最終話 思い出させて


 もうすっかり明るくなってしまった、塔の最上階の一室で。


「私たち、間に合ったのかな」

 いつの間にか、月明かりの筋は見えなくなって。変わりに窓から、温かい光が差し込んでいました。日の出が来れば、魂は霊王のものになる。その言葉が本当だとすれば、私たちは一歩遅かったのかもしれません。

「さあな。俺にはわからない」

「……そっか」


 私の隣に立つルダンはどことなく無愛想に、顔も合わせずにそう言います。すっかり馴染んでしまったせいか、私たちは今も手をつないで、横に並んで立っています。

 見下ろした場所は砕けた王冠だけが残っていました。ルダンのあの一撃をうけて、霊王の亡骸は、跡形もなく消えうせてしまいました。


「……ルダンは、ホントに嘘つきだね」

「えっ、なにがだよ」

「妹みたいに思ってるって、嘘だったんでしょ」

「なっ、な……」


 ルダンは何か言おうとしたようですが、結局、何も言えずに黙り込んでしまいました。図星だったようです。私も、鈍感ではありませんから、あの言葉の裏に秘められた意味くらいわかっています。


「今はまだ、早いだろ」

「うん、私まだ、十四歳だからね」

「そうだ……うん?」


 おや、ルダンの方も察しがいいようですね。その様子だと、ちゃんと気付いているんですよね? 私が、どんな思いであなたを見るようになったのか。私が、これから普通の日常に戻った後、どうしたいのかも。


 ですが、説明してはあげません。私は彼の右手を引いて、西側の窓へ歩み寄ります。歩み寄って、自分の勘が間違っていないことを確かめてから、彼の方を向いてあげました。


「私、四日後まで忘れておくから」

「…………」


 窓の方から振り向いて、口元に笑みを浮かべながら、一言だけ。それだけで彼もわかってくれたのか、少し間を置いた後。彼は、私の左手を握り返してくれました。


「ああ、それなら誕生日と一緒に」


 眼下に見下広がる王城が放つ、底なしに温かい光と、一本橋の向こう側で松明を振る、数人の人影を見下ろした後。後ろから、今更になって登った朝日が、手を握る私たちを照らし始めました。


「あとで俺が、全部、思い出させてやるよ」


 彼は、随分キザなセリフを吐いて、私に笑顔をくれました。

 あとで、家族全員に……特に、正気を取り戻し、こっそり後ろでこちらを見ていたお父さんには、何度も何度もいじられるくらいにかっこをつけた、満面の笑みを。

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