第17話 告白前夜

 私は、風鈴 野々葉(ふうりん ののは)。東野市にある、東野東高校に通う一年生。高校に通い始めて2ヶ月半。私の特徴は「双子であること」に変わりはなく、それ以外に、何の取り柄もアピールポイントもないことも同様だ。でも、ある日の下校途中、学年爽やか系男子NO1の呼び声が高い、天城霞ムガくんと相合い傘で帰るという偶然に恵まれた。そして、私は恋をした。惚れやすいなんて言わないで! あなたは、ムガくんの隣で一緒に傘に入ったことがあるの? ある人なら分かると思うわ。何とも表現できない素敵な彼の笑顔、そして心遣い…。彼のことを考えると、夜も眠れなく、ゴメン嘘をついたわ。毎日眠ってます。でも、彼のことを考えると居ても立ってもいられなくなるの。あんな彼氏が出来たのなら、わたしはもう、どうなってもいいわ。だけど…。


「野々ちゃん。実はね…。ムガくんには、門番がいるの。」


知ってる。角山スニッカーズ文庫を愛読している自分なら分かる。どんな恋にもね。必ず恋のライバルが出現するの。って、えっ? 恋のライバルじゃなく、門番って何よ! お姉ちゃん、どういうこと? ちゃんと説明してよ!

 そういう訳で、私はお姉ちゃんと一緒に門番を見に行ったわ。場所は屋上。そう、そこでは、ムガくんの恋人になるための厳しい審査が行われていた…。


「お、お前は不合格だ! 顔を洗って出!」


あ、あれが、門番か…。目がこわいし、人相も悪いし、金髪だし…。普段の生活で絶対に関わりになりたくないような人だった。あんな男の人に睨まれたら、きっと私は言いたいことも言えなくなっちゃう…。審査なんて絶対通らないよう! そんな私を助けてくれたのは、やっぱりお姉ちゃん。


「大丈夫だよ。D組の時屋さんって娘に頼めば、門番が出題する審査の想定問題集を売ってくれるんだって。」


想定問題集。それは魔法の言葉。審査のときに、どんな問題が出るのか、あらかじめ分かっていれば、私のようなプレッシャーに弱い人だって、焦らずに対処できるかもしれない。お姉ちゃんは、早速その問題集を手に入れてくれた。そして、特訓の日は続いた。


「はん、で、ムガとお付き合いしたら、どんなデートがしたいんだ、お前?」

「うん。私はムガくんと一緒にお料理を作るの。一緒にスーパーに行って、一緒に食材を見て回って。あと、ときどき一緒にお菓子も作りたいな。」

「ほう、料理とお菓子か…。悪くない」

「じゃあ次だ、お年玉を今年3万5千円もらったとする。お前何に使う?」

「今、欲しいものなんてないから。ムガくんと一緒にいられるならそれだけでいい。貯金するわ。最初に言ったけど結婚を前提としたお付き合いなの。結婚資金のために貯めておくのでもいい。」


パチパチパチ! 門番役をやってくれていたお姉ちゃんが、拍手をしてくれている。

「野々ちゃんすごいよ! ここまでミスもなく、まるで本当にそう思ってるかのように聞こえるぐらい上手になるなんて…。私、感激しちゃった!」

「ありがとう、お姉ちゃん。でも、ここまで上手に答えられるようになったのは、全部お姉ちゃんのおかげ。それに…。」

私は、言わずにいられなかったことを口にする。

「お姉ちゃん、雷二郎くんにそっくり! 見た目こそ全然違うけど、審査のやり取りをしてるときなんて、本物の雷二郎くんに話しかけらてるみたいだったよ!」

姉は、照れて頭を搔いている。そして、

「ほ、ホント? 私は雷二郎くんに成りきれてた?」

「うんそうだよ。お姉ちゃん、よくそこまで研究したね! ごめんね、私のためにそこまでしてくれて。」

姉が、ますます照れて顔を赤くし、いやぁ野々ちゃんのためだけでもないしね、と小さく呟くと、恥ずかしさで下を向いてしまったようだ。だが、しばらくして顔を上げると、キッパリと、

「野々ちゃん。もう、私から教えてあげられることは、何にもないわ! そう、あなたは、想定問題集を完璧に覚えた。もうやることは、ただ一つ。」

「ただ一つ?」

私の疑問に、姉は首を大きく縦に振る。

「そうよ、あなたに残されたもの、それは、本番よ。いい? 野々ちゃん。あなたは、いよいよ、ムガくんに告白するのよ!」


告白…。告る? 好きって告げる? いや、何でもいい! なぜなら、これこそ私が待ち望んでいた「恋のイベント」なのだから! ずっと憧れてきたの。ずっとずっと待ち望んできたことなの! スニッカーズ文庫のヒロインに自分を重ねて、いろんな疑似体験は経験済みだけど。まさか、私に恋のイベントが本当に起きるなんて!!!


「で、明日にする? 野々ちゃん。」

「えっ明日! え、無理、無理、まずは、その…恋愛成就の神社に行って、絵馬に願いごとを書かなきゃ。あと風水!そう、風水のこと調べて、よい日取りを選ばないといけない。あと、駅前にある占いの館にも行った方がいいかな…。」

姉はにっこり微笑むと、

「いいよ。野々ちゃんの気の済むようにしてからにしよう。」

そう言って、それから毎日私に付き合って、東野神社やら「あなたの運気をあげる風水グッズ」のお店やらに付き合ってくれた。その風水のお店では、出来るだけ運気のいい日をアドバイスしてもらって、6月28日を告白する日に決めた。


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