僕は「預言者」だった。

@bagabon64

第1話 僕の持っている特殊な妄想

 僕の名前はマロン64。おそらく小学生の頃には統合失調症を発症し、幻覚や幻聴、幻触とともに生きてきて、それが普通だと思い込んで、24歳まで生きて、病名がやっと分かった、今年で30歳になるおっさんだ。


 おっさんなのに僕という一人称はおかしいと思われるかもしれない。安心して欲しい。俺と言う人格もいるからさ。こいつ多重人格なのかよ、と思われたあなた、それはある意味正解で、ある意味不正解だ。


 これは一般的な証拠のある情報ではなく、ただの自分の思い込みなのだが、元々人間には大人格という一つの器の中に小人格とも言うべき、人には数十個もあるかもしれない、小さな人格が潜んでいると思っている。


 日々同じルーティンで暮らしているのに、日々体や心の調子が違うのはなぜか? 有名なスポーツ選手、例えば野球選手がサヨナラホームランを打った翌日の試合で全く結果を残せないのは何故か? 


 それは僕の見立てだと、その野球選手の小人格が入れ替わったのだと思う。サヨナラホームランを打って、満足してしまったのか、その次の試合で次もホームランを打ってくれるという期待に押しつぶされてしまったのかはわからない。


 ただ、その人格によって何かの物事に対する得意、不得意が分かれるのだろうと思う。そうでもなければ調子が良い、悪いの根拠になるものがないからだ。まあここまで野球選手について語ったが、この話に根拠はない。正しくこの言葉に尽きるのだ。知らんけど。 


 僕は物事に何かしらの理由を求めるタイプだからこのような妄想をしてしまう。だが恐らくは統合失調症の症状によるものだ。ここで統合失調症という病気の説明をしておこう。




統合失調症の症状(あるサイトから引用したもの、URL:https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=tQtLd1xVUp1wHJMQ


統合失調症の症状でよく知られているのが、「幻覚」と「妄想」だ。
幻覚とは実際にはないものをあるように感じる知覚の異常で、中でも自分の悪口やうわさなどが聞こえてくる幻聴は、しばしば見られる症状である。



 妄想とは明らかに誤った内容を信じてしまい、周りが訂正しようとしても受け入れられない考えのことで、いやがらせをされているといった被害妄想、テレビやネットが自分に関する情報を流していると思い込んだりする関係妄想などがある。



 こうした幻覚や妄想は、本人にはまるで現実であるように感じられるので、病気が原因にあるとはなかなか気づくことができない。
 


 発症の原因は正確にはよくわかっていないが、統合失調症になりやすい要因をいくつかもっている人が、仕事や人間関係のストレス、就職や結婚など人生の転機で感じる緊張などがきっかけとなり、発症するのではないかと考えられている。


 だが僕はおそらく幼い頃から幻覚が見えていたので先天的な統合失調症だと思っている。



統合失調症のサイン・症状


 統合失調症で多く現れる症状は幻覚や妄想だ。幻覚とは実際にはないものが感覚として感じられること。とてもはっきりと聞こえたり見えたりするために、脳の中だけで起きているとは考えにくい。



 妄想とは、明らかに間違った内容を信じてしまい、周りの人たちが訂正しようとしても自分では受け入れられない考えのこと。自分には聞こえたり、見えたりするのに、家族や友達、同僚、上司、医師などの周りの人たちが皆「そんなことはない」と否定するときには、幻覚や妄想の可能性がある。


 ここでめくるめく、僕の統合失調症の世界を紹介する。僕の場合の幻覚は目を瞑った時に無数の点が見えることだ。イメージしやすいように言うと暗闇の中で暗視ゴーグルをかけた時に、見える視界に近い。だけど暗闇の中でも視界が見えるわけではない。


 ただの無数の点が見えるのだ。それが蠢く《うごめく》様子は想像できるだろうか? ひどい時には点の渦になったり、自分の嫌いな人間の顔に見えたりする。そんな幻覚だ。皆さんはそれが目を瞑ると四六時中見える苦痛を想像できるだろうか。


 小さい頃はお星様が目の中に見えているのだと健気に思っていたが、大きくなって友達にそのことをいうと気味が悪いと拒絶された。思えばあの頃から自分が異常であることを自覚していたのかもしれない。ただ当時はそれが分からなかったのだ。


 そしてこのエッセイのタイトルでもある預言者という妄想に触れていこう。僕は小さい頃から予知夢を見ることが多かった。予知夢というと何かとても大きい出来事を見るかと思われるがそうではない。


 自分の日常の記憶を辿っていくイメージだ。僕は元々眠りが浅い体質で統合失調症の薬を飲むまで、いや飲んでからも夢はよくみていた。具体的な夢としては小3の頃に見た、ニンテンドー64のゲームの頃の画質で大好きだったウルトラマンにビルの窓の外からスペシウム光線でずっと狙われる夢だ。


 この夢を構造的に分析すると僕はウルトラマンに守られるべき一市民ではなく、ウルトラマンに倒されるべき小さな怪獣だという夢なのだろう。これは小さな頃からお前は普通ではなく、異常な怪獣なのだと言われていたのだと年をとった後は思ってしまう。


 預言者の話に戻ろう。僕は小学4年生の頃にはっきりとした予知夢を見た。時代的には2004年の秋頃だったと思う。この頃の夢はニュース番組をよく見ていた時の記憶が多かった……気がする。


 この時にどんな予知夢を見たかはもう覚えていないが、ふわふわとした感覚の中に心地よい何かに包まれて、情報を見ている感じだ。


 肝心の予言内容としては、その当時はなかったiPhone、つまりスマホの発売や2011年におきたアメリカ同時多発テロを見た……と思う。


 後は何だろう、当時はゴールデン帯で放送されていたワンピースのネタバレやジョジョの奇妙な冒険の漫画のネタバレをした覚えがある。もうどんなことを言ったか、当然だが覚えていないのだ。


 言ったのは小学生の頃に親しかったW君だった。その予知夢を話すまでは普通にゲームや外遊びをする、そんな友達。だがその子は困惑した声でこう言ったのだ。

「マロン64、お前、頭おかしいよ?」


 この言葉に驚愕したのは鮮明に覚えている。僕は予知夢を見たんだ! これは本当に起こることなんだ! だがW君の反応は正しい。頭が正常なものはそんな妄想をすることがないからだ。


 だからW君は気分が悪そうな顔で追い縋る僕を置き去りにして家に帰って行った。僕は帰り道にトボトボと帰りながら何が悪かったのかを考えていたが、『分からなかった』


 他にも「預言者」として数年後に起きる大きな出来事ではなく、数日後に誰々君とこんな話をするといった内容の夢もあった。そして、その度に既視感デジャブを感じた。


 「預言者」という特殊な妄想は厄介なもので自分がその予言をしたという記憶がなくなり、自分自身も言ったことを忘れてから起きてしまうものだった。


 そして予知夢の内容を言った相手も予言された内容は忘れてしまう。つまり言ったという証拠がないのだ。だから今は「妄想」だと断言できる。


 僕は思う。予知夢を見たという感覚になっていただけで自分の「記憶」がおかしくなっているのだろうと。僕は「預言者」ではなく、予言したという「存在しない記憶」と感覚をもっているのだろうと。


 なぜこの結論に至ったのか、この後に書く話で語ろうと思う。それでは少し前の話に戻ろう。


 今の現代っ子は小さな時からスマホやパソコンを触れるが当時はネットなんてものは知られていなくて、ガラケーも田舎では子供は持っていなかった。家庭用のパソコンもなくて、予知夢の内容を吐き出す先は友達しかいなかった。


 家族には話さなかったのか? と疑問に思う方もいると思う。そんなこと言えなかったし、家族には本音をさらけ出せなかった。なぜなら、学校や家族の前では真面目だけが取り柄の優等生だったからだ。でも人付き合いは不器用でよく吃る子だった。でも何事も一生懸命にやっていた。


 そんな誰にでも好かれる子供を必死で演じていた。なぜそんなことをしたのか、今なら理解できる。「普通」の子供になりたかったからだ。僕はウルトラマンに倒される怪獣ではないはずだ。でも「普通」が分からない。


 小さな頃から幻聴によく言われた。「明るい子供を演じているがその実面白くないウザい子供だ」「お前は何もできない能無しだ」「お前は周りの子供に嫌われている」と。


 最初の頃に話した統合失調症の症状にある典型的な被害妄想である。幻聴はこうした被害妄想の内容を言ってくることが多い。だからか分からないが僕はどれだけ友達と遊んでいても孤独感にさいなまれていた。


 だから「普通」の子供になれば、被害妄想はなくなる。そう思っていた。

意味がわからないという方も多いだろう。だが当時の僕はそんな「妄想」に取り憑かれていた。


だがそれは「個性」をなくす行為だと知った時にはもう「普通」からかけ離れた今でいう「陰キャ」になっていた。


 僕はいつも孤独で「陰キャ」な「預言者」になった。

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