第3話 イベント無発生の双子姉妹②

「顔洗って!寝直しな♥️」

「出直すだってば…ムガ、覚えろ!」

女生徒が屋上の入り口の方へ、怒りをあらわにしながら去って行く。

「ふざけるな門番のヤロウ! ムガくん、こんな奴とつるんでるなんて、こっちが願い下げだわ!」

捨て台詞が聞こえる。

「あれ上級生だよね?」

「ああ。」

「かなり怒ってるね。」

「ああ。」

「どうしてあんなに怒ってるの、雷ちゃん?」

「とにかく一度デートさせろって、※ナガシマスパイシーランドに来週行くから一緒にってさ。で、アタシの水着姿見たら、その魅力で、きっとムガくんもイチコロだとか何とか…。」

※ナガシマスパイシーランド・・・プールもあるが、絶叫系マシンが売りの大型観光スポット、男女でいけばカップル誕生率が格段に高まるとか…。

「へぇ~。で、雷ちゃんは何て言ったの?」

「水着審査は歓迎だが、東野市民プールにしてくれって。」

「あちゃ~! それはダメだよ雷ちゃん。そもそも水着審査ってワードがNGだし、市民プールって庶民的な言葉も…。女の子はね、もっとこうキラキラした言葉とかイベントが好きなんだよ。」

「ぬ、そうか。でも、向こうが水着アピールを提案してきたんだぞ? ま、結局そういうキラキラしたのは、俺たちは無理だけど…。ごめんなムガ。」

「な~に言ってるの。雷ちゃんのおかげで、ボクは高校まで進学できてるんだからね。水着は残念だけど、あの娘がボクに向いてないのは間違いないよ。やっぱ雷ちゃんに任せてれば確実だね。」



「お姉ちゃんさあ、お姉ちゃんのクラスの天城霞くんって、知ってる?」

部屋のカーペットの上に寝っ転がり、コミックを読みながら、お菓子を頬張っている姉に野々葉が尋ねる。

「うん。知ってるよ。」

姉はコミックの方から視線を外すことなく、シンプルに妹の質問に答えた。

「お姉ちゃん、天城霞くんと仲いいの?」

すぐに返事はない。きっとコミックがいいところで、目が離せない場面なのだろう。それでも、少し時間を置いて、

「そんなでもないよ。めずらしい名字だねって話し掛けられたから、そっちもです!

って言ったら、笑ってくれた。」

姉は、お菓子の袋に手を入れたが、手応えが無かったのだろう。コミックを開いたまま脇に置くと、お菓子の袋の中を覗き込む。

「今日。天城霞くん、お姉ちゃんに何か言ってこなかった?」

今日とは、野々葉が傘を借りた次の日のこと。つまり、二人で傘で帰ったことによって、何か親密度が上がるようなイベントが起きていないか、それを知りたかったのだ。だが、

「あいさつだけかな。特に話し掛けられなかったよ。さて、」

そこまで言うと、姉の寿々葉は、お菓子の袋はゴミ箱へ、そして脇のコミックをパタンと閉じ、きちんと正座して野々葉に向き合う。

「説明して頂きましょうか? 野々ちゃん。天城霞くんがどうして気になるのかな?」

「うっ。」

そりゃそうだ。急に自分のクラスでもない男子のことを聞き出してきたのだ。姉が疑うのも無理はない。野々葉は、そこで昨日の出来事を話し、

「でも、ムガくん、きっと私のことお姉ちゃんだと思ってたんだよ。」

と、一言告げる。姉は腕組みをしてう~んと唸ると、

「野々ちゃん。その恋、応援するけどね…。ちょっといろいろと難しいと思うよ。」

(あれ、さっきの話のどこに、私が恋をしているって要素があったのかな? まあ正解なんだけど。)

「ちょっとお姉ちゃん。恋だなんて、そんなこと一言も言ってないでしょ!」

姉には話が通じないようだ。あっさりこの発言は無視をされ、

「野々ちゃん。実はムガくんにはね。」

(え!彼女がいるの!!! 早っ!早すぎるよ! 私の恋の終焉!!!)

「門番がいるの…。」

「も、門番??? 何ソレ?」

「門番は門番よ。目つきが悪いし、番犬って言ってもいいかな。」

「番犬…。」

「お姉ちゃん。さっきっから意味が分からないよ。どういうことなの? でもムガくんに彼女がいる訳じゃ無いんだよね?」

「うん。そうね。彼女はいないって、門番が言ってた。そういう意味では野々ちゃんにもチャンスがゼロって訳じゃないけど…。そうねえ。」

姉は少し思案したあとで、有意義な提案をしてくれた。

「まあ、百聞は一見に如かずって言うし、今度その場面があったらメールするから、すぐにおいでね!」


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