第3話 きっかけ
アセロンとルーカスは、突然のことに再び呆気にとられていた。それもそうである。森の奥深くで異形のモンスターを狩ったと思ったら突然謎の女が現れて、そのモンスターの死骸をじっくり観察しているからである。
「こんな所で何をしている!危ないだろう!」とアセロンは我に返って言う。その謎の女は、顔がフードで隠されており目が見えないものの、アセロン達の方を見てこう言った。
「これ、あんた達がやったの?」
「そうだが・・・それがどうしたんだ?」とアセロンは返した。
アセロンとルーカスは、目の前に広がる不思議な光景に嫌な予感がしていた。
そして謎の女はこう言った。
「いや、あんた達がやったのなら・・・殺しとかないとなって」
そう言ってその女はフードを上げて歪な槍を持ち、殺気と共に二人へ向けた。
二人は背筋が一瞬にして凍り付くのが分かった。先ほどのモンスターとは比べもののない程の威圧感が、彼らの足を掴んで離さない。
次の瞬間、その女はアセロンの目の前にいた。とっさに防御をするも、その槍の一撃は凄まじく、吹き飛ばされてしまう。
アセロンは飛ばされた先にあった木に叩きつけられた。歪む視界、遠のく意識。それでも一瞬で持ち直す。
「・・・」明らかに人間では無い速度に理解が追いつかないルーカスに、その凶槍が襲いかかる。だが紙一重で回避する。
「へぇ・・・」と自分の攻撃を避けたことに関心する女。
そして瞬時に攻勢へと転じるルーカス。女の後ろからは、立て直したアセロンがその大剣を振りかざしていた。しかし、女には当たらない。
そこからは二人の怒濤の攻めが繰り広げられた。しかし、全ての攻撃はかすりもせず簡単に避けられる。それに比べて二人の体には傷が増える一方だった。
そして女がアセロンに向かってナイフを投げる仕草をした。それをアセロンが回避しようとした瞬間――
何者かの一撃がアセロンの体を抉った。
その攻撃により、アセロンはナイフの投擲攻撃を左目に受けてしまった。女はすかさずに刺さったナイフへ膝蹴りを加えた。
ルーカスが謎の攻撃へ目を向けると、自分たちの手で仕留めたはずの異形からその一撃が放たれていた。
異形は生きていたのだ。
「こいつ・・・!!」瞬時にルーカスが異形へとどめを刺した。
そしてアセロンの方へ視線を向けるとそこには、左腕が無くなり、左脇腹は抉れ、頭部の半分が吹き飛んだ見るも無惨な死体があった。
女と目が合った瞬間、ルーカスの心の奥が燃え上がり、全身に伝わる熱になる。奴が、アセロンを殺した。自分の兄弟同然の相棒を、この女が奪ったのだ。
「貴様・・・アセロンを・・・!」
ルーカスは一気に距離を詰め、剣を振り下ろす。この鋭い一撃ですら、ひらりと躱され、刃は空を切る。
「遅いよ、ルーカス君」
嘲笑するかのように、ルーカスの攻撃を軽々と避ける。そして、その返しとして繰り出された一撃が、彼の肩を貫く。
「ぐぁっ・・・!」
痛みが走るが、歯を食いしばって耐える。自分の痛みなどどうでもいい。今は、この女を倒すことだけが頭にある。
「もう終わりにしよう。いい加減飽きてきた」
女の無慈悲な台詞の後、ルーカスの全身が串刺しになった。
「ッ・・・!」
ルーカスは地面に倒れた。もはや血が流れる感覚すら無い。
彼は村のみんなのことを思いながら、深い意識の中へ沈んでいった――
「今までで一番しぶとかったかな」と、女は言い残してこの場から消え去った。
二人のハンターの人生がここで幕を閉じたのだった・・・
森に静寂が訪れた時、異形の死体が突然動き出した。まるで何かを追うように、全身を引きずりながらアセロンの元へ進んでいく。
異形がアセロンの元へたどり着き、その体を起こす。全身からは血液は滴っており、アセロンの亡骸を真っ赤に染め上げる。しかし、異形は途中で力尽きてしまった。
何をしたかったのか定かでは無いが、異形が最期に目にしたのは、ピクリとわずかに動いく、アセロンの指だった。
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