第六話


あれから俺は時々光の祠に遊びに来てる。


あの時イーリスが裸になって帰ってきた時クロとシロがものすごい形相で俺を睨んで来た。


「ゴシュジンサマガウワキシタ!?」


「アノセイレイノセイデゴシュジンサマガヘンタイニ...!? ソレハソレデアリカモ?」


何言ってるのか聞こえないのが余計怖い。


ちなみにイーリスは俺の前だとタメ口、他の


精霊達の前やクロシロの前だと敬語に戻る。


見下されてるのかこれは?


まあそんなことは置いといて。


イーリスから聞いた事で、ひとつ気になることがあったのだ。


それは、魔法と魔術の違い。


魔法は精霊王であるイーリスや精霊神と呼ばれる世界の創造者など、世界の法を操るに等しい器を持つものにしか扱えないというもの。


「あなたにこの力を与えたのはこの世界にとって最悪もいいところよ」


「そんなに言わなくたっていいだろ...」


イーリスがツンツンしてる。


今のところデレはほとんどない。


現在この惑星で魔法を使えるのはほんのひと握りの人間や亜種人類、魔物が使えるそうだ。


人間と言っても皇国の皇族や他の王国の王族、1部の卓越した軍人や冒険者などに限られる。


普通、“魔法”は惑星単位で起こせるが、魔力が足りなくて魔術と魔法の真ん中位のものしか使えるものがいないという。


確実に魔術の域は超えているので魔法と呼んでいるだけらしいが。


俺も魔物は魔法は使えると文献で見た。


しかしそれは過去発生した魔力暴走による厄災級の魔物が扱ったところしか観測されていないとイーリスは言っていた。


魔力暴走も厄災級の魔物も気になるが、俺はひとつ気がついたのだ。



そう。



俺は魔物を今のところ1度も見た事がない。


前世では魔物なんて居なかった。


なので今侯爵家領内にある巨大な森林に来ている。森の名前は忘れた。


現在、魔物をこの目で見るために、今1人で森を徘徊している最中だ。


ここに来るためにわざわざ冒険者ギルドに登録もしてきたのだ。


みんな俺を見て震え上がってたな。


ちなみにあのハゲと取り巻きはいなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


冒険者とは。


傭兵とも軍人とも違う、完全に独立した武装集団というのがいいだろう。


所謂何でも屋というやつで、各地から集められる依頼を好きに選び、それを達成したことで得られる魔物の素材や依頼者からの依頼料の一部を貰って稼ぐ。


比較的稼ぎやすいし、高ランクになればなるほど稼げる。


ランクというのは冒険者としての強さと依頼の難易度をまとめたもので、どちらも一方に比例している。


ランク分けは10級から1級と特級、その上に最上級と続く。


それ以上の強さを持ったものたちは住んでいる国のお抱え戦力となり、そいつらの呼び名は国ごとに違う。


階級的には“最上級”だけどな。


例えば今俺がいる皇国だと‘’皇国十強‘’と呼ばれるものたちがいる。


戦ってみたい。


そいつらの魔法がどんなのか研究したいな。


考え事をしていると、1匹の兎が動物の死体を貪っているところに遭遇した。


「ムチャムチャムチャグチャグチャブシュ」


辺りに血が飛び散る。


血なんて前世でいくらでも見たからな、へっちゃっ、うっ、


「おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


ぼとぼとぼとぼと。


朝食べたスクランブルエッグが出てくる。


俺がキラキラを吐いたのと同時に兎がこちらを振り向いた。


大きさは普通のうさぎが一回りムキムキになって大きくなったような感じだ。


名前は確かホーンラビット。


特徴的なのはおでこに生えている1本の角。


そいつの全長の半分はあろうそのでかい角で人間や動物を襲って穴を開ける。


ホーンラビットが風をまとい始めた。


ホーンラビットがその強靭な足で地を蹴り急加速する。


明らかに尋常ではないそのスピードはホーンラビットが持つ魔石が風の9級魔石から発生した魔術である。


魔物は人類が持つ体内の魔脈とは違い、“魔石”と呼ばれる臓器に生成される魔脈で魔術を放つ。


魔物がレベル分けされるのは主にこれが原因だ。


ドラゴンとかの魔石は非常に大きく、そこにある魔脈が特級らしい。


よってドラゴン種は“特級”に分類されるという感じだ。


ホーンラビットが俺に襲いかかる。


「ギャッ!!」


思い切りあたまを突き出すが残念ながら俺はもうそこにはいない。


ホーンラビットの真後ろに立った俺は右手をそいつに向ける。


「グシャ」


瞬間、哀れな獣は細切れとなった。大体玉ねぎのみじん切りと同じくらいにカットしてやったがやっぱグロい。


今のは魔力を極限まで細く均等に並べた線を無数に作りだし


ドオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォン!!!


森の遥遠いところで赤い爆炎が上がった。


あそこは大体“深層”の部分だな。


上級の冒険者が戦っているのだろう。


気になるが俺はまだ10級。


いきなり1級の魔物がいるところに行ったことがバレたら酷い罰が待っているに違いない。


登録の時に受付嬢さんが怖い形相をして脅してきた。


それも冒険者の命を守るためだろう。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!』





やっぱり気になるし行こう。

魔法を使う魔物かもしれないしな。


黒色の粒子が俺を覆う。


俺は年齢を18歳に設定し、GF-MK20にフォームチェンジする。


魔素回路が俺の左目と左腕を黒に染めた。


鏡を作り出し自分の姿を見る。


万が一の正体がバレないようにと思ってお面とか作ってたが、そもそも年齢違うしこのままでいいかも。


子供が深層に入ったと情報が渡れば間違いなく俺が疑われるだろう。


10歳前後の子供たちも登録しているが全員民家の手伝いらしいからな。罰なんて受けたくない。


「魔素出力0,0001%」


決して舐めている訳では無い。


だけど魔素って結構危ないのだ。


平気でなんでも消すからな。


コートが俺の声に反応したように黒く光る粒子を放出させ始めた。


俺はその場で浮上し、音速を超えて空を飛ぶ。


さすがに現実で光速出したら辺りが吹き飛んでしまうので速度制限だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「クッ、強すぎる!」


「ここは引くのだ!我々で勝てる相手では『ザシュッッ』


巨大な赤い怪物が尻尾を振る。


何人もの人間が真っ二つに割かれ悲鳴や怒号が行き交う。


「うああああああ!!」


「隊長!!」


「隊長がやられた!?」


「引けぇ!!、引けぇ!!!」


辺りが血に染まり怪物から放出した炎の魔力に当てられて死体が激しく燃え盛る。


深い赤色の瞳に2つの大きすぎる巨大な翼。


全身が赤く光る硬い鱗におおわれ、傷だらけの顔はまるで弱者をいたぶって楽しんでいるように見える。


顎から生えている巨大な牙に魔力を貯める。


「皆様逃げてください!」


1人の少女がとても豪華な馬車から降りてくる。


「お嬢様、出ては行けません!」


中にいた数人のメイド達が引き止める。


「お嬢様を置いていくなど出来るわけがありません!この杖を持ってお逃げ下さい。きっとあの方が助けてくれるはずです!」


兵士が手のひらサイズの木の棒を少女に手渡す。


「嫌です!私も残って「失礼!」


1人の兵士が風魔術で少女を投げ飛ばす。


「いやあああああああああああぁぁぁ!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ん?なんだあれは。


小さな女の子が投げ飛ばされてるぞ。

俺は風でクッションを作り出し優しくその子を受け止める。


髪の毛は金髪で目は閉じてて分からない。気を失っているのだろう。


「スンスン」


めっちゃいい匂いするぞ。


シロとクロもいい匂いだけどこの子はもっと高級な香水の香りがする。


今度似たようなの仕入れようか。


体の経過年数を見ると大体10歳だから俺とほとんど同い年だ。


今は違うけど。


地面に降りよう。


それにしても豪華すぎる服だな。


とりあえず青色のキラキラしたドレスだとしか言いようがない。


絶対に貴族だ。


地面に降りると俺は簡易テントを作り出し中に入って少女をベットに寝かせる。


「さて、どうしようか」


普段独り言をしない俺でもこれは出る。


貴族を誘拐してることにならないかこれ?

児童保護センターとかに預けるんだろうか。


そういえば深層から飛んできたな。


俺は大型の救護テントを作り出し数多くあるベットの中の一つに少女を寝かせた。


深層の様子を見てこなければ。


俺はまた空を飛んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「んぅ、ここは...?」


少女は目を覚ますと体を起こし辺りを見回す。


「っそうだ!みんなは!?」


少女は手にした杖を握りしめてテントの外に出る。


「そんなっ、みんな...ううっ、ぐすっ」


少女は自分のために命を落とした護衛やメイドたちのことを思い浮かべる。


「そうだ!この杖を使わなきゃ!みんなが死んじゃう」


杖に魔力を込める。瞬間、杖が眩い光を放ち空に光の柱を立てる。


「お願い!カレラ様、助けに来てください!」





氷の魔力を纏う騎士が剣に手をかける。


「誰だ私のお嬢を危険な目似合わせているのは?」


莫大な冷気の魔力が自室を満たす。


「殺す」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


案の定酷い有様だな、もう少し早く来ていれば助けられたかもしれないが。


豪華な馬車は踏み潰され、兵士や騎士、騎馬やメイドなど生きていた者たちは全員潰されるか燃やされている。


ドラゴン。


赤色なので最上級のレッドドラゴンだろう。


赤すぎる炎をまとい、死者を貪っている。

大きさは大体10mというところか。


首には鉄の首輪が付いていて、それには紫色の魔脈が刻まれている。


「ガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ」


ドラゴンが咆哮をあげると、同時に羽ばたいて上昇し俺が来た方に超高速で向かう。


飛んだと言うより体を炎にして瞬間移動したと言うべきか。


俺のことは無視かよ。


良いだろうその長い首を切り裂いてやる。


神戒を作り出しかっこよく振るった。


『ブウウウゥゥゥゥン』


風圧が強すぎて木が何本か根元から折れてしまった。


急がなければ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私はカレラ・リーヴァ。


元は伯爵家の出で、今は皇国十強にも入り最上級冒険者をしている。


現在お嬢様が聞きに陥っているということで、急遽休暇を投げ捨てて走ってきたが相手が強すぎる。


相手は最上級を上回る厄災級なのだから。


「はああああああッ!!!」


氷を纏った斬撃をいくつも放つがその炎で全て昇華し、役に立たない。


「カレラッ!」


「お嬢下がって!!!」


近づこうにも熱すぎてこちらが燃えてしまう。


体を氷魔力で覆っても防ぎきれない炎の魔力の密度の高さが伺える。


ドラゴンが炎の斬撃を爪から放ち、急接近してくる。


その巨体に見合わない速さだ。


「お嬢捕まってください!!」


「きゃあああああああ」


私はお嬢を抱きしめ横に回避し、氷の槍をあいつに何十とぶつける。


ああいい匂い。


綺麗なお嬢の髪の毛が私の顔に覆い被さる。


これが私の生きる原動力になるのだ。


あいつは恐らくレッドドラゴンキング。


最上級を超えた厄災級に分類される。


ここ数十年は目撃されなかったはずなのにどうして?


「なッッ!!??」


戦いに油断は禁物。


一瞬の隙にドラゴンに迫られてしまいお嬢が私の腕からするりと抜ける。


お嬢のスカートがめくれる。


ああ、今日は水色か。


私は爪を胸と左の脇腹にくらい、数十メートル飛ばされた。


「かはッ」


血がドクドクと流れる。


私は所詮第9席。


勝てる相手では無かった。


お嬢が隣で気を失っている。


「すみませんでした、お嬢」


私は残る力と魔力と意識を振り絞って魔術を発動する。


「氷海」


私とお嬢の周りがどんどん凍ってゆく。


これは範囲を指定してその部分の全てを凍らすことが出来るが所詮あいつにとっては足止め。


10歳のお嬢は今日光の祠で特級の精霊と契約なさった。


未来あるお嬢を死なせる訳には行けない。


氷の特級精霊、レイを呼び出す。


『あなたは最後まで戦うのね』


「当たり前だッ!」


私の剣にレイが宿る。


精霊は現世において命は無限。


いくらでも祠の先の異界で蘇ることが出来る。


しかし精霊が死ぬか契約者が死ぬと契約の繋がりは無くなる。


「『はあああああああああぁぁぁぁ!!』」


これは精霊の全力を宿した“最後の一線”という魔術。


精霊の全力に耐えられなかった人間の体は崩れ死に至る。


最後の最期にしか使えない。


『「絶対零度-オーバーロード!!!」』


剣を横凪に振るう。もう傷の痛みは感じない。


ドラゴンが冷気に負けじとブレスを構える。


「ガアアアアアアアアアアアアアァ!!!!」


炎と氷の光線がぶつかり辺りを吹き飛ばす。


空中に氷の橋を作り出して、剣で炎のブレスを切り裂き凍らせながら突き進む。


全身が悲鳴をあげる。


でもどうせ終わる命だ。


この一撃に全てを賭けるんだ。


ついに首まで達したと同時に一回転し、体と辺りの魔力を凝縮させて剣に纏わせる。


「『ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』」


例と私がひとつになって突き進む。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」



蒼と紅の閃光が世界を埋め尽くした。






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