第19話 イベントが発生した双子姉妹

「お前、やけにスムーズに俺の問題に答えられるな。妙だな…。」

雷二郎が顎を擦りながら、何か思考をまとめようとしている。

 ついに双子の妹の方、野々葉が決意を固め、ムガに告白したいと言ってきた。

いつもどおり、審査を始めた雷二郎だったが、審査がするすると進むことに違和感を感じ始めていた。少し離れたところでフェンスに寄り掛かりながら、ムガが見ている。


(マ、マズイかな? 想定問題集を見たってバレちゃう?)

野々葉に不安がよぎる。ちょうどその時、次の質問が来る。

「お前の長所、そうだなアピールポイントを言ってみろ。」

(へ? 何その普通の面接みたいな質問。問題集に載っていなかったよ!)

「わ、私の長所は、アレ? あれ? 何だろう…。」

給水塔の陰から見ているであろう姉の方をチラっと見る。

「コラ、お姉ちゃんを頼るな!」

(ひえ~、この人お姉ちゃんが一緒に来ていること見抜いてるんだ!)

野々葉の動揺は、より大きなものになり、うまく言葉を出すことができない。

「わ、私のアピアピ、アヒルは!」

「アヒル? それが、どうした?」

野々葉の混乱する姿を見て、雷二郎がパタンとメモ帳を閉じる。ちょうどムガが様子を見にやって来た。

「雷ちゃん。今日は長かったね? もしかして、合格?」

「いや、審査は順調だったが、ちょっとな…。」

「じゃあ、いつものアレだね? 僕が言っても言い?」

「ああ、俺は、ちょっと、こいつの保護者のところに行ってくる。」

そう言うと、雷二郎は給水塔が並んでいる方へ歩み出す。行ってらっしゃい!と、ムガは、雷二郎に手を振ると、今度はニッコリしながら野々葉の方を向く。

「残念だったね。野々葉ちゃん。でも、スゴいね。いつもは、もっと最初の方で、雷ちゃんがダメ出しするのに、今日は、こんなに時間がかかって。きっと惜しかったんだよ。」


「コラ、風鈴の姉、出てこい。」

寿々葉が、給水塔の陰から正直に出てくる。

「ちょっと、お前に聞きたいことがある。どうも、野々葉は、俺の審査の内容を予め知っていたみたいなんだが…。そもそも、ほとんどの奴が最初の結婚の質問で、そんなの考えてないって言う。なのに、オレが質問を言い終わるや否や、結婚を前提に考えてます!って。」

「雷二郎くん。早く答えちゃ駄目なの?」

「いや、そういうことじゃなく、最後のごく一般的な質問、わざといつもしない質問をしてみたんだ。お前のアピールポイントは?って。そしたら、返答にかなりもたついてた。あんな簡単な質問にもたつくヤツが、結婚の方はスラスラ言えるなんて、どう考えてもおかしいだろ?」

「…。」

「俺が審査をしてるのは、ムガの為なんだ。ちょっと理由があってな。ムガと付き合う娘には、結構な覚悟が必要なんだ。もし、審査の内容を知っていて、上辺だけクリアして、中身が伴っていないと、結局その娘も辛い思いをすることになる。」

「…。」

「もし、審査の内容のことで、知ってることがあったら…。」

「ごめんね雷二郎くん。悪いけど、それは雷二郎くんの方で対策して。門番がラクをしようとしたら駄目だよ。どんな敵が来ても臨機応変にできないと、門番って言えないんじゃないかな?」

雷二郎は、ちょっとだけ反論しようという素振りを見せたが、思い留まると、

「ぬ、そうだな。お前の言うことは、いつも的を得ている。ありがとう寿々葉。」

「い、いえ、こちらこそ…。」

雷二郎はムガの方を向きはじめたので、寿々葉の顔が赤くなっていることには気づかなかった。

「さて、向こうもそろそろ片付いたかな?って、アイツまだ言ってないのか!」

雑談しているムガと野々葉の姿が目に写る。雷二郎はわざとらしく、ウ、ウウンと大きな咳払いをしてムガに早く言え!と合図を送る。ムガが、それに気づいて、うんと頷く。


ムガは、野々葉ちゃん…と呼び掛け、正面に野々葉の顔を見据えると、

「顔洗って、寝直してきな♥️」

「えっ? 寝直す…?」

野々葉が固まる。言われた言葉の内容を噛み砕こうと必死のようだ。それを耳にした雷二郎が慌てる。

(おい!馬鹿、寝直してじゃなく出直すだ! 何度言えば分かる! しかも何、♥️マークつけてんだよ!)

ムガはニッコリ野々葉に微笑みかけ、

「うん。そうだよ。寝直してね。」

野々葉は、しつこいと分かっていたが、もう一度だけ尋ねる。

「寝直す…なんだよね?」

「うん。そうだよ。お布団に入ってぐっすり眠るといいよ。あと、顔洗うのも忘れちゃ駄目だよ♥️」

(こら! そんなアドリブぶち込むな! 何、余計なことしてやがる!)

「私…おうちに帰った方がいいのかな? お布団で寝直すんだよね…。」

野々葉が困ったような視線を向けると、ムガは、あっそうか! と手を打ち、

「そうだよね。ごめんごめん。それだと面倒だから、保健室で寝ていいか聞いてくるね。一緒に保健室行く?」

(コラ、コラ、コラ、天然ボケにも程があるだろ、さすがにこの後が面倒になりそうだ。いっちょあの娘を脅してお引き取り願おうか)

と雷二郎が近づいて行こうとしたところを、後ろから強い力で上着の裾を引っ張られる。勘のいい姉が雷二郎の行動を予測したようだ。

「雷二郎くん、ちょっと、妹を脅かしたら駄目なんだから!」

「おまっ、ちょっと邪魔するな!」

雷二郎がそう言っても、寿々葉は、服の裾をいっこうに離すそぶりが無い。さすがに力づくでというのは躊躇われたので、説得を試みる。

「あのなあ、お前の妹は不合格なんだ。また出直してくれよ。時々ムガは予測のつかないことするからな。早目に止めておいた方がいいんだ。さっきも布団がどうとか、どう考えてもややこしくなる!」

「ホント? 妹を脅かしたり泣かせたりしない?」

「ああ、分かったよ。心配ならお前も付いてくればいい。」

ようやく、寿々葉が服を掴んでいる手を離したので、さっそくムガの所へ…と思ったのだが、一足遅かったようだ。屋上から二人の姿は消えている。さっきの話の流れだと保健室に行きそうだが…。チッと舌打ちをして、二人が消えた西階段の方へ走り出す。気配で後ろから寿々葉も付いてきているのが分かる。


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