第3話 無知、すなわち罪
「私はメイ。魔法使いやってるんだ」
目の前の少女……メイはそう言いながらどこからか杖を取り出す。
「それでどうしてあんな奇怪な動きしてたの?」
「え……ワタシそんな奇妙な動きしてました?」
「そりゃあ奇妙すぎて赤の他人でも話しかけたくなるぐらい」
「そんなにですか……」
頭の中で色々考えてたからどんな動きしてたのか覚えてない。動きはワタシの意志ではなくて勝手に出たのだろうか。……というか赤の他人が話しかけたくなるぐらいって相当だな。
「……また無視とかしないでね?」
「はい?」
……あぁそういえばなんでそんな動きをしていたのか聞かれてたんだったっけ。動きのことで少し頭の中から抜けていた。
「えぇとですね。ワタシ実は初心者なんですけど」
「知ってる」
「あ、そうですか……」
そんなわかりやすかったんだ、ワタシ。
「まあそれでこれから何をすればいいのかわからなくてですね」
「RPGなんだから役職に合った武器を選ぶに決まってるでしょぉ」
「決まってるって言ったってワタシ初心者なんですよ?」
「?だから知ってるって。でも武器選びが必須なことぐらい知ってるでしょ?」
「んん?」
言ってることが矛盾しているように感じ思わず首を傾げてしまう。それは相手側の同じようでワタシと同じように首を傾げた。
なにか認識に齟齬があるような気がする。
するとメイは何かに気づいたようで徐々に顔を驚愕に染めていく。
「ん?え……君まさか
ワタシはRPG……というか
「君よく初心者でこのゲームやろうと思ったね……」
「はい、伯母にプレゼントされたので」
「よりによってこれプレゼントしちゃうかぁ……」
呆れが浮かぶ顔をメイは手で押さえる。
なにか問題でもあったのだろうか。だがゲームだし、何かを事前に習うなどはしなくてもいいはずだ。
「で、君これからどうすんの?」
「え?そりゃあ言われた通り武器を買おうかなと」
「どこで買うかとか、どんなのを選べばいいのかとか大丈夫?」
「……スッ」
「目逸らすなぁ!」
初心者だから知るわけないだろう?さっきから言っているけど。……まぁ考えてなかったことは否めない。本当にどうしようか。
ふと目の前をみるとメイが何か悩んでいるようにうつむいている。何を考えているのだろうか。
「ぬー……しょうがない」
「ショウガがないんですか」
「何言ってんの君」
ワタシが悩んでるのを一瞥したメイはため息をつきながらこちらを見据える。
「付き合ってあげるよ。武器選び」
目を見開く。
武器選びを手伝ってくれるとのこと。正直ありがたい申し出ではある。さっきから思っている通りワタシは武器の性質とかは
「いいんですか?ワタシとあなたって今知り合ったばかりじゃないですか」
「そうだけど純正初心者をここで放っておくのは気分が悪いでしょ」
純正……?初心者に純粋とか不純とかあるのだろうか。
初心者を放っておけないというのは心情的なことなのだろうか。そんなこと思ったことがないからわからないな。
「で、どうするかね?」
「……お願いします」
「よし来た。それじゃついてきて。おすすめの店の場所教えてあげる」
答えに満足したのかメイはパッと笑顔を顔に浮かべそのまま通りの方を歩き始める。
武器か……。
あれはあるのだろうか。
――――
「ここだよ~!」
噴水広場(?)から歩いて数分、連れてこられたのは街のど真ん中にあるレンガ造りの建物だった。
武器屋の定番は知らないが外見はすこし中世によっているし、看板も古臭いような気がする。
てっきり噴水広場に行くまでの道中であった屋台のような店に行くと思っていたのだがどうやら違ったようだ。
「ここがこの街で私が知るかぎり一番性能のいい武器を売ってくれるお店」
性能がいい武器。
「……ここはどの種類の武器が売ってあるんですか?」
「えーっとね……剣とかぁ、弓とかぁ、ナイフとかぁ……色々」
「なんか適当じゃありません?」
本当に信用していいのだろうか。
いや今は信頼できる人、相談できる人はこの人しかいないからそんなことは気にしないで行こう。
「まぁ中入ってから考えればいいじゃん!細かいこと考えると将来後悔するよぉ?」
「細かいことじゃなくて結構重要だと思うんですけど……まぁいいです。いきましょう」
「あぁちょい待ち」
「……なんでしょう」
少し呆れながらも店の中に入ろうとするとメイに止められる。
店の中に入る前にやることでもあるのだろうか。手洗いうがいとか……。
「名前!」
「……はい?」
「だから!な!ま!え!」
名前……?
「そういえば言ってませんでしたね」
「そうそう。相手の名前を知らないと何かと不便だからね」
それはそうだ。
メイもさっきから『君』とか『あなた』とかしか言ってない。
もっと早くに名乗るべきだったのだろう。
「ワタシは南雲楓と言います。どうぞよろしくお願いいたします」
「よし。南雲さんよろし……ってうえぇ!?ちょちょちょ!」
名前を聞いて満足そうにしたメイ。
だがその表情はみるみるうちに驚愕を浮かべるようになる。
この人情緒ジェットコースターかな?
「なにかありましたか?」
「なにかありましたかって……なんで名前の方言っちゃうの!?」
「それは名前を教えてほしいと言われたので……」
「そうじゃな……ぬああ!もう!」
ワタシ何かしてしまったのだろうか。
咎められることは一切していないつもりなのだが気に障ることでも……いやないな。さっきからワタシはコミュニケーションがほんの少し……そうほんの少しだけ足りないような喋り方をしているため余計なことは言ってないはず。
「ここゲームの世界!?ドゥーユーノウ!?」
「えぇまぁ当然じゃないですか?」
「なら!ここでいう名前はニックネームのこと!わかる!?」
「……ニックネームとは?」
「君そこまで初心者なの!?メイさん信じられないんだけど!?」
そこまで珍しい存在なのだろうか。
「ニックネーム!ゲーム始める前に設定したでしょ?ここではそれを主に使うの!」
「そういうものなのですか?」
「そういうものなの!」
「本名じゃダメなんですか?」
「ダメに決まってるでしょ――!」
目の前で荒れ狂うメイ。
今のメイはさっきのワタシと負けず劣らずの奇行を晒しているのではないのだろうか。
とはいえ気になることを言われたため指摘しない。
……ニックネームか。
そういえばニックネーム何を設定したっけ。
「はい!それじゃあ改めて!名前プリーズ!」
「……確か」
なんてすればいいか分からなかったから……。
「カエデです」
「……えぇ」
すっごい微妙な顔された。
ニックネームを言ったんだが……。
「カエデって……下の名前まんまじゃん」
「いやなんて付ければいいか分かんなくて」
「……まぁ苗字付きよりかはマシか。よろしくカエデちゃん」
どこか吹っ切れたように手を差し伸べしてくる。
握手か……まぁして損はないか。
そう思いメイの手を握ろうとする。
――いらない。
「ッ……」
自分の手に違和感を感じ、反射的に握ろうとする手を止めてしまった。
「あえ?どうしたの?」
その様子を見たメイがワタシの顔を覗いてくる。
ハッとして急いでメイの方を向きなおす。
「いえなんでもありません。よろしくお願いします」
「うん!よろよろー!そんじゃ中に入ろうか!」
ワタシは手を握り返し、メイの後に続いてく。
だがその手に力など入っていなかった。
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