第6話 世界の終わりは不可測である
「ふぅ……」
剣は綺麗にスライムを切り裂いた。
スライムが先ほどと同じようにポリゴンになり消える。
それを確認してからワタシは剣を腰に戻す。
やはり刀と剣はちがう。
両刃というのもあるし刀と違って剣は硬い。
うん、そんなことを気にしてもしょうがないな。
とりあえずメイに報告でも。
「……メイ?」
メイが私の方を向いてポカーン呆けている。
まさに心ここにあらずのような表情をしている。
「メイ」
「……ハッ!」
呆けているメイをもう1回呼ぶとまるで意識を取り戻したかのように元に戻った。
本当にどうしたのだろうか。
いや気にしなくていいか。とりあえずはどうだったかを聞きに行こう。
「どうでした?できる限り完璧にやったつもりなのですが」
「……うん。スライム一匹にあそこまで集中する必要はないかな。一度に大軍で襲ってくるとかザラにあるからいちいちあんな集中してたらサクッとやられちゃうよ?」
「なるほど」
どうやら神経質になりすぎてたようだ。
「ていうか、なんか凄い綺麗なフォームだったけどもしかして剣道とか?だから刀気になってたの?」
「……いえ剣
「えー?なんかやってそうな動きだったけどなぁ……まぁいいか。次行くからついてきて〜」
そういうと街とは逆の方向に進んでいくメイ。
ワタシも後を追うように歩を進める。
思ってたより草原は広かったようで後ろにはもう街は見えなくなり、周りには草と木、ちらほらスライムばかりだ。
歩いているとそのスライムたちが襲ってくるので切り落としている。
さっきと同じく違和感を感じながらも芯は捉えている。
そのまま歩いていくと向こうに草原が途絶えているところが見えて来る。
「あれは……?」
そのまま進んでいくと微かに水の音が聞こえてきた。
どうやらそこは川だったようで少なくもなく、多いとも言えない量の水が流れている。
「ここ超えたらエネミーの種類とか違ってくるから」
「ほう……」
「ゴブリンとかレッサーウルフとか……知ってる?」
「いえ」
「だよねー」
だよねーって……もうなんか察せられてるな……。
眼前の川には小さな橋が1つかかっている。
そしてその先の草原には緑色の小人のような何かがいた。
そいつは手に見るからに粗造りな棍棒を持っており、悪い目つきで周囲を見渡している。
「あれが……?」
「そ、ゴブリン」
「なんというか……その……」
醜い、という言葉は少しひどい言葉だと思い口に出すのを躊躇してしまう。
だがメイはそれを察したようで苦笑いを浮かべる。
「……まぁどのゲームでもあんな感じだから、ほら行った行った」
「そうなんですか……」
その不遇さにすこし気の毒に思いつつも橋を渡る。
見たところスライムよりは早い動きで動いていた……まぁ子供が駆けるぐらいの速さだろうか。
攻撃の主体は棍棒での殴打。それ以外だったら嚙みつきとかだろうか。ひっかきとかもあり得るか。
足元の木のタイルが再び草に変わっていく。
どうやら橋を渡り切ったようだ。
それを皮切りに周りにいたゴブリン二匹がこちらに気づく。
「ギィィ!」
金切声のような声を上げて襲い掛かってくるそれら。
左前から一匹、真正面に一匹。
ワタシは右手を左腰に下げてある剣のグリップに添えて観察する。
――左の方が若干遅い。
左のゴブリンはもともともう一方より遠い位置にいたせいか若干遅い。
右から視線を外し前を見据える。
瞬間、ゴブリンがとびかかってくる。
「ギィヤァァァァ!」
眼前まで迫る緑の体。
それは容赦なくワタシに襲い掛かってくる。
だが。
――遅い。
右にステップする。
ゴブリンは振り下ろした棍棒を地面に突き刺してしまう。
さらされた無防備なゴブリンの背中を横に一閃する。
たちまちゴブリンはポリゴンと化していく。
だが油断はしない。
ポリゴンの陰からもう一匹が襲い掛かってくる。
「ギィィィ!」
「……単純ですね」
さっきの一匹と同じく上から棍棒を振り下ろしてくる。
「そこ」
肘を切り飛ばす。
そして流れるように縦に体を両断。
瞬く間にポリゴンと化していくそれ。
「終わりですかね」
周りに襲ってくるエネミーがいないことを確認し、剣を収める。
ゴブリンは人型だったがそんなに強くはなかった。
知能もそれなりにあるのかと思ったが単調に、馬鹿正直に前から攻めてきたので低いのだろう。
「お疲れー」
いつの間にか橋の向こうからこちらに来ていたメイが手を振りながら声をかけてくる。
「スライムとは違って動きが少し早かったと思うけど、どうだった?」
「そこまで苦戦はしませんでしたね、動きも複雑ではないですし」
「おぉ、余裕発言……強気だね」
「事実を述べたまでです」
「猛者感……!」
初心者のくせにーと脇をつついてくるメイ。
だがメイの視線はたまにワタシの剣の方に向いている。
「どうしたのですか?」
「……へ?どうしたってどうしたの?」
「いえ、たまに視線がワタシの剣の方に向いていたので」
「あーね」
何処か気まずそうに頬をかくメイ。
「いやぁ前から見ててさカエデの剣がさ、綺麗なんだけど何処か違和感があるというかなんというか……勘違いだろうけどね」
「……そうですか」
その見解は間違っていない。
実際私の方でも違和感は感じている。
剣を抜くとき、剣を振りかぶるとき、全てに少なからず違和感を感じていたのだ。
「ん……まぁ気にせずにいこうか!」
「気にしてたのは貴女の方ですけどね」
「うぐッ……」
雑談をしながら歩いていく。
その途中でもゴブリンはしっかりと襲ってきており、避けて切るを繰り返している。
数はそんなに多くないのであまり鬱陶しいとは思わない。
歩いていると最中、ワタシはふと思ったことがあった。
「これ、何処に向かっているんですか?」
見るからに街から遠ざかっている。
今の街までの距離はもう最初の位置からは遥かに遠いとこであり、とても戻ろうとは言い出せないだろう。
「いやぁ予想以上にカエデが強かったから、このまま次の街まで行っちゃおうかなと」
「次の街……街って複数あるんですね」
「そこからかぁ……」
曰く、街とは複数あるらしい。
ある一定距離事に点在しておりそれを巡るのが
……今の?
「今のとはどういうことなのですか?」
「うーんとね、つい1週間前ぐらいかな?グランドクエスト……いわゆるメインストーリーがクリアされたんだよ」
「ストーリーですか?」
「うん」
「それはどんなもので?」
メインストーリーというものが気になった。
というか字面だけ見ればそれが主体だったのだろう。
……もしかしなくても出遅れてるなこれ。
「各街に魔族が押し寄せて、それを倒していって、最終的に魔王を倒す。ほんとファンタジーの王道みたいなストーリーだったよ」
「魔王ですか」
魔王。
典型的な悪役とも言えるだろう。
なるほど、たしかにそう考えてみれば至って単純なストーリーだったのか。
そんな単純なストーリーでなんでここまで売れたのだろう。
「……王道なら何でここまでこのゲームは売れてるんですか?」
「あぁそれね。アクションがリアルってのと、後多分NPC……あの街にいたプレイヤーじゃない人達のことね、がすごいリアルなんだよ」
もう事前に配慮されてますね……。
たしかにあの街にいたときは全く違和感を感じないほどだった。
例として言えばあの武器屋の店主だろう。話していて違和感など全く無かった。
「魔王が討伐されたからストーリーは終結したんだろうねぇ……」
――違和感。
「だろうね、とはどういうことなのですか?」
「ん?あぁいやこのメインストーリーはクエスト判定じゃないから『これにてストーリー完結です!』とは出ないんだよ。各魔族とか、魔王とかを討伐しようとしたときにクエスト欄に『グランドクエスト』って出てくるだけだね」
つまり。
「まだ終わってない可能性があると?」
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