第4話 卒業試験
――二か月後、遂にレイトとダインは卒業試験を受ける日が訪れた。この試験の結果によって彼等の冒険者人生が決まると言っても過言ではなく、朝食の時から二人とも緊張していた。
「ふうっ、流石に緊張するね」
「そ、その割には落ち着いてないかお前?」
朝食の時間帯を迎えても食堂に訪れる生徒の数は十数人だけであり、他の生徒は残念ながら学校を去ってしまった。過酷な環境に耐えきれなかったり、試験で成果を出せなかった者は卒業試験を受けられず、最初の頃は百人近くはいた仲間も今では殆どいない。
リーナと約束したとはいえ、レイトもダインも今日まで残れる自信があったわけではない。これから行われる三つの試験を考えるだけで緊張し、落ちれば二人とも一か月後に再試験を受けられるが、それさえも落ちたら行き場所を失う。
「レイト……お前はまだいいよ。どうせ試験に落ちても家族に頭を下げれば家に帰れるんだろ?僕なんて絶対に見捨てられるよ」
「どうかな……とっくの昔に縁を切られてるかもしれない。手紙だって返事は来ないし」
「はあっ、もしも二人とも落ちた時はどうする?リーナの奴に頭を下げて召使いにでもさせてもらうか」
「それも一つの手だね……」
訓練校にいる間は外の情報は一切入らず、先に冒険者になっているはずのリーナがどうなっているのかは分からない。しかし、彼女の実力を考えれば既に一流の冒険者の仲間入りしていてもおかしくはなく、その時は身の回りの世話を行う雑用係として働かせてもらうか冗談交じりに考える。
(まあ、危険が多い冒険者の雑用係なんて現実味はないか……)
魔物退治を生業とする冒険者の身の回りの世話など誰もが簡単に行える事ではなく、それに一緒に冒険者になると約束した手前、リーナに世話してほしいなど頼めるはずがない。レイトとダインは食事を何とか飲み込むと、これから行われる試験の相談を行う。
「最初は筆記試験だろうな。こっちの方は問題ないと思うけど、問題は体力と実技試験だな」
「それなんだけど、今回は特別方式の試験が行われるそうだよ。教官の話によると今年から体力と実技の試験が併合されるかもしれないって」
「ええっ!?そんな話聞いてないぞ!!」
「ちゃんと教官と仲良くなっていた方が得だよ」
レイトはこの日のために教官に気に入られるように真面目に授業に取り組み、教官の頼みごとを聞いて好感度を稼いでいた。そのお陰で今回の試験の情報を入手していた。
「お前、そういうところは抜け目ないよな……でも、体力と実技をどう合わせるんだよ?」
「そこまでは流石に聞けなかったよ。だけど、魔物と戦う事を想定していたおいた方がいいよ」
「ま、魔物か……遂に僕達の魔法が役立つときが来たんだな」
訓練の合間にレイトもダインもお互いの魔法の練習だけは欠かさず、魔物との戦闘で最も頼りになるのは己の魔法の力だった。魔術師にはなれなかったが、魔法使いとして名を上げれば高名な魔術師の目に留まって弟子入りできるかもしれない。
基本的には魔術師になる方法は魔法学園を卒業する事、あるいは魔術師に弟子入りして免許皆伝すれば魔術師を名乗ることが許される。レイトは既に退学しているので魔法学園に入りなおす事はできないが、まだ後者の道は残っていた。
(冒険者になって名を上げていけば魔術師になれる可能性はあるんだ。だからこの試験、絶対に受かってみせるぞ!!)
夢を果たすためには冒険者になる事が必要事項であり、レイトは必ずや試験に受かる事を誓う。ダインもレイトと同じ気持ちを抱き、二人は手を合わせて誓い合う。
「お互い頑張ろうね」
「へまして落ちるなよ」
「時間だ!!全員集まれ!!」
話し込んでいる間に教官が訪れ、食堂に待機していた生徒たちを呼び寄せる。最初の筆記試験は訓練校で行われる予定であり、試験会場となる教室へと移動した――
――筆記試験に関してはレイトもダインも手応えを感じ、二人とも自己採点の結果は満点だった。今日の日のために真面目に勉強してきたかいがあったが、重要なのは次の試験だった。
「今年より体力試験と実技試験は併合される!!これから君たちには魔物が救う森の中に入ってもらう!!」
「ま、魔物!?」
「それって外に出るという事ですか!?」
「いきなりそんな事を言われても……」
「馬鹿者がっ!!今まで何のために訓練をしてきた!?第一に冒険者になれば魔物が巣くう地域に訪れるのは日常と化す!!この程度の試験を突破できなければ冒険者など名乗れると思うな!!」
急な試験内容の変更にレイトとダイン以外の訓練生は戸惑うが、事前に情報を掴んでいたレイト達は平静を装う。ここで取り乱した態度を見せれば評価が下がる恐れがあり、表面上は冷静さを保つ。
(落ち着け、焦る必要はない。試験の併合はとっくに分かってたんだ。それに魔法だって使える)
訓練の過程で他の生徒や教官と組手を行う事はあったが、流石に魔法の使用は禁止された。だが、試験ならば魔法も解禁されるため、その点ではレイトとダインは他の生徒よりも有利ではあった。
「これからお前達は魔物が生息する森の中に送り込む!!今日の夕方までに魔物を仕留めて戻ってこい!!」
「今日の夕方まで!?」
「その森への移動手段は?」
「安心しろ、わざわざ移動する必要はない。お前達はこの台座の上に乗ればいいだけの話だ」
教官が指さした先には大理石製の台座が存在し、表面には星の形を模した魔法陣が記されていた。それを一目見ただけでレイトとダインは驚き、台座の正体に気が付いた。
「これってもしかして……」
「転移魔法陣!?」
「ほう、流石に魔術師二人組は知っていたか」
「て、転移魔法陣とはなんですか!?」
レイトとダイン以外の生徒は転移魔法陣を見るのは初めてであり、教官は台座の前に移動すると魔法陣を指さす。
「この台座に刻まれている魔法陣に生物が乗り込むと、魔法陣の効果が発動して別の場所に刻まれた転移魔法陣の元へ瞬時に移動ができる。つまり、これに乗るだけでお前達は目的地へ辿り着けるという事だ」
「そ、そんな便利な魔法があるんですか!?」
「話は最後まで聞け!!この台座に乗り込めば森の中に設置しておいた台座へ転移する。お前達は夕方までに魔物を倒し、始末した魔物の素材を持ち帰ってきてもらう。魔物の素材を多く持ち帰ったり、あるいは危険度の高い魔物を仕留めれば評価は高まると考えろ!!」
「あの……質問いいですか?」
教官の話を聞いてレイトが気になったのは転移魔法の仕組みだった。彼が魔法学園で学んだ知識では転移魔法陣を使用するには条件があるはずだった。
「転移魔法陣を使用した場合、次に転移するには魔法陣の魔力が蓄積された状態じゃないと無理だと習ったんですが……」
「え?どういう意味だ?」
「ほら、魔法陣の周りに水晶玉が埋め込まれてるでしょ?あれは魔力が封じ込められた魔石だよ」
「流石は元魔法学園の生徒だな。転移魔法陣の仕組みにも詳しいのか」
レイトが台座の周端にはめ込まれた水晶玉を指さすと、全員が覗き込む。台座には今年の生徒と同数の水晶玉がはめ込まれていた。
「一応聞くけど、皆は魔石は知ってるよね?」
「そりゃまあ……」
「魔法使いが持っている杖に取り付けられた水晶玉の事だろ?」
「……正確に言えば魔力が封じ込められた鉱石を加工して作り出されるのが魔石だよ。見た目は水晶玉にしか見えないけど、実際は石材だぞ」
他の生徒の言葉にダインは呆れた様子で魔石の説明を行い、分かりやすく言えば魔石とは魔力が封じ込められた石であり、この魔石を利用して魔術師は魔法の強化を行う。さらに魔術師でない人間でも道具を利用すれば魔石の力を利用する事ができる。
今回の試験に用意された台座は魔石から魔力を吸い上げる事で効力を発揮し、魔術師でなくとも台座に乗り込むだけで転移魔法陣を発動する事ができる。但し、魔石の魔力が尽きた場合は台座は効力を失い、誰かが乗り込んだとしても魔法陣は発動しない。
「この台座を見る限り、俺たちが乗り込めば全ての魔石の魔力が消えるはずです。そうなるとこっちに戻れなくなるのでは?」
「えっ!?そ、そうなんですか!?」
「安心しろ、お前達を迎え入れるのに必要な予備の魔石は用意してある。但し、それを付け替えるのは夕方の話だ」
「それってまさか……」
「察しがいいな。夕方までは台座が誤って起動しないようにしておく。つまり、お前たちが試験の途中で戻る事はできないという事だ」
「「「ええっ!?」」」
さらりと告げられた言葉に全員が驚愕の表情を浮かべ、試験中は戻れないという事は大けがを負ったり、あるいは魔物に追い詰められたとしても転移魔法陣が使用できなければ逃げ場はない事を示していた。
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