第69話 心優しき盾職

「え?盾が……二枚?」

「ギルドマスターから聞いていなかったのか?俺は盾職タンクだ」

「たんく?」

「えっと、分かりやすく言えば防御専門の戦士の事だよ」



ゴンゾウは盾を装備したのを見てレイトは意外に思い、基本的に巨人族の冒険者は前に出て戦う事を得意とするため、防御よりも攻撃を重視する戦士職の人間が多い。しかし、ゴンゾウの場合は守りを主軸とした戦法を得意とするらしい。



「俺の役目は相手の注意を引き、仲間を守るのが仕事だ。だから攻撃の方はあまり期待しないでくれ」

「ど、どうして?それだけの筋肉なら戦士としても優秀じゃないのか?」

「勿論、時には攻撃に回る事もあるだろう。だが、俺は盾職だ。仲間を守るのが最優先にさせてもらう。悪いが攻撃を指示されても仲間に危機が及ぶ可能性があるのならば断わらせてもらう」

「盾職に誇りがあるんだね」



巨人族は力に特化した種族であるため、大抵の冒険者は攻めを得意とする。しかし、ゴンゾウは巨人族の中でも珍しく守りを重要視しており、仲間を守るために全力を尽くす事を約束してくれた。



「おい、どうするんだよ。守ってくれる人がいるのはいいけど、攻撃役がいないのはまずいだろ?」

「それはそうだけど、これ以上に人数を増やすのはちょっとまずいよ」



基本的に冒険者集団パーティは四~五人で構成するのが一般的であり、あまりに人数を増やし過ぎると報酬の分配などで問題が起きる可能性がある。できればこれ以上に人数を増やしたくはないが、肝心の攻め手が欠けていては冒険者集団パーティとして欠陥がある。


ゴンゾウが守衛に回れば後方支援の魔法使いの安全度は高まるが、問題は攻撃側の人間が居ないとなると相手を倒せない。今まではレイトが攻撃役として頑張ってきたが、これからも一人で補うのは負担が大きい。



「どうした?顔色が悪いようだが、やはり俺が入ると困るのか?」

「いや、そんな事ないよ!!ゴンちゃんみたいに強そうな人が入ってくれたら心強いよ!!」

「ゴ、ゴンちゃん?」

「あ、ごめん。慣れなれしたかったかな?」



気軽に接してくれと言われたのでレイトはあだ名をつけると、ゴンゾウは照れくさそうな表情を浮かべた。



「ゴンちゃんか……悪くないな。皆も俺の事をそう呼んでくれ」

「分かった。ゴンちゃん」

「よろしくね、ゴンちゃん!!」

「ぼ、僕は普通にゴンゾウと呼ばせてもらうよ……」

「ぷるんっ!!」



正式にゴンゾウが仲間に加わると、見計らったかのようにバルルが姿を現した。彼女は机の上に置かれた骨付き肉を勝手に一つ取り上げ、一口で飲み込んで骨ごと噛み砕く。



「もぐもぐっ……どうやら仲良くなったようだね」

「ギ、ギルドマスター!?」

「ええっ!?今、骨ごと飲み込んだ!?」

「久しぶりだなギルドマスター!!」

「ゴンゾウ、またでっかくなったんじゃないかい?」



ゴンゾウはバルルを見ると嬉しそうに手を伸ばし、それに対して彼女は腕を伸ばして掴ませる。巨人族に腕を掴まれても平気そうな表情を浮かべるバルルにレイトは改めて彼女が人間の中でも規格外の存在なのだと思い知った。


バルルは椅子に座り込むと、彼女は他の者にも座るように促す。今更ながらにゴンゾウが座れるほどの椅子はないため、彼は床に胡坐をかいて座っていた事に気付く。



「大丈夫?お尻痛くないの?」

「平気だ。ちゃんと座布団も用意してある」

「悪いね、うちには巨人族用の椅子や机はないんだよ。そのうちに用意してやるから安心しな」

「意外と面倒見いいよなこの人……(ぼそぼそ)」

「そこ、聞こえてるよ!!あたしが優しいのがそんなに意外かい!?」

「ひいっ!?」



ダインの小声にバルルは反応し、地獄耳の彼女にダインは怯える。それはともかく、彼女はレイト達が冒険者集団パーティを結成したと知ると訓練場に向かうように指示する。



「あんたらは冒険者集団パーティを組むんだろ?だったらお互いの実力は把握しておいた方がいいね」

「実力ですか?」

「いくら見た目が強そうに見えようと、実際に腕を確かめなきゃ分からない事もあるんだよ。というわけであたしが相手をしてやるから全力でかかってきな!!」

「ええっ!?ま、またあんたと戦うのか!?もう勘弁してくれよ!!」

「また?」



ゴンゾウはダインの言葉に首を傾げ、彼は先日に帰ってきたばかりなので先日の試験の場には居合わせていなかった。だからレイト達がバルルと戦ったことがあるとは知らず、不思議そうな表情を浮かべる。



「ギルドマスター……どうせ書類仕事ばかりで身体が訛るから、俺達を相手に身体を動かしたいだけでしょ?」

「ま、まあ、それもあるけどね……別にいいじゃないかい。午前中の仕事はちゃんと終わらせたし、それにあんたらにとっても悪い話じゃないだろ。これから一緒に行動する仲間がどれくらい強いのか知るのは悪い事じゃないよ」

「それは一理あるけど……」

「私達も戦うのかな?」

「それならスラミンとウルも参加させていい?」

「ぷるんっ?」

「別に構わないよ。だけど、こっちは最初から本気でいかせてもらうからね」

「ギルドマスターと戦うのも久しぶりだな……腕が鳴る」



バルルと戦える事にゴンゾウは笑みを浮かべ、黄金級冒険者の彼女を前にしても動じていなかった。今回は他の仲間も一緒にいるため、レイトは前回の時以上に立ち回りが重要になると考えた。



「戦う前に打ち合わせしていいですか?」

「ああ、構わないよ。こっちも準備運動が必要だからね。どうせなら本気で勝ちに来な」

「レイト、悪いが俺も腹ごなしに運動してきていいか?」

「うん、いいけど……」



戦う前の準備を整えるためにバルルとゴンゾウは先に訓練場に向かうと、残された者たちは作戦会議を行う。バルルとまた戦う羽目になるとは思わなかったが、今回はハルナやコトミンも参加するので作戦の幅は広がる――






――打ち合わせを終えるとレイト達は訓練場に赴き、既にバルルとゴンゾウは準備を整えて待っていた。今回は石畳の試合場を用意しており、試合の条件は相手を戦闘不能にさせるか、あるいは場外に落とせば勝利となる。



「へえ、この試合場で戦うのは初めてだ」

「け、結構広いんだな」

「巨人族の俺が乗っても大丈夫なぐらいに頑丈な造りだ。ここでなら全力で戦える」

「でも、下に落ちたら痛そうだね」

「一応は芝生を地面に敷いてるけどね」

「ぷるぷるっ!!」

「ウォンッ!!」

「スラミンとウルがやる気になっている。いつでもかかってこいやぁっ……と、言ってる」

「そんな血の気多い台詞言ってんの!?」



試合場にレイト達が登ると、既にバルルは待ち構えていた。彼女は前回と同じように両手に手甲だけを装着しており、軽く汗を流して戦闘準備を整えていた。ゴンゾウは皆の前に出ると、両腕に装着した盾を構えた。



「まずは俺が仕掛ける。皆は下がっていてくれ」

「え、でも……」

「構わないよ。ゴンゾウ、久々に手合わせと行こうじゃないかい!!」



本来は盾役として皆を守る立場のゴンゾウだが、強敵バルルを前にして巨人族の戦士の血が騒いだのか、両腕の盾で身を隠した状態で突進する。その迫力はボア以上であり、凄まじい雄たけびを上げる。



「うおおおおおっ!!」

「うぐぅっ!?」

「ひいっ!?」

「きゃっ!?」



ゴンゾウの雄たけびにダインとハルナは悲鳴を上げ、あまりの彼の迫力に仲間さえも怖気づく。ゴンゾウの突進を正面から受けたバルルは場外へと押し込まれ、あと少しで彼女を落とせそうな時に動きが止まった。

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