第13話 譲れない想い
「本当は、あやめが死んでしまっても、善郎は血筋は良いからいくつも縁談はあったんだよ。でも、善郎は誰も
「…………」
「
八十年の時を
「……善郎さんが、
(あやめ、俺は必ず生きて帰る。だから待っていて欲しい)
(はい、善郎兄様。待っています。私は、いつまでも待っています――――)
「稔流」
さくらが、やっと稔流の方に向き直って、その黒い瞳に稔の姿を
「私の
さあっと、風が吹き抜けた。
日差しはまだ強いのに、どこか秋の
「死ぬよ。さくらが幸せだって笑ってくれるのなら、いつでも」
真っ白な
「ちょっとは
「
両親よりも先に稔流が死んだなら、きっと悲しみ泣くのだろう。
死産だった娘の名の
稔流は、どうして自分だけ生まれてきてしまったのだろうと、みのりの分の命まで
死んだみのりは両親にとって永遠の存在となり、生きている自分よりもずっと大切なのではないかとさえ思った。
でも、今は違う。
「誰を悲しませても、泣かせても、俺は、さくらと一緒にいたい」
ひとつひとつ、言葉を
「俺は、さくらが思うほど優しくないんだ。俺は、
さくらを
そのことに気付いただけで、こんなにも自分は幸福なのだと知った。
「……女を泣かせるな」
「ごめん。俺は優しくないから。でも、さくらにだけは優しくしたいって思ってるよ」
「知ってる。ばか」
「ばかでもいいよ」
さくらと再会してたったの三日。
その間に、稔流は長い時間と
「泣いてもいいよ。
そっと、抱き締めた。
「…稔流」
「何?」
「まだ、死ぬな。…まだ、
「うん、じゃあ死なないよ」
「…もっと、私と一緒に生きて」
さくらは、涙に
「私は、これから成長していく稔流を、
「うん…楽しみにしてて」
「…稔流は、
稔流は
「白は、何色にでも
「……だから、あやめさんの花嫁衣装は、黒地の振袖だったんだね」
もう、あやめは何色にも染まる必要はなかったのだから。人間として生きていた幼い頃から、善郎の色に染まっていたのだから。
「さくらは、白と黒と、どっちがいい?」
「私はどちらでもよい。稔流が
稔流は困った。神聖で初々しい白も、強く一途な黒も、どちらも…
「どちらも似合うし綺麗だ、などと
「……………………」
早く、大人になりたい。
でも、急がなくていい。
少しずつ成長してゆく、少しずつ大人に近付いてゆくその
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