第16話 調査の行方②
晩ご飯を終え、自室に戻っても、京香の上機嫌は継続中であった。
「ふんふ~ん。風北さん、東野第三小か、意外と近くだったんだねえ。」
京香や雷二郎たちの通っていた東野小と、風北夏美が通っていた東野第三小は、学区が隣であった。この情報は、今日、京香が風北本人から聞き出したもので、近くの学区ならば、いろいろと情報を収集する方法を、京香は持ち合わせていた。先程の夕飯の際、
「ねえ、ねえ、お父さん? 私たちの同世代にさ、リトルリーグに第三小の子っていなかったかなあ?」
「何だ、急に昔の話をして? どうだったかなあ。ただ毎年必ず何人かは、第三小の子も入部してきてたからな。場合によっては教えてやってもいいが…。」
「そんなあ、親子の間でしょ! まさか個人情報がどうこうって言わないよね、お父さん!」
東野のリトルリーグのコーチをしていた父は、この地区の野球少年には、顔が広かった。最近は、各学校が単独で野球チームを維持するのは、なかなかに難しく、京香の学校も、周りの第二小や第三小の子たちと混ざって一つのチームを結成していた。
「京香、何で今頃? そんな昔の子のことが知りたくなったんだ?」
再び父が尋ねてくる。
(雷ちゃんゴメン! うちのお父さん、あんたの名前に弱いから借りるよ!)
「いや、雷ちゃんがさあ、久しぶりにみんなと会いたいなっ!て言っててさあ。もし連絡が取れるんなら取ってあげようかなあって。」
「何だ、そんなことなら、先に言ってくれよ。待ってな京香。今、名簿持ってくるから。」
(お父さんも、ゴメンねぇ~)
「あのう。すみません…。わたくし、時屋と申しまして、ハイ、あの小学校の頃に父がリトルリーグのコーチを…。」
(よかった! 父のこと覚えててくれてたんだ。)
「ハイ、で、もし可能でしたら茂くんとお話がしたくて、え!駿河城学園!もしかして野球でですか! それはすご~い。ハイ、あのじゃあ。ハイ、分かりました。え~と私の番号はですね。0x0-xxxx-x723です。ハイ、ありがとうございました!ハイ、失礼いたします。」
(ふぅ~、緊張したあ。そっかあ、少し思い出してきた。茂くんって、雷ちゃんと一緒に5年生でレギュラーだった子だ! しっかし駿河城学園かあ、うちの県だと毎年甲子園行き争う常連じゃないっすか。すごいな、野球続けてたら…そんなこともあり得るんだ。)
そこで、ふと夏美は、雷二郎のことを考える。
(そうだね…、もし、雷ちゃんが野球を続けていたら…。どうだったのかな…。)
数日後、夜の結構遅い時間に、夏美の携帯に茂くんから電話が掛かってきた。父や茂くんの近況などを話し合ったり、駿河台野球部の1年生の仕事が大変だという話を聞いたりしたあとで、本題に入る。
「で、風北さんって、どういう子なのかなって。いきなり、先生の前で髪切っちゃうような子だからね。どんな風に付き合えばいいのか…。」
茂からは、有益な情報が入ってこなそうな気がしていた。なぜなら、
「ああ、あの転校生、確かそんな名前だったかな? でも、わりぃ、その子1回も学校来なかったから、幽霊って呼んでたな。それしか記憶ねえや。」
風北夏美は、第三小に転校してきたものの、一度も学校には登校していなかった。
「そ、そう…。いやあ、でも茂くん凄いね。雷ちゃんにも教えてあげよ。甲子園行けるかもしれないんでしょ?」
何だか、電話の向こうの茂くんの雰囲気が、変わったような気がした。
「雷ちゃんって、竜神雷二郎のことか? はん、悪いけどオレは、あいつみたいな勝手なヤツは嫌いだ。突然辞めちまうし、野球辞める理由も教えてくれなかったしな。あいつが抜けてからのチ―ムが、どんだけ苦労したか。ま、昔のことだからな。今さら言ってもってのはあるけどな。」
(雷ちゃんのこと悪く言わないで! 仕方が無かったんだよ!)
夏美は口には出せなかったが、電話口の向こうに伝えたくて仕方が無かった。
「じゃあ、お父さんに宜しく、時屋コーチは、いいコーチだったよ!」
「うん…。ありがと茂くん。じゃあ…。」
「あ、そうそう、一つ思い出したよ。風北夏美のこと。あいつ、どっから転校してきたと思う? 驚くなよ、バーソロだよバーソロ、だから、うちの学校になんかに来たくねえんじゃねえのって、友達と話したの思い出したよ。」
※聖バーソロミュー女学院…東野市にある、良家の子女が通う私立の学校。プロテスタント系。
電話を切った後、最初に京香が思ったことは、雷二郎のことであった。見方が変わると、雷二郎だって悪いやつになってしまう。その事実は、すごく寂しいことだった。それでも、アタシは知っている。雷二郎は間違っていない。雷二郎はすごいヤツなんだって。
よし! 京香は気持ちを切り替えると、雷二郎からの依頼である風北夏美について、もう一度考えることにした。それにしても、バーソロかあ。なるほど学年2位ってのも納得だわ。それにしても、何で公立の学校になんか転校してきたんだろ? 第三小の辺りだったら、別にバーソロに通えるから、引っ越しが原因って訳じゃなさそうだし、経済的な問題かなあ? 夏美には、そのぐらいしか思いつかなかった。ただ、誰かバーソロのこと知ってるって娘はいなかったっけなあ…と、思考を巡らす。京香は、何とか調査をもう少し進めたいという気持ちがあったので、明日から、誰かバーソロに詳しい子がいないか、学校で聞き込みをしてみようと結論づけた。
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