第13話 イベントが発生しそうな双子姉妹②
――― 雷二郎と風鈴姉妹が、スーパーで会った翌日
「どうしちゃったの二人とも? 急に料理任せて!なんて言い出して…。」
ソファーに腰掛けて、テレビを見ていたお母さんが、CMの多い、番組の切れ間に、二人に尋ねてきた。
「いや、たまには、お母さんにも楽をさせてあげないとねって、お姉ちゃんと話してたの。」
一方の姉は、先程たくさん割り終えたタマゴを一所懸命かき混ぜている。野々葉も母親との雑談を止め、まな板の上で何やら切り始める。小声で姉が野々葉に囁く、
「野々ちゃん、たまには、じゃないわよ! これから毎週水曜日は、私たちがやるよ!」
「えっ! 何で?」
野々葉の方は、普通の声で反応する。姉は小声で、菜々葉に静かにするよう促し、
「わたし、ウソはつきたくないって言ったでしょ!」
「それと、毎週お料理するのと何の関係が、あっ!お姉ちゃんまさか、食事当番って言葉も、本当のことにしちゃいたい訳?」
「そうよ! 悪い?」
「いやいや、いくら何でも真面目すぎるでしょ。どうせ、ムガくんたちが、それを確かめる方法はないんだから…。」
「いい、野々ちゃん! 前も言ったけどね、ウソをつくと、だいたい悪い方向に物事が進み始めるの。そして後で思うの。ウソなんてつかなければよかったって。」
(前回もそう思ったんだけど。お姉ちゃん、やけに実感がこもってるな…。)
「お姉ちゃん、ウソついて、何か失敗したことあったっけ?」
「あるわ…。」
野々葉は、更に追求しようと思ったが、ちょうど姉が、油を引いたフライパンに溶き終わったタマゴを流し込むタイミングだったので思いとどまった。ジューッという豪快な音の後、パチッ、パチッと油のはじける音がする。野々葉の方もスープに入れる材料をあらかた切り終わったので、寿々葉の横へ行って鍋に火を掛ける。そのまま、二人は火を扱っていることもあって、しばらく料理に集中する。
「おい、聞いたぞ。今日は、お前たちが食事の準備をしてくれたんだってな?」
家族4人が食卓を囲んでいる。先程帰ってきた父親が、いただきますの挨拶の前に娘たちに確認している。そうだよ、と野々葉が誇らしげに言う。
「いただきます。」
家族の食事が始まっても、やはり話題は、姉妹の料理についてだった。
「一体どういう風の吹き回しかしらね? しかも、これから毎週水曜日は料理を作ってくれるんだって。」
母親が、父親に、先程娘たちに宣言されたことを伝える。父親は、更に驚き、
「ほんと、どうしちゃたんだお前たち。あっ、分かった! 好きな男の子ができたんだろ! んで、花嫁修業をはじめたって訳だ。そうだろ野々葉、寿々葉?」
野々葉は、ちょっぴりドキッとしたものの、反撃に出る。
「ちょっとお父さん。いい? まずは、今の発言撤回しなさいよ。花嫁修業なんて言葉、今どき使ったら大変なことになるんだからね。」
「えっ? 何で。」
野々葉は、これだよ、と呟きながら、大げさに首を横に振り、
「花嫁だけならまだセーフかもしんないけど、修行がついたら確実にアウトよ! 検閲に引っかかって…。」
「どこの検閲だよ。」
「え~と、角山スニッカーズ文庫とか…。あと、そう、SNSなんかにその単語、書いたらもう、大変なことになるわよ! しかも、それが中年の男性の書き込みだなんてバレた日には、鬼の首を取ったかのように、わらわらと人が集まってきて集中砲火よ!」
「そうなのか、母さん?」
父がびっくりして、横を向いて母親に尋ねると、母親は黙って首を縦に振る。
「あちゃ~、そうか。それは、すまなかったな。じゃあ何て?」
「そうね。普通に婚活のためのスキルアップとか?」
「ん? 何だ、結局、男性を意識してないかソレ?」
「い、いいのよ。それは。」
そう言って自分が作ったスープを一口飲んでみる。
(おっ! いいできじゃん! ムガくんにいつか作ってあげたいな…。)
寿々葉は、あまり会話に参加せずに、ときどき、う~んと唸りながら食べている。気がついたのであろう。母親が、寿々葉が作ったオムレツを褒めると、
「ありがとう。お母さん。でもやっぱりお母さんのようにはいかないね。ちょっと固くなっちゃった…。」
(いつものことだけど、お姉ちゃん、自己採点厳しいな。充分美味しいと思うけど…。)
その後も、父親の美味しい美味しい!という賛美が続き、楽しい夕げの時間を風鈴家の人たちは過ごしていた。
夕食後、姉妹は二人共有の自室で、それぞれ時間を過ごしていた。寿々葉は今日も寝っ転がってコミックを。野々葉は姉の携帯を借りて、門番が出しそうな、想定問題集というものを眺めている。
「うへぇ~。あの2000円の買い物の問題の他にも、お年玉をどう使うのか? なんて問題もあるみたい。あの門番、何でお金にそんなにこだわってるのかな? ただの シュ、シュ何だっけ?」
「守銭奴。」
姉がコミックを読みながら、助け船を出してくれた。
「そうそう、守銭奴、ほかにも、ゼニ何とか、えーと、ゼ●ガメだったかな?」
「野々葉、あんた大手企業に訴訟を起こされたいの? カメじゃなくて ゲバよ。銭ゲバ。」
「あちゃあ、そうでした。銭ゲバ、それ! きっとあの門番、ケチよ。銭ゲバ野郎なんだわ。」
姉が、コミックを閉じて、野々葉の方を向く。ジト目で、
「野々ちゃん、いくら門番さんが、ムガくんに辿り着くのに邪魔だからって、そんな風な、汚い言葉を使っちゃイケません。」
「そ、そうだね。ごめんね。つい、敵だ!って思っちゃうんだよね。あの金髪の門番さん。」
なぜか姉は遠い目をしている。そして、
「雷二郎くんも、ご飯のお当番だったのかな…。」
独り言を呟く。野々葉がその言葉を拾い、
「ああ、でも、きっとたいしたもん作れないよ。TKGとか、どんなに頑張っても※BLCね。」
BLC…ベーコンレタス炒飯、野々葉にも作れるらしい。
「野々ちゃん!」
姉が怖い目で見てくる。
「ごめんなさ~い。私も病気かな。どうも、あの門番苦手なのよね…。」
「ハ、、ハ、ハクションっ!!」
雷二郎が豪快にくしゃみをするのを見て、ムガが
「雷ちゃん大丈夫? 風邪引いたんじゃない?」
と声を掛ける。
「いや、それはないと思うが…。それよりロールキャベツの味付けどうだ? 今日は八角とか入れて台湾風をイメージして作ってみたんだが。」
ムガは、顔の前にグッドを表す親指を立てた握り拳を出し、
「いや、ほんとに美味しいよ。コンソメを薄くして、台湾風の味付けにしたのボクでも分かるよ。雷ちゃん税理士じゃなくても、料理の道でやっていけるから!」
ムガはそう言い終わると、雷二郎が、もう一品力を入れて調理したといっていた、炒飯に取りかかる。ちなみにこちらも台湾風だそうだ。手の掛かる錦糸タマゴがパラパラと振りかけられていて、見た目も非常に美味しそうであった。
「こっちも、いただきま~す!」
一口食べたムガが、幸せそうな顔をする。そして、ウハ~とよく分からない声を上げると、
「こっちもすごいよ。雷ちゃん! 学食の横で販売しない? 学食に行く人数、半分に減らせると思うよ! 学食のおばちゃん、いつも混んでて大変そうだから、きっとありがたがられるよ。」
「すごい例えだな。でもまあ、口に合ってよかったよ!」
その後、雷二郎がスーパーで双子に会ったことが話題に出ると、ムガが、
「風鈴さんたちも、お料理作ってるんだ…。そろそろボクも、料理のレパートリー増やさないといけないかな?」
「ん? お前、料理なんか出来ないだろ?」
「何言ってるの雷ちゃん! 雷ちゃんが風邪引いたとき、ボクが作ってあげたじゃないか! 卵かけご飯、TKG!!!」
「あ、あれを料理と呼んでよかったのか…。すまん、そうだったな。で、今度は何を作りたいんだ?」
「そうだねえ…。BLCかな。ベーコンレタス炒飯!!!」
「ハ、ハ、ハクシュッ!」
野々葉が横を向いて、くしゃみが携帯を汚すのを防ぐ。姉が、
「どうしたの? 野々ちゃん、大丈夫? 風邪引いたんじゃないの。」
「い、いあや、このくしゃみは、角山スニッカーズ文庫に出てくる定番のやつだと思う。だ、誰かが、わたしのの噂をしているな!ってやつ。ま、現実にはそんなことないと思うけど…。」
「よく分からないけど、風邪でないならいいわ。」
野々葉は、門番対策の想定問題集をざっと読み終わったので、姉の携帯を姉の机の上にある充電ケーブルに差し込み、
「携帯ありがとね。明日、実際に練習してみたいから…。お姉ちゃん悪いんだけど、門番さんの役やってくれないかな?」
「えっ私が雷二郎くんの…。」
「お願い!お姉ちゃんしか頼める人いないし、一人じゃなんか感覚がつかめないの。」
「私が雷二郎くん…。」
まだ姉は独り言をブツブツ呟いている。が、やがて、パッと明るい顔になり。
「いいですとも! 私、雷二郎くんの役やるよ!」
「ありがとう。お姉ちゃん!」
だが、このとき菜々葉は、まさか真面目な姉が、あんな行動に出るとは思いもしていなかった…。
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