第64話 言葉の綾

魔盾プロテクション!!おらぁあああっ!!」

「待てこらっ!?ちょっと気合入り過ぎじゃないっ!?」



日頃の恨みも込めて狩人は右手に魔盾を発動させ、球体状に変形させて右手を包み込む。両足を拘束されたバルルはその場を動けなかったが、上半身は完全に拘束されていなかったので手甲を装着した腕で攻撃を受け止める。



「ふんっ!!」

「くぅっ!?」



攻撃を防がれたレイトは距離を置くと、ダインは影蛇を操作して両足だけではなく、バルルの上半身まで巻き付かせて動きを封じようとした。だが、バルルは完全に拘束される前に腰に括り付けた収納袋に手を伸ばして意外な道具を取り出す。



「あんたの魔法の弱点はこいつだろ!!」

「うわぁっ!?」

「ダイン!?」



鞄から取り出したのは「虫眼鏡」であり、丁度昼時であるために太陽は真上に存在し、レンズで一点に集められた光が影蛇に降り注ぐ。その瞬間、影蛇が動きを止めて本体のダインが悲鳴を上げた。


ダインの影魔法は自分の影に魔力を送り込んで実体化させる魔法であり、弱点は影を照らすほどの強い光だった。ただの虫眼鏡と言っても光を言ってんに浴びせられた影蛇は崩壊し、元のダインの影に戻ってしまう。



「はあっ、はあっ……念のために用意しておいて正解だったね」

「ギルドマスター……どうして影魔法の弱点を知ってるんですか?」

「熟練の冒険者を舐めるんじゃないよ。似たような魔法を扱う魔法使いとは何度も戦ってきたんだ。これぐらいの知識は身に着けてるのさ」

「ううっ……虫眼鏡なんかに負けた」



ちゃっかりと試験の前にタインの影魔法対策を行っていたらしく、虫眼鏡を懐にしまったバルルは余裕を取り戻したようにレイトと向き合う。最初の作戦で仕留めきれなかったのはレイト達にとっては痛手だが、バルルは素直に感心した。



「それにしても嬢ちゃんたちの力を借りるふりとはこざかしい真似をしたね。でも、そんな小細工はあたしには通じないよ」

「割と追い詰められてたような気がしますけど……」

「そ、そんなわけないだろ!!あんたらを油断させるために演技していたのさ!!」



レイトの指摘にバルルは冷や汗を流し、実際に先ほどの彼女は本気で焦っていた。もしもダインの影魔法で完全に拘束されていたら、彼女にレイトは一撃を食らわせて試験は終わっていた。バルルは改めてレイト達の実力を認める。



「坊やの魔法は拘束に優れているが、当たらなければ意味はないんだよ。もう二度と捕まらないよ」

「なら、今度は俺の魔法の番です」

「ほう、何か秘策有りかい?」



レイトが右手の魔盾を元の形に戻すと、今度は刃盾へと変形させた。だが、それを見てバルルはいぶかしむ。刃盾の存在は彼女も承知しており、魔法使いでありながら接近戦特化の魔法の応用法を生み出したレイトに苦言を申した事もある。



「そんなもんであたしとやりあうつもりかい?言っておくけど、非力な魔法使いが私の間合いに入ったら一発でぶっ飛ばしてやるよ」

「ここからが本番ですよ!!」

「レ、レイト君!?ま、まさか本当にあれを使うの!?」

「あ、あれは危険すぎる。ここにいる人たちが全滅するかも~」

「なんだって!?」

「な、何を仕出かすつもりだ!?」



見物していたハルナとコトミンが騒ぎ出し、若干わざとらしさを感じさせる二人の言葉にバルルは疑問を抱くが、他の見物人は二人の言葉を真に受けて慌てふためく。



(あの二人の反応は演技だね。大方、あたしの動揺を誘おうとしてるのか……それとも、別の思惑があるのかい?)



レイトは右手の刃盾を振りかざすと、高速回転を加えて切断力を限界まで高める。そしてを投げる要領でバルルに目掛けて刃盾を放つ。



「おらぁっ!?」

「うおおっ!?何じゃそりゃあっ!?」

「危ない!?」

「ひいっ!?」



周端がのように尖った刃がいくつも形成された刃盾が高速回転しながら繰り出され、まともに受けたらまずいと判断したバルルは身体を反らして回避した。見物人の冒険者の元に刃盾が迫り、彼等は悲鳴を上げて逃げ惑う。


投擲した刃盾は術者のレイトから離れすぎると効力を失い、見物人の元に届く前に規模が縮小化して完全に消えてしまう。ハルナとコトミンが事前に騒いでいたお陰で見物人が距離を置いていた事が幸いし、誰一人傷つける事はなかった。



(今のはやばかったね!!生身に当たっていたら耐えきれなかった……本気であたしを殺すつもりかい!?)



刃盾の恐ろしい使い方を見出したレイトにバルルは戦慄するが、この程度の攻撃が彼女に当たらないのはレイトも予測済みであり、今度は両手を重ねた状態で突っ込む。



魔盾プロテクション!!」

「何だいそれは!?そんなもんであたしの攻撃を防げると思ってんのかい!!」



両手を使用する事で通常の倍以上の大きさの魔盾を形成し、自分の身体を隠した状態で突進する。魔盾で体当たりするつもりかと判断したバルルは拳を振りかざす。


レイトの作り出す魔盾は鋼鉄並みの強度を誇るが、一流の冒険者であるバルルの腕力は規格外であり、実際に彼女は鋼鉄製の盾を破壊した事もあった。バルルは魔盾を破壊してレイトを殴りつけようとしたが、ここで失敗を犯した事に気が付く。



(いけねっ!?あたしからは攻撃しないと言ったんだ!!)



仮に魔盾を破壊したとしてもレイトを傷つければバルルは反則負けとなる。自分が課した条件を思い出したバルルは慌てて魔盾を受け止めようと両手を構えた。だが、それを見越してレイトは次の魔法を展開する。



反魔盾リフレクション!!」

「おわぁっ!?」

「ギルドマスター!?」

「嘘だろ!?」

「吹っ飛んだぞ!?」



魔盾が触れる寸前に反魔盾へと変異させ、ありったけの魔力を消費して反発力を高めてバルルを。彼女の身体が空中に浮かんだのを見て見物人は騒ぐが、レイトの方は違和感を抱く。



「違う!!当たっていない!?」

「えっ!?」

「おっとと!!い、今のは危なかったね……マジで焦ったよ」

「わっ!?」

「ど、どうなってるの!?」



吹き飛ばされたと思われたバルルが地面に着地すると、レイト以外の仲間達は何が起きたのか理解できなかった。彼女は空中に吹っ飛んだのではなく、自らして回避した。


反魔盾が形成される寸前、バルルは直感でレイトの意図に気が付いて肉体が反射的に動いた。流石のバルルも反魔盾に吹き飛ばされたら無事では済まず、だから両足に力を込めて後方へ跳躍し、反魔盾に当たる寸前に回避した。その証拠にレイトは手応えを感じられず、バルル自身も怪我は追っていない。



(どんな反射神経してるんだ!?まるでリーナと戦ってるみたいだ……待てよ?)



レイトの知る中でバルルと渡り合える超人的な身体能力を誇るのはリーナだけであり、彼女の事を思い出してレイトはリーナとバルルの共通点を見出す。二人とも人間離れした身体能力を誇り、直感で相手の行動を先読みして対処する。敵に回せばこれ以上にないほど厄介な相手だが、逆にやる気が漲る。



(この人に勝てればリーナに少しは追いつける!!)



恐らくはリーナと同等に近い実力を持つバルルに一撃を与えられたら、それはレイトがリーナの実力に少しは追いつく事の証明となる。彼女にも勝るとも劣らないような冒険者になる事をレイトは目指してきた。



「残り時間を半分は切りましたよ!!多分、あと三分ぐらいです!!」

「えっ!?」

「も、もうそんなに経ってるのか!?」

「どうした?時間がないよ、それとも諦めるのかい?」



しかし、レイトのやる気とは裏腹に制限時間の終了は迫っていた。アイリスの言葉を聞いてレイトとダインは顔を見合わせ、制限時間が終了する前に最後の作戦を実行した。

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