家鳴り

繍 nuitori

家鳴り

「うちって家鳴り結構するよね」

「どんな感じ?」

「カタカタって感じ」

「風の強い日はするかも?」

「なんか違うけど」

夕食時に言ってみたが、誰も同意はしてくれなかった。

「夜中でも誰かしら起きてるからね」



転勤で実家から出て一人暮らしを始める事になった。行く先は家具等がある程度は備え付けられている為、身の回り品だけを持って行けば良い。引越しのダンボールに詰め始めるとあっという間に準備は終わってしまった。


階下にダンボールを降ろし、雑多な荷物の無くなったこの部屋を見回し、数日後には出ていくのだとしみじみ思いながらもベットに入ればあっという間に眠りに落ちていった。


今日も部屋のどこかでカタカタと音がする。

目覚めてはいない頭で思う「まただ・・・」

多分いつも同じくらいの時間だと思うが、思っただけ。それ以上気にもせずまた眠りに落ちて行った。


昼間、ふと思い出して、その音の出処を探し始めた。

金属でも木材でも無い、プラスチックがぶつかる様な音。


「プラスチックの使われている場所はどこだ?」


部屋の中をウロウロしていると、同じ音がした。「どこだ?」と探せば、壁に立て掛けてある鏡の縁が僅かに照明のスイッチカバーにぶつかる音だった。

そのまま置いてある床のある一箇所をふむとカタっと音がする。そこを歩いてみる・・・違うな。その場で足踏みしてみる。カタカタ・・・「あぁコレか」と音の原因が解りスッキリした。何となく床に軋む箇所があった事に納得したけれど、今夜は起こされたくないので鏡の位置は変えておいた。



部屋を整え、新幹線の時間を確認し、荷物を持った。

最後に鏡で全身チェックしていてはっとした。

なぜ気が付かなかったのだろうか


あの時間に

あの場所で

誰かが足踏みをしていたんだって事に。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家鳴り 繍 nuitori @kuringon99

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ