第2話 帰りてぇ

 現在、俺は中層である27階層にいる。ダンジョンは大まかだが、1〜20階層までが上層、21〜40階層までが中層、41〜60階層までが下層、それ以降が深層となっている。ちなみにこの基準は最も攻略が進んでいる新宿ダンジョンのデータから作られている。ダンジョンが何階層あるのかわからないのに基準を作ってしまっていいのかとは思う。


「さて、この辺で探知サーチ


 俺の魔法の一つの探知サーチ。俺から一定範囲内の生物や物などの位置がわかる。


「そろそろだな」


 そう言っていると、目の前に巨体が現れた。

 茶色かかった筋肉質な身体に、豚のような顔、明らかに人丈はあるバトルアックス、間違いなくこいつがオークキングだ。


「さっさと終わらせて寝てぇんだよ!」


 イライラが募っていたため、俺はオークキングに向かって一直線に駆け出す。


「ブモォォォ!」


 オークキングは咆哮し、その周りに取り巻きのオークナイトとオークメイジが現れる。


「さっさと失せろよ!飛影鎌!」


 取り巻きのオークナイトが盾を構え、オークメイジが魔法を展開しようとする……が、取り巻きは全員一瞬で首を落とされ灰と化す。オークキングも流石に理解できなかったのか、その場で立ち尽くしている。

 これが俺のよく使う攻撃魔法の飛影鎌。

 影を鎌の形にして、高速で相手に飛ばす技だ。


 ダンジョンが現れてから人々の身についた魔力は、消費することでダンジョン内で魔法を使える。

 魔法は誰でも練習すれば使えるものもあれば、才能の有無で変わる魔法もある。身体強化などは練習すれば使える魔法に該当する。

 魔法は火・水・風・雷の基本四属性があり、それとは別に特殊な魔法もある。


 他に不思議な力としてスキルがある。

 スキルは数多くのものがあり、世界でも全ては把握できていない。

 スキルの中には希少性の高いものもある。

 また、極稀に普通のスキルに収まらないような、自分しか使えない固有スキルであるが発現する人もいる。


「面倒な雑魚敵を先に始末するのは当たり前だよなぁ!」


 そう言ってオークキングに駆け出す。オークキングは斧を振り回して攻撃してくる。先ほどナイトを倒した際に剣が落ちたため、その剣を拾って対応するが、剣が衝撃に耐えられずに砕けてしまう。


「流石のパワーだな。とりあえず影置シャドウストレージ


 そう唱え、魔法を発動し、刀を取り出す。

 影置シャドウストレージはいわゆる収納魔法で闇属性。この魔法は、本人の魔力量によって収納量が増えるのだが、魔力がかなり多くないとまともに使えないため、ほとんど使っている人を見ない。俺は魔力がバカほど多いため、倉庫としていつも使っている。ちなみに、時空間魔法を組み合わせることで、食べ物なども保存が効くようにしている。正直、一番使っている魔法だ。


「ブモォォッッ!」


 叫びながらバトルアックスを振り回すが、俺は軽々と避ける。


「これで終わりだ」


 俺は刀を構え、隙を見せたオークキングの懐に入った。

 次の瞬間にはオークキングの首を切り落とす。オークキングは切られた事に気付いていないのか、叫び声も上げずに灰と化す。

 その場には、かなりデカい魔石とオークキングの肉が落ちた。


「ラッキー!こいつの肉マジで美味いんだよな」


 モンスターは基本的に魔石を落とすが、それとは別にドロップアイテムを落とすことがある。

 ドロップアイテムが落ちる確率はかなり低いが、それだけの価値がある。

 ドロップアイテムはモンスターが強ければ強いほどいいものになる。

 そして今回のオークキングはAランクモンスターと、多くの人から見れば化け物のようなものである。そのドロップアイテムなのだから、その価値は極めて高い。

 たしか、オークキングの肉はその希少性から、ほとんど市場にでていない。高く見積もっても一キロで数十万は行くはずだ。

 そして、価値があるという事はそれだけこいつが美味いという証明にもなる。


「何で食べよっかな〜。厚切りのトンカツ?いや、生姜焼きも捨てがたい。あえてのトンテキも良いな!」


 オークキングの肉が落ちたことで、笑みを浮かべてホクホクでスキップしながら帰還する。俺は中層の21階層に降りるまでずっと飯のことを考えていた。


「何でも多分上手いよなぁ。一体どう料理しようk……ん?」


 何処かから見られてる気がする。


「……まあいいか」


 俺くらいの年齢でダンジョンに行ってる人間はほとんどが1階層からでないし、他の層にいる奴なんて滅多にいないからな。物珍しさで見たんだろう。

 そう勝手に決めつけて止まっていた足を再び動かす。



———————————————————



 ダンジョンから戻ると、受付の職員が出迎える。


「お疲れ様です」

「依頼を完了したんだが、川崎さんを呼んでくれるか?」

「少々お待ちください」


 そう言われてしばらく待っていると会議室に案内される。中には川崎さんがコーヒーを飲みながら待っていた。


「さすがですね、この短時間で依頼を終わらせるとは」

「こっちが死にかけながら依頼を遂行している間にそっちは優雅にコーヒーですか」

「嘘をつかないで下さい、深層のモンスターくらいでないと貴方が死ぬ可能性とか存在しないでしょう」


 そのセリフから俺のことを理解してくれていることが伝わってくるので、少し嬉しい。


「本当に貴方が復帰しないことが惜し、」

「じゃあお金はいつもの口座に振り込んでおいて下さい。お疲れ様でした」

「……了解です。それではお疲れ様でした」


 別れの挨拶をすまして、家に帰る。

 何か食べる気にもなれず、今日はそのまま床に就いた。


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