1.普通じゃないシェアハウス
次は脱衣所へと案内してくれた。廊下を進むと、清潔感のある空間が広がっていた。壁には柔らかい色合いのタイルが貼られており、落ち着いた雰囲気を感じさせる。洗面台には大きな鏡が取り付けられていて、シンクは広く使い勝手が良さそうだ。洗濯機が一台置かれており、脱衣所としての機能もしっかり整っている。
「こちらが洗面所と脱衣所です。朝の準備や洗濯はここで行ってくださいね。」
セリナさんは説明を続けながら、浴室へのドアを指差した。
「そして、こちらが浴室です。疲れたときにゆっくりお風呂に浸かってリフレッシュできますよ。」
俺は一歩前に進み、浴室を覗き込んだ。浴槽は意外に広く、壁には木目調のパネルが施されている。シャワーエリアも十分なスペースがあり、リラックスできそうな空間だ。全体的にシンプルでありながらも、居心地の良さが感じられるデザインだった。
「脱衣所も広いですね。これなら何人かが同時に使っても問題なさそうです。」
「はい、皆さんが快適に使えるように、少し余裕を持たせてあります。」
彼女の言葉に頷きながら、俺は洗面台や脱衣所の設備に目をやった。すべてがきれいに整えられており、生活する上での利便性がしっかり考えられているのがわかる。
「ここなら、ゆっくりお風呂に入るのも楽しみですね。」
「そう言ってもらえて嬉しいです。日々の疲れを癒してくださいね。」
その言葉には、住人のことを大切に思う気持ちが感じられた。
案内でラウンジやキッチン、そして洗面所を見た後、庭へと案内された。
セリナさんがゆっくりと庭に面した扉を開けると、外から心地よい風が吹き込んできた。続いて外へ出ると、俺は目の前の光景に思わず感嘆の息を漏らした。庭は広くはないが、細かいところまで丁寧に手入れがされており、まるで小さなオアシスのようだった。
「ここが庭です。私はガーデニングが好きで、休日にはよくここで時間を過ごしています。」彼女が誇らしげに説明する。
庭にはさまざまな種類の植物が整然と植えられていたが、正直俺にはそのほとんどが何なのか分からなかった。
特にハーブらしき植物が多く見られるが、名前を聞いても恐らく分からないだろう。しかし、そんな知識不足でも、この庭がとてもきれいに整えられていることは一目で分かった。
ハーブの緑と、花々が咲き誇る色彩のコントラストが美しく、庭全体に漂う香りが心を落ち着かせる。
小さな木製のベンチが一角に置かれていて、ここに座って静かに過ごす時間が想像できた。
「手入れが大変そうですね。でも、とてもきれいで落ち着いた空間ですね。」
「ありがとうございます。ここでリラックスするのが私の楽しみです。」
彼女は微笑みながら答える。その笑顔には、この庭をどれだけ大切にしているかがよく表れていた。
庭の奥にはガーデンシェッドがあり、少し古びた木製の扉が目に入った。扉が少し開いていて、中には階段が見えるのが気になったが、俺たちは再び屋内に戻った。
特撮の音が漏れていたリビングが最後の案内場所だということを思い出し、俺の心は少しだけ弾んでいた。
セリナさんは「次はリビングを案内しますね」と言いながら、廊下を進んだ。リビングに近づくにつれ、さっきから聞こえていた特撮ヒーローの戦闘音が大きくなってきた。
リビングに入ると、そこには広々とした空間が広がっていた。
木製のハイテーブルと椅子があり、食事や作業にも使えそうだった。少し離れたところには、大きなローテーブルと、それを囲むように配置されたふかふかのソファとぬいぐるみ。さらに、壁には大きなテレビが掛けられていて、画面には特撮ヒーローたちが激しく戦うシーンが映し出されている。
「このリビングは、住人たちが集まる場所です。テレビを見たり、自由に使ってくださいね。」にこやかに説明する。
ふとセリナさんの方を見ると、特撮の激しい音と彼女の優雅な雰囲気がなんだか妙にミスマッチに感じた。もしかして、特撮ヒーローが好きなのかな?なんて考えが頭をよぎったが、彼女はそのまま特に気にする様子もなく話を続けていた。
「…という感じで、ここがリビングです。特にルールはないので、気軽に使ってくださいね。」
俺は部屋全体を見回しながら「ここでどんな時間を過ごすんだろう」とぼんやりと考えながら「特撮が好きなんですか?」と聞こうと口を開けた瞬間、突然テレビのチャンネルが変わった。さっきまでヒーローたちが激しく戦っていた画面が、突然、穏やかな料理番組に切り替わったのだ。
一瞬、頭が真っ白になった。俺たち以外に誰かいるのか? リビングには俺とセリナさんの二人と、ソファの上に座っているぬいぐるみだけだ。
「今、何が…?」思わずつぶやいたが、セリナさんは穏やかに微笑んでいるだけで、特に気にしている様子もない。
俺が戸惑っていると、セリナさんがふと視線をソファに向け、「そういえば、彼をまだ紹介していませんでしたね」と言った。
その「彼」という言葉に驚き、ソファの上のぬいぐるみを見ると、まるで反応するかのように、その小さな体がふわりと動いた。
「こちらはテリスです。私の大切な家族で、このシェアハウスで一緒に暮らしています。」
セリナさんが紹介すると、ぬいぐるみ――いや、テリスが小さな手を軽く振って、にっこりと笑ったように見えた。
「初めまして、君がアルバイトとして手伝ってくれる人だな?よろしく。」
俺は完全に固まった。耳に届いたのは、想像とはまったく違う、低く落ち着いた声だった。ぬいぐるみの外見とはあまりにギャップのあるその声に、俺はさらに驚いて言葉を失った。
もう頭の中が混乱して、現実感が薄れていくのを感じた。ぬいぐるみが、動いている――いや、話している。信じられない光景に、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
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