第九話

“ビックバン”



今日までの全てを作り出したとされる現象。




特異点が突然膨張し初め、全てを生み出した。

宇宙全体に浸透した“ダークエネルギー”というものによって今も宇宙は膨張し続けている。


ダークエネルギーによって空間は広がり、それに伴って物体の位置も元の位置からだんだん遠ざかって行く。


この“加速膨張”の速度は光を超え、物質は決してたどりつけない。


宇宙の膨張が続けばどうなるのか。


惑星、恒星、銀河のあらゆる物質は遠ざかる。


銀河は孤立し、全ての星は燃え尽きて温度も物質密度も低下する。


何も見えない暗い世界が永遠に膨張し、何も無い空間が広がっていく“ビックフリーズ”を迎える。


そのような世界で生物は生きることは出来ない。


ではその膨張を抑えているのはなんだろうか。


答えは重力だ。


原子と原子を、粒子と粒子を結び、恒星を生み出し、星雲を生じさせ、銀河を作り出す。


全ての物質は重力を持ち、重ければ重いほどその力は増加する。


星が増えればその分重力が増し、膨張力は引っ張られて均衡が保たれるようになる。


しかし目に見える物質だけが重力を持つのはでは無い。


光を発することも、反射することも、遮ることもない謎の物質。

それを“ダークマター”と言う。


この重力を持つ謎の物質はどうやっても観測することは出来ない。


ダークマターとダークエネルギーが釣り合った、バランスが良すぎる世界に俺たちは生きているのだ。


では重力が圧倒的に優ればどうなるか。


宇宙は収縮を始め空間は狭くなっていく。


物体同士はだんだんと距離を縮めて銀河同士はぶつかり正に混沌と化すだろう。


最後には“ビッククランチ”を起こして一点に凝縮し特異点となる。


そして新たな“ビックバン”を待つのだ。


ビックバンが起これば、宇宙はまた特異点から膨張し始め、何度も収縮と膨張を繰り返す。

そうやって宇宙は何度も生まれ変わる“ビックバウンス”を起こす。


逆に膨張力が圧倒的に優ればどうなるか。


原子も素粒子も引き裂かれ、時空自体が引き裂かれてしまう“ビックグリップ”が訪れて宇宙は死にいたる。


宇宙は繊細だ。微小なエネルギーの差で生まれ変わることもあるし、永遠と世界を作り続ける死も迎える可能性がある。


俺はそんな宇宙の始まり方と終わり方を使えるようになった。


魔素という“ダークマター”を使って。


宇宙をひとつの恒星だと捉えれば造作もない。


今俺がやってるミニビッククランチもその中の一つ。







「んぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!?????」


闘技場に女の叫び声が響くが誰一人としてその声を聞くものはいない。俺を除いて。



黒色の魔素を骸骨に大量に流す。

ここで器が壊れないようにしっかり魔素で纏わせてあげるのも忘れないように。


「なんですかこの大量のエネルギーは!?!??人間がなせる技では無い!!!」


「黙れ骸骨」


俺は更に魔素を凝縮させ送り込む。今大体月の質量を超えた。


周りのあらゆるものが次々に骸骨に吸い込まれる。


骸骨の重力がこの惑星の重力を覆すほどに強くなり始めたのだ。


真っ黒に包まれ掃除機と化した骸骨は正にブラックホールと呼んでいいだろう。正確にはミニ惑星だけど。


「クソっ、こうなったら人質をっ!レアな光属性と闇属性でしたが仕方ありませんッ!??いつの間に!?」


シロとクロを取り返したことに気づいて無かったのか。馬鹿すぎるだろ。

お仕置だ「ぎゃああああああああああ!?!?」


「もう情報を吐かせる気にもならねえな、じゃあな」


かざしていた左手のひらをぎゅっと握る。




ギュウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン




骸骨が自身の内側に引きずり込まれ叫び声をあげる。


「このわたしがああああああああああああ」


元の場所にぽつんと黒い点が現れる。

骸骨が黒く眩しい光を放つ特異点となったのだ。


別に少量の魔素を込めただけのゴミなのでしっかり捨ててあげよう。


俺はその小さな玉を野球ボールくらいの大きさにして空に思い切り投げる。


「ふっ」


ドゴオオオオオオオオオ


一瞬で玉はどっか行った。


タイマーをセットしたからもうそろそろ


ビカアアアアアア


遥か遠い星の空で大爆発が起こる。

あれでも地球くらいは簡単に消滅しそうだな。


魔素を魔力に変換した時の白の輝きが煌めく。

脱出成功のお祝いとしよう。




さてと、1時間したら時間が巻きもどるとか聞こえたんだが、まだ50分くらいあるな。


魔王とやらをぶち殺してやってもいいがまずはこの世界の計測をしよう。

どうせ時間が戻るなら時間を操作できるようになればいい。


そこから俺は40分ほどかけてこの世界のデータを集めアルファに計算を全部投げた。


あと10分は成長したシロとクロの顔でも拝もう。


俺は未だに気絶している2人を入れてる大型テントに足を踏み入れた。


最初は見た時にほんとに同一人物か分からなかった。


だって15歳の体と顔じゃねえもん。


「はあ、綺麗だ」


思わずため息と褒め言葉が出るくらいだ。


美人と言うと、あいつらもそうだったな。


前世での俺の仲間は、俺以外全員女で過ごしにくさを感じていた。


あいつらは数少ない魔力適性を持ったことに責任を感じて、ずっと戦地に引きこもっていた俺をひたすら慰めてくれていた。


俺が仲間に黙って勝手に戦いに行くことがルーティーン化し、その度に俺は強くなった。


仲間達との間は広がり、俺の強さにあいつらは着いてこれず長い間別行動が続いた。


戦うのは良かった。俺の性格に合ってたから。


でも周りに人がいないのは辛かった。

まるで心の穴を埋めるかのように数々の兵器を作り出し、話し相手となるAIも作った。



あいつらはずっと言ってた。

「追いつきたい人がいるから」

「早く戦争を終わらせて好きな人と暮らしたいんだ」

「助けたい人がいるんです。この命に変えてでも」

「私一目惚れした人がいるんだ。今でもその人のことをずっと思って戦えてる」

「恋人を...守るため?」


今思えばあいつらは目的を全員が持ってた。


目的のために目標である戦争を終わらせることを目指していたんだ。


でも俺はそんなもの無かった。

戦争が生活の一部になって、戦争を終わらせることしか考えてなかった。


戦うための理由なんて“選ばれた”こと以外必要無かった。



最終局面では、俺に放たれた呪魔法をあいつらが庇って、俺を守ってくれた。


あいつらにはそれぞれに好きな人はいるはずなのに。

あいつらは命を投げ捨ててでも世界を救いたいって思ってたんだ。


1000億年の年月は俺にとって一瞬のように感じた。


思考は研ぎ澄まされ、世界のすべてがわかるような感覚があった。


俺はそこで考え続け、次元を超えた先のもう1人の自分を見ながら“目標”を立てた。


優柔不断な選択はしない。


なんだよ模擬試合でわざと負けるとか。

戦争舐めてんのか?



好きな人と好いてくれる人は全力で守る。


シロとクロは俺を想ってくれている。俺の5年間を見ててそう結論づけた。

次の世界でそうなるかは分からないが、絶対に守ってみせる。



自分の強さを過信しすぎない。


目を見ただけで別の時空に飛ばされるとか訳わかんねえよとか愚痴らない。

ここは異世界なんだから。



俺はこれからもたくさん間違え続けるだろう。


「今までの自分を変える」という目的を達成する。

そのためにこの1000億年は有意義だった。

今までの自分と今の自分を見直すことが出来たから。


未来の俺を作るのは今の俺。

今の俺を作ったのは過去の俺。

時間は嫌でも進むから。前世で腐るほど思い知った。


“目的”のために“目標”を達成するんだ。



《ユニバース9の時空をマイナスへ、5年間巻き戻します》


世界が暗転する。









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ゼノ・ブレイカー〜戦い続けた英雄は魔法科学を使って異世界を無双する 午前の緑茶 @zecrora

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