1.謎生物?テリス

セリナさんがソファの近くにある小さなテーブルに向かい、お茶を入れ始める。ぬいぐるみ?はその間も静かに座りながらテレビを見ている。時折、俺の方をじっと見つめる。


「詳しい説明をいたしますのでこちらでお茶、いかがですか?」

彼女が微笑みながら言った。彼女の優しい言葉に、自然と席に着くように促される。


「はい、ぜひいただきます。」俺は頷きながら、彼女が用意しているテーブルへと向かった。テーブルの上には、さまざまなお茶とお茶菓子が並べられており、見た目にもとても美しい。


カップを準備しながら「テリスもお茶、飲むでしょう?」と優しく声をかける。もちろんと言わんばかりにぬいぐるみ?はその声に反応しながらソファからふわりと浮かび上がり、軽やかにこちらに向かって移動してきた。

見た目はどこかで見たような猫耳の生えた長い尻尾のぬいぐるみ。尻尾の先が淡く光っており、地面から浮いているようにしか見えない。


「え!?セリナさん!?ぬいぐるみが飛んでる!」俺は驚きで声を震わせた。


彼女の表情が微かに一瞬だけ曇るもすぐに微笑み、浮かんでいるテリスを指さした。「こちらがテリス、私の家族です。」

テリスは、その小さな体をふわりと浮かせたまま、ぬいぐるみと評され少し不満げな顔?をしつつ器用にくるりと回ってみせる。その様子に、ますます驚きと興味が増すばかりだった。


「あ…すみません。ぬいぐるみなんて言ってしまって…。テリスさん、ですね。」

大切な存在だと気付き、俺はすぐに頭を下げた。


「気にしないで。テリスは、私の魔法の実験から偶然生まれた存在で、とっても大事な人なんです。」


セリナさんが話し始める。お茶を注ぎながら、テリスを見守る彼女の瞳には、深い絆が込められている。

その説明を聞きながら、俺はますます驚きを隠せなかった。

「魔法…ですか? 本当に存在するんですね。いや、目の前でこう動いているのを見ると納得するしかないか…」

これまでの生活の中で、魔法なんてゲームや絵本の存在だと思っていたけど、まさか本物が現れるとは思ってもみなかった。


「そうです、実は私、魔法使いなんです。」

彼女がそう微笑みながら言うと、カップをテリスに手渡した。カップを受け取ったテリスは顔にカップを近づけお茶を飲むポーズをした。


「えっ、ちょ、ちょっと!」と驚きの声を上げながら、お茶を飲めるのか気になり釘付けになった。

テリスはお茶を飲みながら、お茶菓子を小さな手で摘んで人間でいう口あたりに運ぶ。その姿はまるで、上品なティータイムを楽しんでいるかのようだった。


「改めて、初めましてだな。私の名前はテリスだ、よろしく。」


「テリスは私にとって本当に大切な家族なんです。魔法界での生活が難しくて、私がこちらに来た理由の一つでもあるんですよ。」


俺は魔法界という発言に驚き、つい聞いてしまった

「魔法界!?それと魔法使いですって!?本当にゲームみたいだ!どういう感じなんですか!?」


彼女は微笑みながらも、少しだけ遠い目をしていたが、その質問には詳細に答えようとはしなかった。

彼女の表情に気づいたテリスが話題を変える為、口を開いた。


「それよりも翔、手伝いとして入ったからには教えることが沢山ある。ルールや注意点、色々と知っておいてもらう必要があるな。」


二人の反応から俺の質問が違いだったことに気づいた。テリスが話題を変えてくれたことに内心感謝し、話を聞く姿勢に変えた。


セリナさんが残りの事はテリスが説明するねと俺に言いながら、テリスに軽く微笑んで庭の方へと向かっていった。その背中が庭のドアを開け、外へと消えていく様子をなんとなく目で追ってしまった。


「セリナは確かに可愛いし、私の大切な家族だ。翔、簡単に手を出そうなんて考えるなよ?もしそんなことをしたら、どうなるかわかってるよな?」


テリスは真剣な顔を作り、軽く肩をすくめるような仕草を見せた。その表情には、少しの冗談と、しかし真剣な警告が混じっていた。

その後真剣な表情を崩し、緊張を解くように言った。


「それと翔、私にはタメ口でいいからな。そんなに堅くならなくても大丈夫だ。これから共に生活する仲なんだ。」


その言葉に俺は少し安心し、緊張がほぐれるのを感じた。


「さて、冗談はここまでにして、これから仕事について説明するぞ。バイトとしてしっかり覚えて欲しい。」

彼なりに色々気をまわしてくれてるんだろうな。なんて考えながら仕事の説明を受けた。

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テリスが簡単に説明を終えた後、少し肩の力を抜いた感じで話し始めた。

「今日は初日だから仕事内容はざっくりこれくらいでいいか。基本は雑務とかを任せることになると思うが、困ったことがあれば、気軽に相談してくれ。」


テリスは話しながらも、ふといままでの生活を思い出したのか、苦笑いを浮かべると、俺に向かって続けた。


「実はな、セリナは生活能力は壊滅的に…残念なんだ。家事はいままで私が全てやってきたし…特に食事は絶対に作らせないでくれ。」


テリスはその言葉とともに、何かを思い出したのか、苦虫をかみつぶしたような表情になった。彼の顔には、長い間の苦労が色濃く現れていた。


「そんなに酷いのか・・・?」と尋ねると、テリスは目を大きく見開き、まくし立てるように言った。


「あれは本当に酷い!洗面台からは水が噴き出し、汚れは何故かどんどん増えていくし、キッチンは文字通り戦場になる!」


テリスの言葉には、これまでの苦労が込められていた。彼はまくし立てるように続けた。


「特に料理だ! あれは本当に酷い!料理を作るときは、まず味見をしないし…それに!健康にいいからって薬草を考えもせずに入れるもんだから、なんだか謎の香りが漂ったりするんだ。」


テリスが話す様子に、主人公は思わず目を丸くした。テリスは続けて話すにつれて、事態の深刻さを表すように表情を曇らせてゆく。


「それに、私が気を抜いていると、気を利かせて料理を作ってくれるんだ。だが、その中に何が入っているか分からない…例えば、この前は料理に『謎の----』が入ってて、口に入れた途端にあちらの世界の味がしたんだ。甘いのか酸っぱいのか、辛いのか…もう、何が何だか分からない感じで!」


食材の言葉はよく聞き取れなかったが、テリスがどこかコミカルな感じでセリナさんの料理の酷さを語っているのが面白く、さらにその情景が目に浮かんで俺は吹き出した。

テリスは肩をすくめて続けた。


「だから、セリナさんが料理をしようとしたときは気をつけてくれ。何かおかしいと思ったら、すぐに俺を呼べ。…イメージと違うだろうけが、これはこれで仕方ないんだ。」


テリスの言葉には、セリナに対する苦労がにじんでいた。俺は苦笑しながらも、その姿には彼女への深い理解が感じられた。

「なるほど、苦労してるんだな。」


「安心しろ。翔もすぐこちら側だ。お互いに助け合っていこう。」

その顔はどこか道連れだと言っているような気もした。そうならないように気をつけよう。

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