第2話 中学3年生 冬
「絶対落ちてると思う。」
公立高校合格発表日、私は移動中の車の中で嘆く。冬の日差しがまぶしい朝だった。
「そんなの見るまで分からないでしょ」
と顔色の悪い心配そうな母。もしかしたら一番緊張しているのはこの人かもしれない
「まあ落ちたらそのときだよ。」
あえてなのかはわからないが、楽観的な父の声。社内にはKingGnuの「泡」が流れている。“ぱちんとはじけて泡のように消えた”かなり縁起が悪い歌詞だ。そんなこと気にしている余裕はない。少しでも音楽で緊張を解きたい。こちとら人生がかかっているのだ。
高校の最寄り駅周辺に到着した。ここまで来たら覚悟を決めるしかない。試験の出来に自信はないがこの一年間未曽有のウイルスに耐えながら頑張ってきた自負はある。志望校の県立八万田高校に続く一本道を足早に歩く。午前十時からの発表で現在は十時二十分なのでとっくに見終わって帰ってきている人もちらほら見受けられる。満足そうに笑っている顔、悔しそうに泣いている顔、様々な顔が私の前を通り過ぎる。
そして着いた校門の前。父が言う。
「ここで待ってるから零依見てきなよ。」
一気に上がる心拍数。私は黙って掲示板の方に歩き出す。薄目で数字を追う。”1010”そこには確かに私の受験番号がある。受かった。一気に緊張が安堵に変わる。校門の方に戻ると緊張した面持ちの父。
「なんか受かってたんだけど!」
精一杯の平静を保って報告をする。みるみる父の顔がほころぶ。
「俺も見に行きたい!」
と少し興奮気味の父。もう一度父と二人掲示板を見に行き笑いあった。そのころ母はや緊張しすぎでトイレに駆け込んでいた。やはり一番緊張していたのは母だった。笑える。
この時の私は高校生という存在に強いあこがれを抱いていた。いや、青春というものに強い憧れがあるごく普通のJCだった。高校生活がスタートして一瞬で絶望を知ることさえもここでは知らずに家族と笑いあいながら帰る。今思うと終わりの始まりとはこういうことなのかなと思う。ここから日常に溺れる沼のような日々がスタートするのだ。
端役して。 @rui-hanada
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