第12話 イベントが発生しそうな双子姉妹

 放課後、野々葉が、階段を降りて、玄関の方へ向かっていると、手持ち無沙汰で誰かを待っていそうな姉の姿を見かけた。高校に入ってからは、学校では別々行動しよう!という取り決めをしていたので、待ち人が自分かどうか微妙であったが、自分を見付けるとパッと明るい表情になったので、どうやら自分のことを待っていたらしい。

「野々ちゃん。私ね、例の想定問題集を手に入れちゃったの。」

「えっ!もしかして、ムガくんの門番を突破するための?」

(スゴイ、お姉ちゃん買ってくれたんだ。)

「そう。それでね。よく出る問題の中に、2000円で、2日分の朝と夜のご飯のメニューを考えろ!ってのがあるの。」

「何だか本格的だね。家庭科のお勉強みたい。」

姉は、そうなんだようと、私に同意し、

「でね、野々ちゃん野菜とかお肉のお値段、あんまし知らないかな?って思ったんだ。これから、ちょっとスーパーに寄ってみない?」

「お姉ちゃん、アタシのために…ウウ、感動だよ! ありがとう。で、どこに寄ってく?」

「駅への道からは、ちょっと離れるんだけど※ガオンが、いいかなって。駅ビルの純情石井は、ちょっとお値段が張るから。」

※ガオン・・・泣く子も黙る全国NO1のチェーン店。その支払方法GAONを端末にかざすとガオーと吠えるオオカミの鳴き声がするとか。

「そうだね。2000円で2日分でしょ。庶民的なスーパーの方がいいね。嬉しいな。何だかお姉ちゃんとスーパーなんて、久し振りだね!」


「知らなかった…。お肉の値段って結構バラバラなんだね?」

今、わたしは、お姉ちゃんと精肉コーナー前に並んでいる。私が呟くと、それに姉が反応する。

「そうだねえ。あと部位も聞かれるらしいから、それも覚えなきゃ。」

そう言いながら、携帯に肩ロースいくらとか、小間切れいくらとか打ち込んでいる。きっとアタシのためなんだろうな、と思うと、本当に嬉しくて、

「お姉ちゃん…。アタシ頑張るからね! 必ず突破してやるんだから!」

「んで、お前は何を頑張るんだって?」

突然金髪の人相の悪い男の人に声をかけられた!

ヒエッ!

姉も、きっと驚いたに違いないだろうが、努めて冷静に、

「こんにちは、雷二郎くん、こんなところで会うなんて、驚いた。」

「そりゃ、こっちの台詞だ。お前ら電車通学って言ってなかったか? 何でこんなとこに居る? 駅とは反対だろ。」

(ム、この金髪、意外と記憶力がいいな。)

姉が淀みなく誤魔化しに入る。

「それは、そうなんだけど、今日はタマゴがこっちの方が安いから。私たち、今日お食事当番なんだ。」

(すごい、さっき見たタマゴの特売から、よくそんなデマカセを考えたね。お姉ちゃん!)

「ん、タマゴか。確かにそれはオレも買おうと思ってた。それに…、」

何だか姉を見る金髪の目が優しい。

「お食事当番。いい響きだ…。」

(それのどこが! いい響きなのよ!)

「雷二郎くんこそ、スーパーでお買い物? もしかして、お食事とか作ってるの?」

「ん? ああ。ま、そんなところだ。」

(ええ! こんな金髪が夕飯なんか作れるの? きっと卵かけご飯ね。T・K・G!)

「ところで風鈴の妹、お前は、何を頑張る気なんだ?」

(ヒエッ、油断してた! さっきの話を忘れていなのか、金髪!)

「え~と、あの、その、お姉ちゃんの…。お姉ちゃんの応援よ!」

(しまった、お姉ちゃんも、えっ?という顔をしてる。)

「応援って、何を応援するんだ?」

「そ、それは、もちろん、恋の応援よ。お姉ちゃん、今度男の子に告白するんだ!」

(違う!それはワタシだった!!)

「ほお。それは、まさかムガじゃないだろうな?」

「え、えっと…。」

そのとき、強い口調できっぱりと横から姉が言い切った。

「違うわ。」

金髪は、お姉ちゃんの方を向き、何だかちょっぴり残念そうに、

「そうか…。違うのか…。」

そう呟いた。そして買い物に戻る気になったのだろう。

「じゃ、オレはこれで! ところで、お前ら。何で買い物かご持ってないんだ?」

「!?」「!?」

幸い金髪からの、それ以上の追求はなかったが、姉も苦笑いしている。

「ふぅ危なかった。ところで菜々ちゃん! 何がアタシの応援よ!自分のことをアタシにすり替えないでよね!」

「ごめんなさい。ちょっと急に金髪に話し掛けられて、テンパっちゃった…。」

「もう、しっかりしなさい! 行くよ。」

姉が動き始める。

「えっ、どこに?」

「買い物かごのところに決まってるでしょ! 菜々ちゃんはタマゴ持ってきて。あと、他に何買うか考えて。」

「えっ、本当にお買い物するの?」

「そうだよ。それにお買い物だけじゃないわ。今日は、もうお母さんが準備しちゃってると思うけど、明日は私たちが作るわよ!」

「へ、何で?」

「雷二郎くんに…。」

何だか姉の言葉が小さくなって聞き取れなかったのでもう一度尋ねる。

「何で明日、私たちが料理作らなきゃいけないの?」

「わたし、ウソをつきたくないの。昔からね、ウソをつくと、だいたい悪い結果になるの…。」

(何だか実感がこもってるな…。ま、いっか。お姉ちゃんと料理なんていつ以来だろ?)

「お姉ちゃんわかったよ。じゃあ、一緒に料理作ろ!」

姉がニコリとすると、野菜見に行こっか?と明るい声で誘ってきたので、わたしは頷く。お買い物って楽しいな! 久しぶりにそんなことを思った。

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