第6話 歴史のお勉強
――当家に仕える気はあるか
信長に仕える…その選択肢も考えないではなかった。
戦国の風雲児たる信長と共に戦場を駆ける、そして身近でその偉業を見守る。歴史好きの政武からしてみれば、それは夢のような出来事だ。
ただそれには様々なリスクも伴う。悩み所だった。
一方の信長は政武にこんな事を言いながら、胸中では別の事が占めていた。
名乗った覚えは無いのにこやつはなぜわしの名を知っていたのだ?今から数百年前の名が残っている人物…わしが知っていてすぐに名前の浮かぶ人物など多くても両手を出んぞ。
わしには天下という大望がある。とはいえ今のところこの時代でさえ無名に近い存在だ。家中の者にはこの会見のために極力こやつと話をしないように、こやつに情報を与えないように指示したから、家中から漏れたという線は薄い。
那古野出身のようだし、同郷故に知っているという可能性もあるが、はてさて…。
そして
「…とても魅力的なお誘いですが、それをして良いのか分からないのです。」
「というと?」
「まず一つに大きな過去改変は自己の消滅に繋がる可能性があるという事です。
これはどういう事かというと、信長様がこの先も大小様々な戦をする事があるのは容易に想像が付くと思います。勝敗は兵家の常と申しますしこういう例えをお許しいただきたいですが、信長様も時には負けたり引き分けたりという事もあるかと思います。そういった結果になる予定だった戦が私の助力で史実と違って敵を全滅させる程の大勝利をしたとします。その全滅した敗軍兵の中に私の…例えば何十代か前の祖先がいたとしたら、私が生まれるという未来がなくなって、その瞬間私は消滅するのではないかという恐れがあります。」
「ふむ…だが、そなたが生まれる未来が消滅した瞬間に、
『そなたが未来から来てそなたが生まれない歴史を選択した』
という事実も消えるのだから大丈夫。という考え方も出来るのではないか?」
「…んー、そういう考え方もあるとも言えそうです…しかし、何か禅問答みたいですね。」
「全くだ。しかし、それにしてもわしが勝てないであろう戦――そちの視点だとわしが勝てなかった戦となるのか?――をお主の力で大勝利にするとは大きく出たな。」
「正確には私個人の力ではなく、私の持つ歴史の知識ですね。例を挙げますと、せんごひゃ…ええとその前に元号の話をします。日本では今年が何年かというのを『大化何年』みたいに天皇陛下が示された年号で表現をしますよね。これを和暦といいまして、後世で有名なのは、『大化の改新』が行われた『大化』や『建武の新政』が行われた『建武』でしょうか。
ただし、これは国内でしか通用しないので、南蛮が決めたのですが世界基準の元号として西暦というある人物の生誕を紀元元年、それ以前は紀元前何年という表現が使われています。なんでそうなのかを話すと長くなりますので、そこはそうだと思ってください。
ちなみに、私がいた世界は西暦2019年、和暦ですと令和元年となります。」
「今は弘治元年じゃな。」
「弘治元年…和暦だと、今がいつなのか私にはちょっと分からないですね。信長様は源頼朝公が鎌倉に幕府を開いたのはご存知ですか?」
「当然じゃ。」
「頼朝公が幕府を開いたのが西暦でいうと1192年となっています。
元寇があった文永の役が西暦1274年、弘安の役が1281年。あ、これも和暦ですね。
鎌倉幕府が滅びたのが1333年。」
たまに信長様の方見るが頷いている。「もちろんその歴史的事実は知っているぞ」という意味だ。
「足利尊氏公が室町幕府を開いたのが1338年。
応仁の乱が1467年。」
段々とこの時代に近付いてきているせいか、頷いている信長様も心なしか熱が上がっている気がする。
「種子島に鉄砲が伝来したと言われているのが1543年。
…桶狭間の戦いが1560年。」
桶狭間の戦いでは、信長様は少し考えこむような素振りをしている。思い当たる節が無いからだろう…やはりそれより前の時代だったか。
織田信長由来の歴史上の一大イベントである桶狭間の戦いが、本人に思い当たる節が無いという事はありえないだろう。信長様がだいぶ若そうに見えるから桶狭間の戦いより前ではないかとは思っていたのだ。
「室町幕府が滅びたのが…」
ここでチラッと信長を見る。驚きに目を見開いているようだ。
「1573年。」
信長様は目を開いたまま色々と考えを巡らせているようだ。
鉄砲伝来から年数を逆算していつ頃起きるのか計算しているのかもしれない。
続けよう。
「本能寺の変が1582年。
ごにょごにょ…が、天下統一するのが1590年。
天下分け目の決戦、関ヶ原の戦いが1600年。
ごにょごにょ…が、征夷大将軍に任ぜられ江戸に幕府を開くのが1603年。
その江戸幕府が滅ぶのが1867年。
この辺りまでが信長様の興味がありそうな主な歴史でしょうか。
正確な年は分かりませんが、現在は西暦でいうと1550年半ばから後半あたりではないかと思われます。」
信長様は、室町幕府の滅亡を脳内で色々と描いて興味がそこに集中していたようだが、天下統一と江戸幕府を開く部分は関心が大きいのか反応していた。
少し黙り信長様の反応を窺う。
「現在も虫の息とはいえ室町幕府の滅亡、ほんの十数年先なだけなのだな。」
「ええ、そうですね…(貴方が滅ぼしたんですけどね)」
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新作書き始めたので、以前なろうに掲載した作品を多少の改稿をして新作宣伝用に投稿します。本作は全19話で、全話投稿済です。よろしくお願いします。
↓新作です
何度倒してもタイムリープして強くなって舞い戻ってくる勇者怖い
https://kakuyomu.jp/works/16818093082646365696/episodes/16818093082647161644
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