第十二話


「死ねええぇぇえええええ!!!!」



紫色の魔力を纏った兵士が“魔法”を放ち、人間たちをなぶり殺していく。



「お前!! 何をして



パアァァァン!!!!!



上官であろう兵士が消し飛ばされた。


たった1発の裏拳でだ。


一瞬で消しているのは恐らく“魔法”の力だろう。




ここは森のすぐ側にある平地。


今まさに、冒険者や侯爵軍が“偽ヤマト”内に格納されていた兵器たちが戦っている。




「強襲用無人戦闘システム...」




ヤマトはデフォルトで“惑星級”だ。



現役でずっと使ってた時はほぼ体で突っ込む脳筋スタイルだった。


敵陣に突っ込んで行って、周りに弾幕を張ることで、ヤマトが通った後は全てが無と化していくのだ。



しかし、ヤマト自身の持つ砲や魚雷では太刀打ちが出来なくなっていってしまった。



そんな時に開発したのがこのシステムだ。



ヤマトにはアルファが積まれている。


アルファの本体であるコアが積まれているということだ。

つまり、アルファは俺と兵器を繋ぐ架け橋となっているのだ。



俺はそのアルファを使うことが出来る戦い方を考えた。

アルファを“機械の王”として戦わせることを。




無人陸戦型戦車 ハリ一式mk5


四方3mの、キャタピラに2門の魔力機関砲、

煙幕装置に原初の火薬グレネードランチャーを装備した、白兵戦にはもってこいの戦車だ。



ただの一式もあるが、そいつは三門の魔力機関砲のみ搭載していた。


最初は大型目標殲滅向けで作ったやつだからな。


白兵戦となると機関銃だけでは、伏兵を殲滅出来ないからだ。



ちなみにmk5というのは、軽量化や出力増強を施した時に、旧式と新式を区別するためにつけたコードだ。





まあ、そんなハイテク技術にまだ発展途上の軍事技術では到底勝てるはずもない。



エンジンの駆動音がそこらじゅうに鳴り響き、魔法を蹴散らしている。





しかし、今はハリしか出てきてないな。


ヤマトの内蔵兵器とハリ以外はコピーしきれていないとかだろうか?


それにやろうと思えばヤマトはこのくらいの人間なんて一瞬で消すことが出来る。



よくわからないな。



今のヤマトもこの世界の人間たちにとっては、太刀打ちできない災害のようなものだろう。



「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」




そんな絶望的な戦いの中で紫色の狂人が暴れだした。


叫びながら人間も兵器もお構い無しに木っ端微塵にしている。




唯一、人間の中で兵器たちを破壊できているのはあの“十強”のやつらしいな。




確か“アズ”とかいう名前だったはずだ。



「アルファ、煌聖からの映像を」



『軌道上c地点から400mの場所に煌聖3を移動させます』



「俺はあの暴れてるやつを止めに行く。ゴリアテのエネルギー充填率は確か30%だったか?」



『その通りです。移動が完了したため画像を映し出します』




俺の目の前にホログラムの巨大な画面が現れた。



ふむ。



北の上空に偽大和があって、侯爵領はその真下。


軍は北に広がって進軍しているな。


森は東の方一面に広がっている。



とりあえず偽ヤマトを潰すか。


暴れているやつはアズとやらが何とかしてくれるだろう。



「“白魔素”ではあの偽ヤマトは破壊できない」



あの“闇”の魔力は密度非常に高い。



「“赤魔素”でもう1回充填し直せ。70%だ」



『魔力回路を削除。魔素をコアへ戻します』



「人間たちには被害が及ばないよう俺が誘導する」



『了解』


俺のこれからの平穏な人生を荒らされてたまるか。



「準備が出来たら知らせろ。外すなよ?」



『命令を遂行します』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



金髪のミディアムヘアをハーフアップにした髪型。


白と金の身軽な鎧。


この一つで弱小国家1つ分位の財産はある。



さらけ出された胸元は、白金の胸当てに押し上げられていて、視線を集中させる。


右手に握りしめる白銀の剣を美しく繰り出す姿は、“戦神”とは程遠い。




「聖魔術ホーリーウィンドウ!!!」




そう彼女が唱えると同時に、1km先の無数の兵器達がバラバラになった。



「いけるっ、いけるぞぉぉぉぉ!!!」


「“戦神”がいればこっちのもんだあああ!!!」


「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」



至る所で光と、爆発と、悲鳴と、歓声が響き渡る。



(あんなのどうしろって言うのよ)



アズは大きすぎる敵を見上げる。


絶えず雷が鳴る紫の空に佇む空島。


そこから絶えず放たれる様々な攻撃は、地を抉り生命を消し去る。



「伝令! 第2防衛戦で1人の兵士が暴走し仲間の兵士や冒険者を殺しています! 至急援軍を!」



伝令兵が息を切らしながら、今は亡き上官に託された命令を遂行する。



「わかったわ、ありがとう。ここまで険しい道だったでしょう?」



「っ、はッ!」



伝令兵は目を擦って、涙を溢れてきた涙を拭いた。



(魔人化ね)



「あそこの天幕が空いてるわ。ゆっくり休んで」



「失礼します!」



アズは顎に手を当て考える。



(魔王の襲来なんだからそりゃ魔人は出るでしょうね)



アズは聖魔術を得意とする。


それは治癒に最も効果がある魔法である。


このことも相まって、戦いも得意としているアズは陣の内部から遠距離魔術を放つことしか出来なかった。



(でも魔人化させるに魔王の手先が直接手を下す必要がある。なら、既にこの戦場にその“手先”がいるはず)



「あーあ、酷い目にあったわぁ」




アズは後ろを即座に後ろを振り返る。


後ろにいた兵士たちは首が飛び死体の山と化していた。


先程の伝令兵も頭が潰されて息絶えている。



「やっぱりっ...!!!」



「おっと、させませんよぉ」



アズが魔法を放とうとした瞬間。


目の前に紫色の魔力を纏った兵士が空から勢いよく地面に着地し、腕をアズに振りかざす。



「くっ」



アズは勢いよく後ろに飛び退き、右手の剣を同時に正面に構えた。



その瞬間、ものすごい風圧が戦場を駆け抜け、地面がえぐれた。



「コロス、ゼンブ」



「こいつがその魔人ね」



充血した紫色の目。


胴体と比べて、腕は異常に筋肉が発達している。


鎧は肩からは外れていて、鎧は無骨な胸当てのみとなっている。




「貴方はこのくらいの雑魚では歯が立たないことくらいわかっていますよぉ、戦神アズ」



「魔豪ディアトロフィ!!」



レオの中ではただの骸骨と認識されているディアトロフィは、“普通の”人間からしたら、魔王の次に恐れるべき者と言っていいいだろう。



「アズッ!! 大丈夫か!」



アズの左側に、空から氷の剣士が降りてくる。



「カレラ!」



スタッとカレラが着地すると同時に言う。


「あいつがここにいるということは間違いないようだな」



アズがカレラが先にディアトロフィと相対していた事に驚く。



「どういうこと?」


「さっきまで私はレッドドラゴンキングと戦っていたんだ」



「ええっ!? まさか倒したの?」


「いいや、白色のコートを着た何者かによって倒された。私は最期の一線を使っても倒せなかったよ」



アズが息を飲む。



「カレラ、あなたっ」


「いいんだ、私は私の持てる力を全て使って戦えた」



アズが剣をさやに収めてカレラを抱きしめた。


しばらくの間超絶美人と超絶美人が抱きしめあっているのを、ディアトロフィは眺めていた。



「私にも皮膚と肉があれば、あんな風に痛みを分かち合えたのでしょうねえ」


同時にディアトロフィの周りに闇の魔力が渦巻いていく。



カレラとアズがお互いを離し、抜剣する。



「忌々しい、下等生物の分際でぇぇぇ!!!!」



「来るわよ!!」


「ああ!詳しいことは後で話す!」



「全てを踏み躙りなさい!!!」



ディアトロフィが右手を掲げ、左手にある杖で暴走していた兵士に魔法をかける。



「闇魔法サモン・タイタン!!!」



元々濃い紫色だった魔力がより濃くなり始め、ディアトロフィの右手に集まる。


そして杖が魔法陣を形成し、暴走していた兵士がその大量の魔力を吸収して行った。



「ぐああああああああああああぁぁぁ!!!!!」



兵士は苦しみもがく。


だがディアトロフィはやめようとはしない。


彼女に取ってはただの武器だから。



兵士は巨大化し始めた。


闇の魔力が鎧の様にその巨大な体を覆っていく。


足先から出来ていき、服が破れる頃には肩まで鎧が出来上がっていた。




最終的に大きさは全高500mに達する巨人が出来上がった。


頭は、最小限の視界しか確保できない縦穴から覗くものが覆い、完全な闇の鎧騎士となった。



「グアアアアアアアアアアア!!!!」



もはや魔物と言って良いと思われるその怪物は1歩を踏み出した。



アズとカレラは絶句する。

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