第68話 巨人族の冒険者

黒虎のギルドの建物内には酒場が存在し、実際のところは酒場というよりも食堂として利用されている節が多く、宿舎に暮らす冒険者の殆どは食事処として利用している。しかし、いつもは数多くの冒険者が利用している時間帯にも関わらずに酒場にはしか客はいなかった。



「……お、おい、嘘だろ?もしかしてあいつの子じゃないだろうな」

「わ~……お、大きい人だね」

「三メートル……いや、立てば四メートルぐらいはありそう」

「なるほど、行けば分かるというのはこういう事だったのか」

「ぷるんっ(がくがくぶるぶる)」



酒場で黙々と食事を行う男性は座っていてもレイトの倍近くの大きさを誇り、筋骨隆々とした体形をしているせいで余計に大きく見えた。机の上に置かれた巨大な骨付き肉に噛り付き、レイト達に見られている事に気付いていないのか黙々と食事を続ける。



(あれって巨人族だよな。見るのは初めてじゃないけど、うちのギルドに巨人族の冒険者が居るなんて知らなかった)



巨人族とは文字通りに普通の人間の倍近くの体躯を誇る種族であり、彼等の肉体は強靭さだけではなく魔法に対する高い耐性を誇るという。酒場で食事を行う男性冒険者銀級冒険者のバッジを身に着けており、見た目通りに実力は確かだと思われた。



「ちょっと待てよ。もしかしてあいつを僕達の冒険者集団パーティに誘えと言ってるのか!?めちゃくちゃ怖い奴じゃないか!!」

「で、でも、凄く強そうだよ?」

「確かに赤毛熊でも殴り殺せそう」

「いや、流石にあんな化物は……うん、勝てそうな気がする」



慎重だけならば赤毛熊も大して変わらないが、巨人族の冒険者は風格もあり、食事をしているだけなのに他の人間を寄せ付けない威圧感を放っていた。話しかけるのも勇気がいる相手だが、黙って見ているわけにもいかない。



(ここは冒険者集団パーティ隊長リーダーとして俺がいかないといけないのかな……はあっ、なんで隊長なんて引き受けたんだろ)



冒険者集団を結成する際は必ず隊長を決めなければならず、話し合いの結果でレイトとなった。理由としてはハルナとコトミンは性格的に人に指示を出すのは向いておらず、ダインも牙竜のギルドでは他の冒険者と組む事は多かったが、他の冒険者にこき使われるだけで隊長を任せられたことが一度もない。


まがりなりにもレイトはコトミンやハルナと行動を共にしていた際は指示を出していた事もあり、経験が他の人間よりもあるという理由で隊長を任せられた。だからレイトは隊長として巨人族の冒険者に話しかけた。



「あ、あの……少しいいですか?」

「……ん?俺に話しかけているのか?」

「あ、はい」



勇気を振り絞ってレイトは男性に声をかけると、意外と若い声に驚いた。強面なので自分よりもずっと年上かと思ったが、声を聞く限りでは少年のように若々しく、もしかしたら実年齢はレイトと大して変わらないかもしれない。



「少し待ってくれ。食事を終えたら話を聞く」

「わ、分かりました」

「……お前も食べるか?」

 「え?い、いいんですか?」

「遠慮するな。飯は皆で食べた方が美味いからな」



男性に骨付き肉を一つ渡されてレイトは戸惑いながらも受け取ると、仲間達に振り返る。レイトが話しかけたのを見て他の仲間も大丈夫かと判断したのか近づいてきた。



「ど、どうも……」

「美味しそうなお肉だね~」

「魚がないのは残念」

「ぷるんっ」

「ん?そっちはお前の仲間か?」

「い、一応……皆、自己紹介して」



集まってきたレイトの仲間達を見て男性は不思議そうな表情を浮かべ、とりあえずはレイト達が一人ずつ名乗ると最後に男性の方も自分の名を告げる。



「俺の名前はゴンゾウだ。最近帰ってきたばかりだが、半年前からここで働いている」

「半年前という事はレイトよりもずっと先輩なのか」

「ちなみに年齢は?」

「十六歳だ」

「「同い年!?」」



ゴンゾウの実年齢を聞かされてレイトとダインは驚き、二人と同い年であることが発覚した。外見は三十代ぐらいの男性だと思われたが、実際は少年と言っても過言ではない年齢だった。


巨人族は子供でも普通の人間よりもはるかに大きいため、年齢を間違われる事はよくある事だった。ゴンゾウの場合は特に同世代の巨人族と比べても背丈が大きく、故に同じ年代の冒険者から年上だと勘違いされることが多い。



「見た限りではお前達も俺と年齢はそう変わらないだろう。なら敬語は不要だ、普通に話しかけてくれ」

「い、いいの?僕達は後輩だけど……」

「俺はそういうのは気にしない」

「じゃ、じゃあ、よろしくね?」

「よろしく~」

「よろっ」

「よ、よろしく……」

「ぷるんっ!!」



レイト達が握手を求めるとゴンゾウは大きな手を伸ばし、体格差があるのでゴンゾウの指の一つずつを掴む。この時にスラミンは触手を伸ばして指を掴むと、彼に気付いたゴンゾウは指先で摘まんで持ち上げる。



「ん?こいつは魔物か?」

「あ、その子はうちのペットで人間に危害を加えたりしないから!!」

「ぷるぷるっ(←つぶらな瞳)」

「むうっ、確かに敵意は感じないな。すまないお嬢さん」

「気にしてない」



ゴンゾウはスラミンをコトミンの頭の上に乗せると、改めて自分の元に訪れた理由を尋ねた。



「それで俺に何の用だ?」

「えっと、実は俺達は冒険者集団パーティを組む予定なんだけど、四人とも魔法使いで前衛に立てる人がいないんだ」

「何だと!?四人とも魔法が使えるとは凄いな!!」

「えへへ~」

「えっへんっ」

「そ、そうだろ?僕達は凄いんだぞ!!」



ゴンゾウの驚き様に機嫌を良くしたハルナ達は照れる中、レイトはゴンゾウを勧誘する前に話を聞く。



「ゴンゾウ君は誰かと組んでるの?」

「いや、今は単独ソロで活動している」

「それなら丁度良かった!!俺達と一緒に冒険者集団を組まない?」

「お前達と冒険者集団を……?」



レイトの言葉にゴンゾウは驚愕の表情を浮かべ、彼は自分の掌を見つめて不思議そうに尋ねた。



「お前達は俺が怖くないのか?」

「え?怖いって?」

「俺はこんなナリだからな。大抵の奴には怖がられてしまう。特に年齢が若い奴等には話しかけられる事も滅多にない」

「そ、そうなんだ」

「ダインもさっき怖がってた」

「うぉいっ!?それを言うなよ!!だいたいお前等も怖がってただろうがっ!!」

「やはり怖がっていたのか……」



ダインの言葉を聞いてゴンゾウはため息を吐き出し、どうやら他の人間に怖がられる外見をしている事を気にしていたらしく、そんな彼を見てレイトは不憫に思う。


話してみる限りだとゴンゾウは外見を気にしなければ普通の少年の言動であり、年齢が近い相手ですらも距離を置かれる事に寂しく思っている様子だった。そんな彼を見てレイトは外見にとらわれずに気さくに話しかける。



「ゴンゾウ君、俺達はギルドマスターに勧められて君を勧誘しに来たんだ」

「ギルドマスターが?」

「こうして話してみてよくわかったよ。ギルドマスターはきっと俺達なら上手くやっていけると思ったんだ」

「しかし、お前達は俺が怖いんだろう?」

「今は全然怖くないよ~」

「ゴンゾウはいい人だと分かった。びびってるのはダインだけ」

「ぼ、僕もびびってないけど!?」

「それに俺達は冒険者だからね。怖い魔物とだってたくさん戦ってきたし、あいつらと比べたらゴンゾウ君なんて可愛いもんだよ」

「ふっ……お前達はいい奴なんだな」



自分に気を使ってくれていると思ったのかゴンゾウは年齢相応の無邪気な笑みを浮かべ、壁に立てかけていた自分の装備を手にする。ゴンゾウは手にしたのは巨大な盾がであり、彼はそれを両腕に装着した。

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