第66話 冒険者集団の結成

――バルルは約束通りに牙竜のギルドと交渉してダインを移籍させた。牙竜のギルドマスターには難色を示されたそうだが、どうにか説得に成功して彼は正式に黒虎の冒険者となる。


元々暮らしていた街から荷物を引き取りに戻ったダインが黒虎に訪れたのは数日後であり、宿舎で借りる部屋はレイトの隣が空いていたため、バルルの計らいで隣の部屋に住まわせる。



「こ、ここが黒虎の宿舎か……分かってはいたけど、やっぱり牙竜と比べると質は下がるな」

「うちに入った事、後悔してきた?」

「意地悪言うなよ。それに僕はすぐに出ていくつもりだぞ、なんていったって銀級冒険者の試験が受けられるんだからな!!」

「それは俺も同じだよ」



本来であれば昇格試験に合格したばかりの冒険者は一定の期間は次の試験は受けられない。しかし、バルルは約束通りに二人が新たな試験を受けられるように配慮してくれた。


二人が装着しているバッジの裏側には昇格試験を受けられる資格として特別な印が刻まれており、試験を受けるためにはギルドマスターの許可が必要であるため、バルルが認めた冒険者にしか印は刻まれない。つまり印を刻まれた冒険者は彼女に認められた実力者の証明でもある。



「へへへ、これで試験に合格すれば僕達もリーナと並べるんだな」

「でも、銀級冒険者の昇格試験は一か月以上先だからすぐには受けられないけどね」



昇格試験の日程は決まっており、いくら試験の資格を得たと言ってもすぐに受けられるわけではない。それに鋼鉄級の昇格試験よりも難易度が一気に高まり、大半の冒険者は銀級に昇格できずに諦めてしまう。


黒虎に所属する多くの鋼鉄級冒険者は銀級への昇格を諦めており、この一年の間に合格した冒険者は一人もいない。しかし、先日のレイト達の一件から黒虎の冒険者の心境に変化が起きていた。



「おらぁあっ!!かかってこいやっ!!」

「調子に乗ってんじゃねえぞ!!」

「ぶっとばしてやる!!」

「なんだなんだ!?喧嘩か!?」

「訓練だよ。ほら、あれを見なよ」



どこから聞こえてきた声にダインは驚くと、レイトは窓を指し示す。宿舎の裏手にて冒険者達が訓練に励んでおり、先日の一件から彼等もやる気を取り戻していた。



「銀級冒険者になるのは俺だ!!」

「はんっ、てめえなんか銅級がお似合いだろうがっ!!」

「お前こそでかい口を叩いてるんじゃねえっ!!」

「これ、本当に喧嘩じゃないのか!?」

「た、多分……」



木刀を手にした男達が激しく打ち合い、既にボロボロの冒険者も見られた。彼等は先日の試験を見物していた冒険者であり、バルルを相手に戦い抜いたレイト達を見て心を改めた。


これまで黒虎に所属する鋼鉄級冒険者の殆どは上の階級に昇格する事を諦めていた。しかし、バルルという圧倒的な実力者を相手に自分達と同じ鋼鉄級の冒険者であるレイトとダインは戦い、見事に勝利を収めた。勿論、バルルは手加減をしていたのは分かっているが、それでも現役の冒険者に鋼鉄級冒険者が勝利したのは事実である。


後輩二人が頑張っている中、先輩である自分達が不貞腐れたままなのが恥ずかしく思ったのか、向上心を取り戻した彼等は仕事以外は訓練に明け暮れる。黒虎のギルドは今までにないほど活気に満ちていた。



「み、皆凄い頑張ってるな……僕達も混ざるか?」

「止めとこうよ。魔法使いの俺達があんな無茶な訓練を繰り返してたら身体を壊すよ」

「そ、そうだな」

「でも、あの気概は見直した方がいいよ。次の試験はもっと難しくなるよ」



鋼鉄級の昇格試験の時でさえもレイトは苦戦したことを思い出し、今回は前の時のように気絶するような事態には陥らない事を誓う。そのためには魔力を伸ばす必要があった。



(毎日魔法の練習をしてるけど、やっぱり強敵相手だとすぐに魔力切れを引き起こすのが問題だな。反魔盾は便利だけど、頼り過ぎてたら駄目だ)



レイトは防御魔法の応用を色々と編み出したが、肝心の魔法を構成する魔力の方が不安が足りなかった。正直に言えばレイト達の中で最も魔法使いとしての才能が乏しいのは彼である。


天才のハルナや人魚族であるコトミンは生まれた時から魔力に恵まれており、ダインも幼少期から魔法の訓練を行ってきたので本人は認めたがらないが、十分に優秀な魔法使いである。それに比べてレイトは魔法使いになったのは彼等と比べると最近であり、魔力に関しても決して多いとは言えない。


魔法使いが魔力を伸ばす方法はいくつかあるが、その中でレイトが実践できるのは魔力切れ寸前まで魔法の練習を行い、魔力を回復するまで待つ方法だった。地道な訓練だが、成果は確かにあって魔法学園に通っていた時よりもレイトの魔力は伸びていた。



(学園に通っていた時よりは少しはマシになったと思うけど、もっと効率良く魔力を伸ばせたらな)



金に余裕がある魔法使いは魔力を回復させる薬を購入し、魔力切れを起こしたら薬を飲んで短時間で魔力を完全回復させて魔力を伸ばす。しかし、生憎とレイトは自分とコトミン達の生活費を賄うので精一杯であり、とても高価な薬を買う余裕はない。



「おい、何をボケっとしてるんだよ。ハルナさん達が待ちくたびれるぞ」

「ああ、ごめんごめん」



ダインに言われてレイトは準備を整えて宿舎を出ると、外ではハルナとコトミンがウルの背中に乗って駆け回っていた。



「ウォオオンッ!!」

「わあっ!?早い早いっ!!」

「ウル、スラミンが落ちそう」

「ぷるるるっ(←風圧で形が歪む)」

「な、なんか楽しそうだな」

「なにやってんだが……ほら、皆こっちに来て!!」



これから仕事だというのに呑気に遊び惚けているハルナ達にレイトは呆れるが、彼が一声かけるとウルは急ぎ足で駆けつけた。



「クゥ~ンッ」

「おっとと、急に甘えるなよ」

「ウル君は本当にレイト君が好きなんだね。もしかしてお父さんと思ってるのかな?」

「なら、私はお母さん。スラミンは弟、ハルナは娘、ダインはお爺ちゃんと思っていい」

「なんで僕だけお爺ちゃんなんだよ!?」

「ぷるぷるっ(←兄がいいらしい)」

「え~!?私は誰の娘なの?」

「突っ込むところそこなの?」



冒険者になりたての頃と比べて大分人数が増えており、今日からこの面子で活動する事になる。しかし、集まって見てレイトはとある事に気付いた。



「それにしても俺達全員が魔法を使えるんだよね。魔法使い四人の冒険者集団パーティなんて聞いた事もないよ」

「さ、流石に前衛無しはまずいんじゃないか?誰か適当な奴を誘えないのか?」

「え~?私は知らない人が一緒だと緊張しちゃうかも」

「大丈夫、レイトが皆を守ってくれる」

「俺の負担は多すぎでしょ……しかもこれだけ集まってるのにまともな攻撃魔法を使える奴はいないし」



レイトは防御魔法だけ、ハルナは治療役としては優秀だが攻撃魔法は扱えず、ダインの影魔法は支援に特化、強いて言えばコトミンの水弾は攻撃魔法といえなくもないが、相手が赤毛熊のような強敵だと威力に難点がある。


前衛に立てるのがレイトだけであるのはまずく、そもそもレイトは自分から前に出て戦うつもりはない。せめて二人ぐらいは前に出て皆を守る役目の人間が居なければならず、理想を言えばのような優れた戦士や盾職タンクの人間を仲間に入れたら心強かった。




※明日から一話投稿になります。

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