第7話 未知を追究せよ
「まだ終わってない可能性があると?」
「……まぁそうなるけど、正直魔王とかいう典型的な奴倒したら普通終わりじゃない?」
それは一理ある。
「でも、プレイヤーの中にはまだストーリーが続いているのを信じてる人はいるっぽいね」
「そんな人たちもいるんですね」
「そそ、考察組って呼ばれててね、頭いい人たちがいっぱいいるの」
考察か。
ストーリーを求めるから考察なのか?……いやもっと重大なことを考えているのだろう。
「私の配信にも結構……ってそんなのはいいから先進もうよ!街までもうすぐだよ!」
めんどくさくなったのだろうか、考えるのをやめてまた歩き始める。
確かにこんなことを考えても意味はない。ワタシも初心者だし、そんなストーリーに関わる確率も高くないだろう。
そういえば……。
「前の街の時から言ってる配信とはなんですか」
「はぇ!?」
思い返せば結構前から配信という言葉を時折口にしているメイ。
ワタシはそれの意味を分かっていなかったが……いい機会だ、聞いてみよう。
「なんですか」
「んふぅぅぅ……ナンデモナイヨ」
棒読みだ。紛うことなき棒読みだ。
「嘘ですよね」
「……嘘だよ」
正直か。
さっきまでの仕草からしてメイは嘘があまりうまくないのだろうか。
「……教えてくれないんですか?」
「教えない、恥ずかしいから」
「恥ずかしいから」
恥ずかしいから教えないとは少し予想外だ。
ここまで隠すということは何か重大なものかと思ったのだが。
……ってなに重大なことでも聞こうとしているのだろう。そういう柄ではない。
「そこまで教えないのならいいです。そこまで親しいという訳でもないですし」
「それなら助かるんだけど……親しくない、かぁ」
「なにかありました?」
「ううん。ただね」
メイがワタシの方を振り向く。
その顔にはいつもの元気すぎるような笑顔ではなく、語り掛けるような笑顔……というか微笑みが浮かんでいた。
「私はカエデのこと親友だと思ってるけどね」
……親友。
現実では聞かないフレーズだ。
「あっどっちかというと弟子か!あっはっはっは!」
「どちらとしても知り合ったばかりでしょうに」
「友情に時間は関係ないの!」
「それにしてもでしょう」
一日にも満たない時間だ。時間は関係ないと言っても流石に短すぎだろう。
だが。
好ましく思ってくれているのは悪い気はしない。
――――
結局あの後、配信の意味は教えてもらえなかった。
道中ずっと気になっていたのだが、メイが話す素振りを見せなかったので特に追及もしなかった。
草原にはゴブリンとたまにスライムが出るぐらい。斬って進んで斬って進んで斬って……などの繰り返し。
うん、なんというか作業に近かった。
だが、メイと話しながら進むのは退屈ではなかった。
このゲームの話はもちろんとして、最近したこととか今日の夕食の話まで。
なんというかバラエティーが豊富だった。
そんな道を歩んできたワタシは今何をしているのかというと。
「うひょぉ!うめぇよぉ!」
「何ですかその声」
屋台で買った焼き鳥を食べていた。
……どうして?
「ふう……」
ワタシが今いるのは最初の街とは違う街だ。
前の街は噴水を中心をした活気ある街という感じだったが、今回の街は断崖と滝の街と言ったとこだろうか。
街の中腹には断崖があり、そこの側面に階段と建物がついてる。
そしてワタシたちが焼き鳥を食べているのはその建物の1つ【焼き鳥焼っちゃん】の焼き鳥である。
……名前が物凄くかわいいのは置いといて、なぜここに焼き鳥を食べに来たかというと。
「やっぱり焼っちゃんの焼き鳥は最高だぜェ!」
メイがこの街に来た途端「焼き鳥行くぞォ!」とキャラが変わったかのように叫び散らかしたのである。
正直、少し引いた。
だが焼き鳥には興味があったのでついてきたまでだ。
「ここの焼き鳥そんなに好きなんですか」
「そりゃあ天下の焼っちゃんだからね!このゲームのプレイヤーだったら1回は食べないと!」
「へぇ」
確かにそういわれるほど美味しい。
目の前の
……。
「フード?」
今気づいたが何故フードを被っているのだろう。
うむ……わからん。
「何故フードを?」
「もぐっ?」
その問いかけにメイが焼き鳥を頬張ったまま此方を向く。
焼き鳥は離さないのか。
「あーこれね……最初の街はまぁこのゲームについて詳しい人はいないから良かったけど、この街は少し知名度があるからね。うん。念のため」
何のことかさっぱりだが、取り敢えずメイには必要なものなのだろう。
それよりも次のことだ。
エネミーの狩り方などは教えてもらった。
話ではここまでだったはずだが……多分メイの性格からしてついてくるだろう。
まぁ都合が悪いこともないし黙認しておこう。
「とりあえずこれからどうするんですか」
自分の手元にある食べ終わった串がポリゴンになって消えていくのを見ながらメイに問いかける。
その問いにメイはUIを開く。
「……1回解散かなぁ」
少し驚く。
てっきり「このままガンガン行こー!」と言われるかと思ったのだが。
「何か問題でも?」
「いや問題はないんだけどねー……時間」
時間……現在は17時、確かに止めるにはちょうどなのだろうか。
「取り敢えずここは解散だねー……次都合合いそうなのはいつ?」
「早朝とかじゃなかったら大体行けますよ」
「んー……じゃあ明日の10時とかどう」
「わかりました」
「そんじゃ!じゃーねー!」
メイが目の前から消える。
ログアウトしたのだろう。そこにはまるでメイがもともといなかったかのように何も無い。本当にゲームの世界なのだなと改めて実感する。
さて……。
「店主さん、焼き鳥3本ください」
差し出された焼き鳥を片手にワタシはメイがいたところとは反対側に歩き出す。
向かう先は……。
――――
ヘッドセットを外し側に置く。
外したところから茶色のパーマのかかった髪が出てくる。
――今日はいろいろあったなー。
複数の景色を頭に浮かべる。
だが、その景色の多くには一人の少女が共通して映っていた。
その少女はカエデという少女。
最初の街で奇妙な動きをしていた純正度100%の初心者である。
なんとこれまで1回もゲームをしたことがなく、ゲームの定番とか基礎知識とかを全くと言っていいほど知らなかったのだ。
これほど衝撃なことは人生で数回しかない。
今のご時世、ゲームを幼少から触ってないということは必ずと言っていいほどない。自分の周りでもゲームの話題を振って答えることのできない人など見たこともない。
子供のプレゼントにゲームなどもよく聞く。
ま、触れられなかったという事実には変わりないのだから考えても仕方ない。
そんな初心者なメイだが1つ目を見張るものがあった。
剣だ。
最初のスライムへの一振りは綺麗だった。
そう、類を見ないぐらいだ。
きれいな、淀みのない一閃。速いわけでもないのだが速いと思わせられるもの。
前に見た格ゲー【Reattle】の一位の剣を彷彿とさせるものだ。
だがそこには違和感が付きまとっていた。
どこか蛇状に流れる川を無理矢理直線にしたような違和感。
きれいだがそれはカエデ本来の剣ではないと直感的にわかってしまった。
ここまで多くのことを語っていたが……まぁ要するに色々インパクトの多い少女と出会ったのだ。
ヘッドセットの電源は切らず特注のパソコンを操作しRercadiaではなくあるアプリを起動させる。
ヘッドセットをもう1回装着し、瞼を下す。
瞼を再度開くとそこはさっきまでいた部屋とは違っていた。
仮想現実に来たのだ。
今いるのはどこか近未来感のある寝室。
背伸びをしながらベッドから降りる。
「さてと……」
――今日は話すネタに困らないな。
UIを出し下にスクロールをしていく。
そこにあるのは1つのボタン。
そのボタンを勢いよく押す。
瞬間、目の前に光の枠が現れる。
「配信はぁじめるよぉ!」
大人気配信者【Mei】の配信が始まる。
仮想世界に魅せられて〜剣豪少女はネット界に名を刻む〜 なすびづくめ @nasubizukume
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