第67話 魔法使いの悩み
「前に出て戦ってくれる人がいるだけで戦闘も大分楽になるんだけどな」
「このギルドの冒険者にいい人材はいないのか?」
「う~ん……理想を言えばギルドマスターが一番なんだけどね」
ギルドマスターにして現役の黄金級冒険者であるバルルが仲間になれば鬼に金棒だが、流石に彼女を仲間に引き入れるのは難しい。バルルはギルドマスターの後任が決まるまでの間は冒険者稼業は再開できず、そもそも階級的にも下のレイト達が気軽に誘える相手ではない。
「他に腕の立つ冒険者はいないのかよ?」
「そういわれてもね……最近まで他の冒険者から避けられてたし、それに俺達全員を守り切るほどの腕の良い冒険者は遠征中だよ」
銀級以上の冒険者の多くはギルドを離れて仕事をすることが多く、この街に残っているのは殆どが鋼鉄級か銅級の冒険者だった。最近は彼等も真面目に訓練に励んでいるが、それでもレイト達に匹敵する実力者はいるとは思えなかった。
「レイト、あの女の子は?」
「女の子?誰の事?」
「名前は忘れたけど、槍使いの女の子」
「……もしかしてリーナの事を言ってる?」
コトミンは以前に会ったリーナならば仲間に相応しいと伝えたが、生憎と彼女は氷雨に所属する冒険者であり、仲間に引き入れるのは色々と難しい。
「確かにリーナなら実力は申し分ないけど、他の冒険者ギルドに所属する奴と組むのは色々と面倒なんだよ。仕事を受ける時に手続きも必要だし、下手に仲間割れしたらギルド同士の仲が悪くなるかもしれないし……」
「なら、ダインみたいにうちにくればいい」
「それは無理だって、ダインの時でさえもあんなに苦労したのに……それにリーナがうちみたいな小さいギルドにわざわざ移籍する理由なんてないよ」
「悪かったね、小さなギルドで」
「あいてっ!?」
会話の最中に頭を小突かれたレイトは慌てて振り返ると、そこには渋い表情を浮かべたバルルが立っていた。どうやら話を聞かれていたらしく、彼女はため息を吐き出す。
「あんたらね、四人とも魔法使いの癖になんで前衛を一人も連れていないんだい」
「そ、そういわれても……」
「大丈夫、いざという時はレイトが守ってくれる」
「あ、ずるい!!私も守ってほしい!!」
「お前等こんな時にいちゃつくなよ!?」
バルルの言葉にコトミンとハルナがレイトの後ろに隠れ、女性陣に頼りにされるレイトにダインは嫉妬する。しかし、現実的に考えてレイトが三人を守りながら戦うのは無理があった。
もしも敵が多人数の場合、レイトが上手く囮役として立ち回らなければ他の者が狙われてしまう。魔法使いと戦う際は魔法を使われる前に仕留めるのが定石であり、敵はまずは前に出られない三人を狙うのは目に見えていた。接近戦でも戦えるのはレイト一人だけであり、他の三人を守りながらではこれまでのように戦闘に集中できるとは限らない。
「うちのギルドの冒険者で俺達の仲間になってくれそうな人に心当たりはいませんか?」
「そんなもん、適当に声をかけたらいいだろ。皆喜んで仲間になってくれるよ」
「いや、それはそれで問題があるというか……」
「まあ、あんたらを守れるだけの人員となると最低でも四、五人は必要だね。だけど、数を増やし過ぎると報酬の分配で稼ぎが悪くなるのが問題だね。特にあんたらは魔法使いだから尚更だね」
「どうして魔法使いだと尚更なの?」
バルルの何気ない言葉にコトミンは首を傾げるが、レイトは普通の魔法使いは装備に金が掛かる理由を説明した。
「魔法使いの殆どは杖や魔石を利用してるんだよ。ほら、ハルナもダインも杖を持ってるでしょ?二人はその杖はどれくらいの値段だった?」
「え?私は魔術協会に入った時に貰ったけど、職人さんの話だと作るのに凄いお金が掛かったと言ってたかな?」
「僕の杖は実家にいた時に作ってもらったんだよ。大した杖じゃないけど、それでもまあまあ値段はしたんだぞ」
「人魚族のあんたは杖を使って魔法を使ったことはないだろうけど、人間の魔法使いは杖を利用するのは当たり前なんだ。だけど、杖なら何でもいいというわけじゃない。自分の能力に見合った杖を一から作ってもらわないと使えないんだ。他人の使っていた杖は滅多に馴染まないからね」
「杖を作るにしても素材の厳選も必要になるし、魔石代も含めると相当お金がかかるんだよ」
「ふ~ん」
魔法使いの扱う杖は誰もが扱えるわけではなく、例えばハルナの杖は同じ回復魔法の使い手でも扱えるとは限らない。杖を制作する際は術者の能力を正確に見極め、その能力に見合った杖を作り出すために素材も慎重に選ばなければならない。レイトやコトミンのような杖や魔石を頼らずに魔法を扱う人間は滅多にいない。
ちなみにレイトが未だに杖を扱わない理由は単純に金がないからであり、それなりに金は稼いできたがまだまだ杖の製作費には届かない。第一に魔法学園を退学になるような素行の悪い魔法使いに杖を制作しようとする職人は簡単に見つからない。
「レイトも杖は欲しい?」
「どうかな、素手で戦う事に慣れちゃったし、それに俺は防御魔法しか使えないからね」
「コトミンちゃんは杖は使わないの?」
「私はスラミンがいるから平気」
「ぷっるん(えっへん)」
「まあ、本人がいいというならいんじゃないかい」
コトミンはスラミンを掲げて自慢げな表情を浮かべるが、そもそも彼女の魔法は人魚族特融の物であり、人間の魔法は扱わないので杖を持つ意味はあまりない。生まれた時から魔法を扱える種族は杖を必要としないのは当たり前だった。
「話が脱線してるよ。今はあんたらを守る奴を探すんじゃなかったのかい?」
「あ、そうだった。でもうちのギルドでそんな事ができるのは……」
「じ~」
「ぷるぷるっ」
「ウォンッ」
「あ、あたしを見るんじゃないよ!!こっちはギルドマスターの仕事だけで手一杯なんだよ!!」
つぶらな瞳で自分を見つめてくるコトミンとペット達にバルルは顔を反らし、やはり彼女を仲間に引き入れるのは無理があった。だが、自分がギルドマスターとしてではなく冒険者として求められている事に機嫌を良くしたのか、彼女はとある冒険者の推薦を行う。
「そうだ。さっき遠征に出向いていた冒険者が一人戻ってたよ。そいつは実力は確かだし、あんたらにはぴったりの相手かもね」
「え!?そんな人がいるんですか?」
「そういえばあんたがうちに入ってきたばかりの頃に遠征に出向いたから、行き違いで顔を合わせた事はなかったね。そいつはギルドの酒場にいるから話しかけてみたらどうだい?」
「分かりました!!じゃあ、特徴を教えてください!!」
「そんなもん、一目見れば分かるよ」
「え?ど、どういう意味?」
「特徴を教えてもらわないと会いに行っても分からないんじゃ……」
「いいから騙されたと思って酒場に行きな。あたしの言葉の意味がすぐに分かるよ」
何故かバルルは冒険者の特徴を頑なに教えず、レイト達に酒場に向かうように指示する。不思議に思いながらもバルルの紹介ならば信頼できる相手だと判断し、レイト達は酒場へと向かった――
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