第六,五話

ん?なんだあれは。


小さな女の子が投げ飛ばされてるぞ。

俺は風でクッションを作り出し優しくその子を受け止める。


髪の毛は金髪で目は閉じてて分からない。気を失っているのだろう。


「スンスン」


めっちゃいい匂いするぞ。


シロとクロもいい匂いだけどこの子はもっと高級な香水の香りがする。


今度似たようなの仕入れようか。


体の経過年数を見ると大体10歳だから俺とほとんど同い年だ。


今は違うけど。


地面に降りよう。



それにしても豪華すぎる服だな。


とりあえず青色のキラキラしたドレスだとしか言いようがない。


絶対に貴族だ。


地面に降りると俺は簡易テントを作り出し中に入って少女をベットに寝かせる。



「さて、どうしようか」



普段独り言をしない俺でもこれは出る。


貴族を誘拐してることにならないかこれ?

児童保護センターとかに預けるんだろうか。



そういえば深層から飛んできたな。


俺は大型の救護テントを作り出し数多くあるベットの中の一つに少女を寝かせた。


俺は空を飛び少女が飛ばされてきた方向に向かった。



「案の定酷い有様だな...」



だんだんその惨状が目に入ってくる。


木々が燃え上がりそのぐちゃぐちゃになった跡をユラユラと照らしている。


もう少し早く来ていれば助けられたかもしれない。


豪華な馬車は踏み潰され、兵士や騎士、騎馬やメイドなど生きていた者たちは全員潰されるか燃やされている。


燃えて更地となった中心で、巨大な羽を持つ赤色のトカゲのような生き物が死体を貪っていた。


「ドラゴン?」


赤色なので最上級のレッドドラゴンだろう。


赤すぎる炎をまとい、死者を貪っている。

大きさは大体10mというところか。


首には鉄の首輪が付いていて、それには紫色の魔脈が刻まれている。


「ガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


ドラゴンが咆哮をあげると、同時に羽ばたいて上昇し俺が来た方に超高速で向かう。


飛んだと言うより体を炎にして瞬間移動したと言うべきか。


俺のことは無視するのか。


良いだろう、その長い首を切り裂いてやる。


神戒を作り出しかっこよく振るった。


『ブウウウゥゥゥゥン』


風圧が強すぎて木が何本か根元から折れてしまった。


急ごう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私はカレラ・リーヴァ。


元は伯爵家の出で、今は皇国十強にも入り最上級冒険者をしている。


お嬢には私に助けを求められるよう、魔道具を渡していた。


いつまでもお嬢の傍にいられる訳ではないからな。


渡してから私を呼ぶほどの事は今まで起こらなかった。


心のどこかで思っていたのだろう。


この平和な生活が永遠に続くと。


でも生きている限り終わりは来る。


来てしまうのだ。




「はああああああッ!!!」


氷を纏った斬撃をいくつも放つがその炎で全て昇華し、役に立たない。


「カレラッ!」


「お嬢下がって!!!」


近づこうにも熱すぎてこちらが燃えてしまう。


体を氷魔力で覆っても防ぎきれない炎の魔力の密度の高さが伺える。


ドラゴンが炎の斬撃を爪から放ち、急接近してくる。


その巨体に見合わない速さだ。


「お嬢捕まってください!!」


「きゃあああああああ」


私はお嬢を抱きしめ横に回避し、氷の槍をあいつに何十とぶつける。


ああいい匂い。


綺麗なお嬢の髪の毛が私の顔に覆い被さった。


これが私の生きる原動力になる。


あいつは恐らくレッドドラゴンキング。


最上級を超えた厄災級に分類される。


ここ数十年は目撃されなかったはずなのにどうして?


「なッッ!!??」


戦いに油断は禁物。


一瞬の隙にドラゴンに迫られてしまいお嬢が私の腕からするりと抜ける。


お嬢のスカートがめくれた。


ああ、今日は水色か。


私は爪を胸と左の脇腹にくらい、数十メートル飛ばされた。


「かはッ」


血がドクドクと流れる。


私は所詮第9席。


勝てる相手では無かった。


相手は最上級を超える厄災級なのだから。


お嬢が隣で気を失っている。


「すみませんでした、お嬢」


私は残る力と魔力と意識を振り絞って魔術を発動する。


「氷海」


私とお嬢の周りがどんどん凍ってゆく。


これは範囲を指定してその部分の全てを凍らすことが出来るが所詮あいつにとっては足止め。


10歳のお嬢は今日光の祠で特級の精霊と契約なさった。


未来あるお嬢を死なせる訳には行けない。


氷の特級精霊、レイを呼び出す。


『あなたは最後まで戦うのね』


「当たり前だッ!」


私の剣にレイが宿る。


精霊は現世において命は無限。


いくらでも祠の先の異界で蘇ることが出来る。


しかし精霊が死ぬか契約者が死ぬと契約の繋がりは無くなる。


「『はあああああああああぁぁぁぁ!!』」


私達は剣と体に全ての魔力を注ぎ込み始めた。


これは精霊の全力を宿した“最後の一線”という“魔法”。


精霊の全力に耐えられなかった人間の体は崩れ死に至る。


最後の最期にしか使えない。



剣は氷に包まれ白い霧が森林を覆い始めた。


私は目を閉じ今までに思いを馳せる。




『「絶対零度-オーバーロード!!!」』


剣を横凪に振るう。もう傷の痛みは感じない。


ドラゴンが冷気に負けじとブレスを構える。


「ガアアアアアアアアアアアアアァ!!!!」


炎と氷の光線がぶつかり辺りを吹き飛ばす。


空中に氷の橋を作り出して、剣で炎のブレスを切り裂き凍らせながら突き進む。


全身が悲鳴をあげる。


でもどうせ終わる命だ。


この一撃に全てを賭けるんだ。


ついに首まで達したと同時に一回転し、体と辺りの魔力を凝縮させて剣に纏わせる。


「『ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』」


レイと私がひとつになって突き進む。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」



蒼と紅の閃光が世界を埋め尽くした。



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