第12話 許婚たち(三)
「座敷童は、生前のことを覚えていればその名を名乗る。あやめもそうだった。でも、あまりにも幼いうちに死んだ魂は、自分の身の上など覚えていない。私のように、二度も座敷童に
「二度も…?」
「…………」
その問いに、さくらは答えなかった。
でも、分かったことはある。
座敷童とは、短くとも『生前』という命を生きて死んだ者の果て。だから、座敷童はみな人間の子供の姿をしているのだ。
さくらは、生前の記憶を持たないほどの幼い子供だったか――――或いは、《みのり》のような水子だったのか。
神隠しの時、『なし』だったのは、名前を付けて
「戦争が始まると、満二十歳以上の男は
(わらじ足だから兵隊にも取られなかった)
稔流は、
「…わらじ足のこと?」
「ああ、《外》では
「…………」
敢えて孤立することを選んだ隠れ里では、いつからかわからないほど昔から、村の中だけで食べ物が回るように分け合ってきたと、この村に来る前に父から聞いた。
野菜は少し余分に作ってよそに分け、よそからは自分の家には無いものが貰える。おかずや漬物もそうだ。
一軒の家では
それが、濃密で
「あの時代、隠れ里は隠れ里ではいられなくて、村から志願兵を出すことになった。志願兵はもっと若くても志願出来たから。
さくらは語る。どうしようもなく悲しく、心が
「約束通り、善郎は生きて帰った。…でも、あやめはもう待っていなかった。あと少しで数え十五に届きそうだったのに、
――――座敷童という
稔流は、目が熱を持つのを感じながら、引き裂かれた恋人達を思った。
あやめは、どんな気持ちだったのだろう?いつでも傍に寄り添っていたのに、善郎は生きている間ずっと、気付くことは出来なかった。
「善郎は、長く生きたいとは思っていなかっただろうな。でも、あやめの元を旅立ってから八十年生きた。心根が優しくて強い男だったから、家の者からろくに
善郎の
(私ね…、ずっと、この時を待ち続けていたの。…このひとが、死んでくれるのを)
「善郎が死んだからって、座敷童のあやめと結ばれるかどうかもわからないのに、あやめはずっと善郎の死を待っていた。…姫神様が、数え十五ほどに成長したあやめのお祝いに、
「天道村の習わしで、数え十五で成人するから?」
「ああ。もう
まだ生きている愛しいひとの命を、
自分の姿を見てくれることはないかつての
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