとっては都合が良かった。ゴンゾウは彼を守り切れなかった事に悔しく思い、ここからは他の仲間は何としても守るために立ちはだかる。
全員がバルルの行動を注意深く観察する中、レイトはウルが居ない事に気が付く。彼も先ほどまでは試合場にいたはずだが、いつの間にか姿を消している事に気が付く。
「あれ?そういえばウルは何処に行ったんだ?」
「ウル君?何処に行っちゃったの?」
「さっきまでスラミンの傍にいたはずだけど……」
「おいおい、試合中に何をよそ見してるんだい?来ないのならこっちから行くよ!!」
「皆、来るぞ!!」
ウルが居ない事に気付いたレイト達は彼を探すと、バルルが隙を逃さずに襲い掛かろうとした。ゴンゾウが立ちはだかろうとした時、彼の巨体に隠れていたウルが飛び掛かる。
「ウォオンッ!!」
「なっ!?」
「うおっ!?」
巧みに気配を隠していたウルはゴンゾウの肩を足場にして上空からバルルに飛び掛かり、彼女は手甲を装着した腕を構えた。ウルは自分の牙を刃物に見立てて繰り出すと、金属音が鳴り響く。
「ガアアッ!!」
「ぐうっ!?や、やるじゃないかい!!」
「今だ!!皆、ウルに続け!!」
ウルの攻撃を受けたバルルは体勢が崩れ、それを見逃さずにレイトは指示を出す。一番近くに立っていたゴンゾウが盾を構えてバルルに突進した。
「うおおおおっ!!」
「おっと、二度も同じ手は引っかからないよ!!」
「何っ!?」
猪のように突っ込んできたゴンゾウに対してバルルは上空に跳躍すると、跳び箱のように彼の頭を飛び越えて背後に回り込む。ゴンゾウは慌てて振り返ろうとしたが、既に彼は場外まで迫っており、バルルは蹴りを繰り出して彼を試合場から落とす。
「二人目!!」
「うおおおっ!?」
「ゴ、ゴンちゃん!?」
ゴンゾウが場外に落ちる光景を見てレイトはもう駄目かと思ったが、彼の横を通り過ぎてハルナがバルルに飛び掛かった。
「え~いっ!!」
「あん?何の真似だ……いぃいいっ!?」
「そ、そうだ!!ハルナにはこれがあった!!」
自分に抱き着いてきたハルナにバルルは戸惑うが、彼女は外見からは想像できないほどの怪力を発揮してバルルを追い詰める。ゴンゾウに突進された時以上にバルルは焦った声を上げた。
ハルナは興奮すると「身体強化」の魔法を無意識に発動する癖があり、今の彼女はバルルにも負けないほどの怪力を発揮する。バルルを場外へ押し込もうとするが、あと少しというところで動きが止まる。
「こ、こちょこちょっ!!」
「あはははっ!?そ、そこ弱いんだよ~!!」
「ハルナ!?」
「ええっ……」
焦ったバルルはハルナの両脇に手を伸ばすと、必死にくすぐってハルナの精神を乱れさせる。魔法使いは精神が乱れた状態では十二分に魔法の力を発揮できず、身体能力が元に戻ったハルナをバルルは持ち上げた。
「三人目!!」
「きゃうっ!?」
怪我をしないように優しくハルナを場外に下すと、残されたレイト達にバルルは振り返る。流石の彼女も疲れが出たのか汗を流していた。
「はあっ、はあっ……お嬢ちゃんには驚かされたけど、これであんたらだけだね」
「くっ……コトミンは下がって!!」
「レイト、作戦がある」
「え?」
レイトはコトミンを守ろうと前に立つと、後ろからコトミンに耳打ちされた。彼女の考えた作戦を聞いてレイトは驚くが、バルルに勝つには他に方法はなかった。
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