第5話

 洞窟の奥での戦いが激化する中、イヴァンと八尾は異形の存在と命がけの戦闘を繰り広げていた。異常な熱気と湿気がさらに体力を奪い、異形の巨体は洞窟内で猛威を振るい続けていた。しかし、イヴァンは冷静さを失わず、目の前の脅威を沈黙させるため、すべての感覚を研ぎ澄ませていた。


「このままでは持たない…」八尾が息を切らしながら言った。


 イヴァンはそれに頷き、「俺たちはこの洞窟を破壊するしかない。この怪物が外に出ることを防ぐためにな」と答えた。


 八尾は即座に理解し、「だが、その前に奴を追い詰めないと。でかすぎて、洞窟ごと崩すのは一筋縄じゃいかないぞ」と冷静に指摘した。


 その時、イヴァンの耳にかすかな振動音が届いた。振り返ると、洞窟の奥から奇妙な金属音が響いてくる。それは、機関車の蒸気が吐き出す音に似ていた。


「まさか…こんなところに機関車があるなんて」と八尾が驚いた。


「いや、違う。これは…」イヴァンが言いかけた瞬間、異形の存在が再び姿を現し、洞窟内に響く蒸気音とともに、急速にその巨体をさらに巨大化させていった。


「これは一体…?」八尾が後ずさりしながら驚愕の表情を浮かべた。


 その異形の姿は、機関車と融合したかのような異常な形態に変わり、全身に機械のような部品が散りばめられていた。まるで、何かに操られているかのように動き出し、洞窟の壁を粉砕しながらイヴァンたちに迫ってきた。


「くそっ!これ以上は無理だ!」八尾が叫んだ。


 イヴァンは目の前の光景に冷や汗を感じながらも、決して逃げることはなかった。「まだだ…この怪物を止める方法があるはずだ」


 その時、イヴァンはポケットから小さな装置を取り出し、それを八尾に見せた。「これを使う」


「それは…射撃武器か?」八尾が驚きながら聞いた。


「そうだ。特殊な弾丸を装填している。この怪物を止める最後の手段だ」イヴァンは冷静に答え、装置を機関車に変異した異形の巨体に向けた。


「でも、それじゃあ…」八尾が言いかけた。


「時間がない。今やらなければ、俺たちも、この洞窟も、すべてが無に帰す」イヴァンは装置のトリガーを引いた。


 巨大な音とともに、装置から放たれた弾丸が洞窟の中を貫き、異形の存在に命中した。瞬間、異形の巨体は蒸気とともに崩壊し、洞窟内は再び静寂に包まれた。


「成功か?」八尾が息を整えながら聞いた。


「まだだ…」イヴァンは慎重に周囲を確認しながら答えた。「だが、少なくともこの場所を破壊する準備は整った」


 二人は急いで洞窟を抜け出し、八尾が待機させていた釣り船へと戻った。外に出ると、夜の海風が再び二人の身体を冷やし、疲労を少しだけ癒した。


「イヴァン、お前がこれほどの危険に身を投じる理由は何なんだ?」八尾が問いかけた。


 イヴァンは静かに夜空を見上げ、「ある女性が関わっている。彼女の名前は伊吹…俺のかつての恋人だった」と告げた。


「彼女がこの任務に関係しているのか?」八尾はさらに問い詰めた。


「彼女は、この怪物を作り出した計画に巻き込まれていた。そして、その計画を止めるために命を賭けたんだ」イヴァンは言葉に苦しさを滲ませた。


 八尾は黙って頷き、「彼女のために、これを終わらせるんだな」と理解を示した。


「そうだ。これが俺の最後の任務になるかもしれないが…彼女のために、必ず成功させる」イヴァンは決意を新たにし、海を見つめた。


 釣り船は静かに海を進み、イヴァンと八尾は次なる行動の計画を練り始めた。夜明けまでには、この暗闇に潜む全ての脅威を一掃する覚悟でいた。

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