俺はもう一度、ダンジョンの先に進む 〜活動を復帰しようと思います〜

矢見山空御

第1話 依頼

「ま〜た仕事だ」


 ダンジョンなんていう摩訶不思議なものがこの世界に現れて数十年が経過したらしいが、社会は少し変われど人々の生活はそこまで変わっていない。ただ強いて言うなら【探索者】とかいう職業が新たに生まれ、一般化しているだけだ、あと火力発電が無くなったくらいだ。なんでもダンジョンにいる魔物が落とす魔石には莫大なエネルギーが存在しており、魔石にあるエネルギーを発電に使ったほうが効率がいいそうだ。


「にしても、高校生の俺を働かせるとは探索者協会も大変なんだろうね〜」


 現在、この日本には、まあ海外にもあるが探索者協会というものが存在しており、そこで探索者やダンジョンの情報を管理している。

 まあ、一箇所じゃ足りないから支部がたくさんあるわけだが。ちなみに、日本では最初に発見された新宿ダンジョンに本部が置かれている。


 ただ、今はダンジョンが日常の一つになってきているが、昔は大変だったらしい。なんでも世界の終わりだとか、地球に害をなす人類への神々の罰だとか色々騒がれていたらしい。おまけに魔物とかいうファンタジーだけだった存在が現実で確認された事により、ダンジョンの外にまで来て侵略してくるとか、現実から逃げたい人がダンジョンに入って行って行方をくらませたり、世界各地でデモや暴動が起こるくらい大変だったそうだ。

 しかし、ダンジョンから魔物が出てこないとわかり、さらには魔石にエネルギーがあり、化石燃料の代わりのなるとわかれば、それぞれの国家は総力を上げてダンジョン攻略に走り、今では国が国民にダンジョン攻略を勧めるようになった。

 また、ダンジョンが現れ始めてから、人々に魔力と呼ばれる力が発現していったらしい。

 これらに関しては国が調査しているが原因は不明である。


 学校が終わったので、そんな事を考えながら立川ダンジョン支部に入っていく。中に入ると受付嬢が他に聞こえないくらいの声で話しかけてくる。


月夜湊つきやみなと様ですね。どうぞこちらへ」


 そう呼ばれ、会議室まで案内される。


「お久しぶりですね、川崎さん」

「ええ、お久しぶりです、湊様」


 俺を会議室まで案内してくれたのは受付嬢兼職員の川崎さん。俺の専属の職員だ。俺の秘密も知っている。ちなみに美人で、26歳ながら人妻だ。


「それにしても美人に様付けされるのは心苦いいので様付けやめません?」

「これも仕事ですので」


 う〜ん、軽くあしらう姿も凛々しい。だから彼女を狙う人が多いのだろう。……人妻だけど。


「それでは依頼の方に入らせていただきます」

「……」

「この新宿ダンジョンは上層・中層が他のダンジョンと比べて比較的安全なのですが、今回はそのうちの中層でAランクモンスターのオークキングが確認されました。オークキングは今まで下層のうち45階層から下の層でしか確認されませんでしたが、今回は28階層で姿が確認されました。そのため、新宿ダンジョン支部はこれをイレギュラーだと認定し、湊様に依頼させていただきました」


 ダンジョンの魔物はその強さを段階別で表している。ランクはA〜EとSで分けられており、EやDは上層のレベルで初心者が相手できるような強さ。C、Bは中層レベルで中堅くらいの人が相手するようなやつだ。Aランクは下層のレベルでかなりの玄人が相手をする魔物だ。そしてSランクはAランクの魔物すら遥かに凌駕するような強さの持ち主だ。その強さは玄人が数人がかりでも相手にならないほどだ。そしてイレギュラーはダンジョン内で起こる特殊な現象だ。基本的にモンスターは自身のレベルに合う階層に生息しており、その階層周囲以外に移動することはない。しかし、イレギュラーが起こると魔物の行動が変化し、活動が活発になったりする。そのため、強い的が少なく、初心者が集まる上層に強い魔物が移動することがあり、多くの人が亡くなる原因になる。まあ、これ以外にも自身が突然別の階層に飛ばされたりなどの現象もあるが、とにかくイレギュラーは危険なもので早急に対処しなければならないものなのである。


「つまり、今回の依頼はイレギュラーのオークキングの討伐と言うことか?」

「ええ、それに加えて上層と中層で変なところがないから調査をしていただきたいのです」

「……調査ですか?」

「ええ、何か問題がありますか?」


 と笑顔で答える川崎さん。いや、笑顔でも許されないぞこれは。だって……


「調査って時間が掛かるんですよ!」

「ええ存じております」

「存じてるなら俺に回すな!俺、ようやく久しぶりに学校に行けたんですよ今日!一昨日までは回復薬を作るための素材が枯渇してるって言われて、二日間ダンジョンに籠ってたんですよ!頼みますから俺以外の人材を用意して下さい!」

「……久しぶりの学校は楽しかったですか?」

「そりゃもちろん!……嘘です、俺友達ほとんどいないんで」

「友達を作ればいいじゃない」

「学校に行けてないんですよ!」


 俺の悲痛の叫びが会議室に響く。まじで頼むから、ちゃんと休みをくれ。


「そんなこと言われましても、そもそもこの武蔵村山ダンジョンは難易度と人材が釣り合っていないのです。私もちゃんと本部に人材派遣の申請をしていますが、本部は『こちらも人員が足りていないため、各支部で対処して欲しい。』しか言わないんですよ」

「それでも限度があるじゃん!俺、自分以外でここのダンジョン調査している人材なんて聞いたことないですよ!」

「……現在、この立川ダンジョンはイレギュラー・調査の五割ほどを湊様に依頼しています」

「それもう依存じゃん」


 ……本当にどうにかして欲しい。

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