心残り

ドアを開け靴を雑に脱ぎ菜花がいる部屋へと急ぐ

部屋の前で一度深呼吸をして起こさないように静かにドアを開ける

少し耳を澄ませるとスース―と言う寝息が聞こえるのを確認して私はドアを閉める


私はキッチンに行き何か夜食でも作ろうかと冷蔵庫を開ける

「..........」ものすごい腐敗臭が鼻に突き抜ける

バタン

見なかったことにしよう


「はぁ食料も買わないとな.....」そうつぶやいた瞬間スマホに電話が入る

相手は....

会社の上司だった

電話に出るなり

「今から会社に来い!」と言われて電話を切られる


私は机の上に書置を残しスーツに着替えて会社へと向かう


会社に着くと明け方だというのにすでに多くの人が忙しそうに働いていた

上司は俺を見つけるなり

「なにポツンと立ってんだ!早く仕事に迎え!」と怒鳴ってくる


私は自分のデスクに向かい仕事を始める


数時間たっただろうか一向に仕事が終わる気配がしない

カタカタカタと言うキーボードを打つ音だけしか頭に入ってこない

すると突然何か冷たいものが当たる

「ひゃ!?」

後ろを振り返ると同期である崎口紀久さきぐちきくが私の首筋に缶コーヒーを当てていた

「これやるから頑張れよ」と言って私に缶コーヒーを渡してくる

「ああ....うんありがとう」と疲れ切った声で感謝をして再び仕事へと戻る


ようやく仕事が一段落して私は食べるにしては微妙な時間帯に屋上で食事をとっていた

近くで適当に買ったメロンパンを口に入れる

なぜか味がしない

どれだけ噛んでも飲み込んでも味がしない

メロンパンの味も砂糖も小麦の味も何もしない

まるで砂か何かをたべているようだ

先ほど貰ったコーヒーを飲んでみる

やはり味がしない

合わせて食べてみる

まったく味がしない


私はどうなってしまったのだろうか

食べかけのパンを持って屋上を後にしようとするといきなりドアが開き紀久が入ってくる

「おっすまだ食事中か?」

「いや....仕事に戻ろうかと」

「食いかけのパンを持ってか?」

言葉に詰まる

どう返すのが正解なのだろうか....

そう悩んでいるといきなり彼女に腰を叩かれる

「~~~~ッ!?」

「あはは....悪い力強すぎたな」

普通に折れるかと思った......


私の顔を見て紀久はふぅと息を吐き

私の気持ちを見透かしたように「心残りがあるんだったら早めに無くしておいた方がいいんじゃねえか?」と言ってくる


心残り....

私の心残り

目を閉じると菜花の顔が浮かぶ

私は覚悟を決める

「私はこの会社を辞める」

そう口にしてさらに覚悟を固める

「悪いけど代わりに伝えておいてくれ」そう言い残して私は急いで屋上を出る


自分のデスクに戻り荷物を回収して会社を出る

上司が何かを言っていたが私の耳には入らない

私は菜花の下へと急いで向かうのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拾った子供がヤンデレになって互いに共依存していくお話 ルイ @ruisyousetu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ