第3話

 伊豆の温泉地で休息を取っていたイヴァンは、湯治場の静けさに包まれ、戦場での疲労をようやく感じ始めていた。温泉宿の一室で、彼は肩を揉みほぐすようにとマッサージを受けていた。若い女性のマッサージ師は、彼の体に深い傷跡がいくつも刻まれているのを目にし、驚いた様子を隠せなかった。


「随分と…多くの戦いを経験されたのですね」と、彼女は控えめに尋ねた。


 イヴァンは静かに笑みを浮かべ、「そうだな。だが、その話は長くなる。今はただ、疲れを癒やしたいだけだ」と答えた。


 その夜、イヴァンは再び静かな眠りに落ちるかと思われたが、突然の電話が彼の平穏を破った。受話器を取ると、聞き慣れない声が響いた。


「イヴァン、貴方に任務がある。ターゲットは再び伊吹だ。彼はまだ生きている」


「何だと…?」イヴァンは驚きを隠せなかった。「伊吹は確かに倒したはずだ。彼がどうして…」


「伊吹はしぶとい男だ。私たちの情報によれば、彼はウルフというコードネームを持つ新たな傭兵を雇い、地下に潜っている。今度はファミリーマートの地下に潜んでいると言われている。そこで密かに次のテロ計画を練っているようだ」


「ファミリーマート…?」イヴァンは不可解そうに眉をひそめたが、電話の相手は続けた。


「そうだ、信じがたいが事実だ。伊吹は街中のコンビニを利用して、地下に隠された拠点で活動している。そのファミリーマートには、表向きには何の変哲もないが、地下には罠が張り巡らされているらしい。地雷が埋められている可能性もある」


「了解した」と、イヴァンは覚悟を決めて受話器を置いた。


 翌日、イヴァンは再び戦闘モードに入り、ファミリーマートがある町へと向かった。表向きは平穏な風景が広がっていたが、彼はその裏に隠された危険を察知していた。店内に入ると、店員の目に特に怪しい様子はなかったが、イヴァンの警戒心は一層高まった。


 商品棚を慎重に見渡しながら、イヴァンはレジ横の一角に目を止めた。そこにあったのは、一見何の変哲もない床板だったが、彼の直感はそこに何かが隠されていると告げていた。そっと足を踏み出すと、わずかな音とともに床が微かに揺れた。


「やはり、ここか…」イヴァンは小声で呟き、慎重に床板を持ち上げると、そこには地下へと続く隠し扉が現れた。


 地下への道は狭く、暗い通路が続いていた。イヴァンは懐中電灯を手に進み始めたが、進むたびに地雷や罠の気配を感じ取った。警戒心を高めつつ、彼は通路を慎重に進んでいった。


 その奥に広がる空間で、イヴァンはついに伊吹と再会した。彼は背中に大きな傷跡を負っていたが、まだ健在だった。


「お前は死んだはずだ、伊吹」とイヴァンは冷たい声で言った。


「簡単には死ねんよ」と、伊吹は笑みを浮かべた。「だが、お前もまだここにいるということは、我々の戦いは終わっていないということだ」


 その時、暗闇からもう一人の男が現れた。伊吹の新たな協力者であるウルフだった。彼は冷酷な目でイヴァンを見据え、わずかに笑みを浮かべた。


「イヴァン、貴様はこの戦いに勝てると思っているのか?」ウルフが挑発的に問いかけた。


 イヴァンは静かに首を振り、「勝つかどうかは問題ではない。私はこの戦いを終わらせるためにここにいるだけだ」と答えた。


 戦闘は激化し、地下空間は銃撃と爆発で揺れた。伊吹とウルフは巧妙に罠を仕掛けていたが、イヴァンの鋭い直感と経験がその罠を次々と回避させた。


 最後の決戦の場面で、イヴァンはウルフを倒し、伊吹を追い詰めた。だが、伊吹は最後の一撃を受ける前に突然崩壊する天井の瓦礫に埋もれてしまった。イヴァンは瓦礫の山を見下ろし、長い戦いの終わりを感じた。


 その後、イヴァンは地上に戻り、ファミリーマートの前で一息ついた。その時、通りの向こうから一人の男が歩いてきた。彼の名は時枝、伊吹のかつての盟友だった。


「イヴァン、お疲れ様だな」と、時枝は軽い口調で話しかけてきた。「伊吹の終わりは確認できたか?」


「まだだ…瓦礫の下に埋もれたが、死を確認するには至らなかった」と、イヴァンは答えた。


 時枝は一瞬考え込んだ後、静かに言った。「伊吹は簡単には死なない。次に現れる時も、また戦わねばならないかもしれん」


 イヴァンは頷き、「その時はまた戦うまでだ」と静かに答えた。彼の心には、再び訪れるかもしれない戦いへの覚悟があった。


 こうして、一時的な平穏が訪れたかに見えたが、伊吹の影はまだ完全には消えていなかった。そしてイヴァンは再びその影と向き合う日が来ることを予感しつつ、次の任務に備えるのであった。

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