第4話

 イヴァンは、次の任務のために一時的に千葉へと向かった。そこには、彼の旧友であり、かつての戦友である八尾が住んでいた。八尾は、表向きは穏やかな釣り船の船長として生活していたが、裏では情報屋として活動し、イヴァンにとって貴重な情報源だった。


 千葉の海沿いは、夏の熱帯夜に包まれていた。蒸し暑さが肌にまとわりつく中、イヴァンは八尾の釣り船に乗り込み、彼が船内で整えていた冷えたビールを受け取った。夜風が少しは暑さを和らげたが、それでも船内はまるで蒸し風呂のようだった。


「懐かしい顔だな、イヴァン」と八尾が軽く笑いながら言った。「こんなところで何をしてるんだ?」


「新しい任務がある。だが、その前に少し息抜きがしたいと思ってな」とイヴァンは答え、ビールを一口飲んだ。


「息抜きか。悪くない考えだ」と八尾は頷き、手元の釣り道具を整理しながら続けた。「でも、お前がそんなにリラックスしてるところを見たことがないな。何かあったのか?」


「いや、ただの感傷だ」とイヴァンは軽く笑ったが、その目にはまだ戦闘の影が残っていた。「それより、お前が持っている情報について話してくれ」


 八尾は真剣な表情に変わり、声を潜めた。「千葉の奥地に洞窟がある。その洞窟で最近、奇妙な活動が報告されているんだ。どうやら、バイオハザードのようなものが発生しているらしい」


「バイオハザードだと?」イヴァンは眉をひそめた。


「ああ、地元の連中はあまり騒ぎたくないようだが、噂では、洞窟の中で何かが『生まれて』いるらしい。化学兵器か、あるいは実験体か…とにかく危険なものが動き出しているようだ」


「それが俺の任務に関係している可能性があるな」とイヴァンは考え込んだ。


「その洞窟、俺が案内しよう。だが、気をつけろよ。ここは熱帯夜が続いている上、あの洞窟には異常な熱気がこもっている。それに、千葉の一部では異常な活動が増えているらしい」


「その洞窟へ向かう前に、少し様子を見ておく必要があるな」とイヴァンは言った。「それから、洞窟の外に釣り船を隠して待機させておいてくれ。何かあればすぐに逃げ出せるようにしておきたい」


 八尾は頷き、「了解だ、イヴァン。お前が何かを始めるときは、いつも何か大きな問題が起こるからな」と笑いながら、手早く準備を始めた。


 その後、イヴァンと八尾は夜の海を進み、洞窟の入口に到着した。洞窟の内部はまるで異界のようで、湿気と熱が身体にまとわりついた。洞窟の中は不気味な静けさに包まれており、その深奥には、かすかな光が見えていた。


 イヴァンは慎重に進みながら、洞窟の壁に奇妙な傷跡が残っていることに気づいた。「これは…」


「何かが暴れた跡だな」と八尾が呟いた。「俺たちは、深く入りすぎる前に、この場所を調べた方が良さそうだ」


 イヴァンは頷き、周囲を警戒しながらさらに進んだ。しかし、その時、不意に洞窟の奥から異様な音が響き渡った。


「これは…ただ事じゃないな」と八尾が言った。


 イヴァンはその音に耳を澄ませ、「何かが動いている。おそらく、俺たちが予想していた以上に危険なものだろう」と冷静に答えた。


 次の瞬間、洞窟の奥から巨大な影が姿を現した。それは、まるで実験体のような異形の存在であり、その姿は人間のものとはかけ離れていた。


「これがバイオハザードの原因か…」とイヴァンは低く呟き、即座に武器を構えた。


「イヴァン、俺たちは一旦引くべきだ!」八尾が叫んだ。


 だが、イヴァンは引く気配を見せず、むしろその目には戦いへの覚悟が宿っていた。「いや、ここで終わらせる。この危険を外に持ち出すわけにはいかない」


 戦いは避けられない状況となり、イヴァンと八尾は洞窟の中で異形の存在と対峙することとなった。その戦いの中で、イヴァンは再び自身の過去と向き合い、闇を乗り越えていかなければならなかった。


 そして、八尾の力も借りながら、イヴァンはこのバイオハザードの根源を断つべく、熾烈な戦いに挑むのであった。

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