第4話 その手に握る得物は如何に

「らっしゃっせー」

「おぉう……」


 気の抜けた挨拶が入ると同時に聞こえてくる。

 接客が適当なコンビニとかラーメン屋とかでよく聞く挨拶だな。

 その発信源である店主は強面の中年であり体の方は肥満体形ではあるが目には鋭い眼光が宿っている。

 店の中は薄暗く、ところどころに埃もたまっている。


「ささ!選んで選んで!」


 そう言いながらメイは机の上にある多数の武器を手に取る。

 その武器たちは店の雰囲気とは異なりまるで出来立てのように輝いている。


「斧とか、ナイフとか、剣とか!色々あるよぉ?どれにする?」

「ふむ……」


 メイの言った通りいろんな種類の武器がある。

 だからこそどれを選ぶか迷ってしまう。

 

「これ種類はどれ選べばいいんですか?」

「んー?どれでもいいよ。このゲーム役職制じゃなくてスキルツリー制だから。役職に合わせて武器を選ぶんじゃなくて武器に合ったスキル選ぶ感じだからね」

「……スキルツリーとかわからないんですが」

「あっ、そっか初心者だったね」


 ついさっきの出来事だけど。忘れるの早いな?

 

 武器は好きなのを選べばいい、か。

 どんなのを使おう。

 

 ……そういえば。


「メイは魔法使いと言ってましたね」

「まぁ魔法スキル取ってるからね」


 魔法使い。

 現実にはない魔法を操る者。

 魔法ぐらいはさすがにワタシも知っている。

 炎を出し、水を流し、風を吹かせ、雷を落とす。そこに電力などは要らず、己が魔力でその現象を起こす。

 端的に言ってものすごく夢のあるものだ。

 それを使うのも悪くない。

 魔法と言えば杖。

 よし、杖のコーナーはあっちか。


 早速杖を取ろうと杖が多く置かれているコーナーへと近づいていく。


「あ、でも」


 メイが何かを思い出したかのように声を上げる。

 杖を手に持ちながらワタシはその言葉に耳を傾ける。


「カエデは魔法使えないから関係ないか!」


 ――え?


「ゑ?」

「はえ?」


 魔法が使えない……?


「ななな、何故ですか?」

「……もしかして魔法使おうとしてた?」

「えぇ、まぁ、現実にはないですし、魅力を感じてしまうのも当然じゃないですか?」


 現実で扱えないものを扱うというのは誰しもが夢見ることだろう。


「……カエデちゃん種族選択の時説明ちゃんと読んだ?」

「……読んでませんけど」


 獣族を選んだ理由は単に新鮮味を感じてみたいからだ。

 獣族の説明など面倒で読んでいない。


「カエデちゃん。あなたにお話があります。いいですか?」

「は、はい」


 急に真剣になるメイにワタシは少し気圧されてしまう。


「貴方は獣族を選んだ。ええ、ええ、わかってます。かわいいからですよね」


 違います。


「なぜ魔法が使えないのか?それは……」


 メイが口を開く。


「獣族は魔法が使えないという設定があるからです」


 ……え?


「え?」

「大丈夫!大丈夫!落ち着いて、落ち着いて」


 驚愕のあまり素っ頓狂な声を出したワタシの肩を掴み大きく揺するメイ。

 いやそんなに驚いてないから肩ゆするの一旦やめてもらえないですかね。


 それよりも獣族の設定の話だ。


「獣族が魔法使えないって本当?」

「あ、うん。本当だよ。」


 うわぁ。


「うん、これは説明しとかなきゃいけないよね……よく聞くように!」

「はい」


 満足そうにうなずくメイ。

 

「このゲームには各種族にコンセプトがあるの」


 メイは教師のように種族の説明をしていく。


人族ヒューマン

 オールラウンダーがコンセプトであり全てのステータスが平均的な種族。

 外見は現実の人間。


長耳族エルフ

 キャスターがコンセプトで魔法攻撃力INTが大幅に上昇する代わりに物理攻撃力STRが大幅に低下する。

 外見は人間ではあるが耳が長くなっている。目は金色である。


「私もエルフだよー!ほらほら」


 そう言って髪に隠れていた長い耳を見せてくる。

 

【獣族】

 インファイターがコンセプトで物理攻撃力STRが大幅に上昇する代わりに魔法攻撃力INTが大幅に低下する。

 外見は人間ではあるが獣のような耳としっぽがついている。


「これら以外にもいろいろ種族はあるんだけども……如何せん数が多いからね。ゲームをプレイしながら覚えてね!」

「りょーかい……」


 このような種族の説明が選択するときに書いてあったなんて気にしてもなかった。

 これからは説明とかよく見ることにしよう。


 取り敢えずワタシが魔法を使えない理由がわかった。

 使えないというのは言葉の綾であり、正確には使う意味がないといったところだろうか。

 折角の魔法だが損をする物なのならばさすがに使わない。

 諦めて近接武器を選ぼう。

 

「スタンダードな武器ってどんなのがあったりするんですか」

「んー……」


 話終えて店を物色していたメイは顎に手を当てすこし考えるような仕草をする。


「斧とか弓とかがよくつかわれてるけど……」


 一本の剣を手に取る。


「やっぱり最初は剣だよね!」

「剣ですか……」


 メイの手に取った剣が置いてあったコーナーを見る。

 そこには似た様な剣が多く置いてある。短めの長さで両刃の得物だった。

 そう、所謂西洋の片手直剣がそこには置いてあったのだ。


 ……なんか普通過ぎて微妙だな。


「初心者さんはこれをよく使ってるよ。振り方とかも結構わかりやすいし、なによりRPGといったらこれだからね」


 どうやらメイのイチオシは片手直剣のようだ。

 まぁとくに武器にこだわってるわけでもない。イチオシしてくれるのだったらこれにしようか。


「それではこれに……」


 1つの武器が目に入る。


「……あの、刀ってどうなんですか?」

「んえ?刀?」


 ワタシからその単語が出るとは思ってなかったのかメイは驚いたようにこっちを向く。


「刀は無理だね。スキルを取るのに条件があるの」

「条件……」

「そそ、えーっと俊敏値AGI器用さDEXが500以上だから大体Lv.50ぐらいかな?」

「……そうですか」


 それを聞いたワタシは店主の方に向かう。

 ワタシが近づくとこちらに気づいたのか目が合う。


「何の用で?」

「これ売ってほしいんですけど」


 一本の片手直剣を差し出す。


「……150Gゴールド

「はい」


 所持金のところからちょうど150Gを取りだし、差し伸べられた手の上にそれらを置く。


「……まいど」


 そういうと店主はまたワタシから目を離す。

 剣を手に持ちその刀身を見る。

 直線的な胴体にきらきらと金属光沢がある。本当にこの店とは合わないなと思いながらも腰のベルトに剣をつける。

 重量はあるがそれほど重くないな。

 剣とは鉄の棒である。現実において重量はとてつもなく重い。そんなものを一般人に渡しても違和感しかなく戦えない。だから軽量化されているのだろう。

 

「お、片手直剣にしたんだ」

 

 ワタシの様子を見て寄ってきたであろうメイが話しかけてくる。

 その手にはナイフのようなものが握られている。魔法使いと言えども近接対策とかで使うのだろうか。


「まぁおすすめされたんで」

「ふーん……そういえば刀はどうしたの?」

「持ってても仕方ないじゃないですか。お金にも限度がありますし。武器以外にも買うものとかあるんでしょう?」

「そうだねぇ……ポーションとか色々買うものはあるよ」

 

 ポーション……液状の薬のことをそう呼ぶと覚えてる。

 戦闘に補正がかかるとかそういう感じなのだろうか。


「ま!武器も買ったし!ここ出ようよ」

「確かにもう用事ありませんしそうしますか」


 メイが先に武器屋を出る。


 それについて行くように店の出口に歩を進めるが1つの武器に目が留まる。


 結局あれを選ばなかった。


 だが、なぜかここで縁が切れるとは到底思えなかった。

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